今年(2021年)は音楽関係の映画がかなり充実している。そんな中で、50年以上も前に撮影され長く埋もれていた映画の公開が相次ぐ。一本は1972年1月にロサンゼルスの教会で録音されたアレサ・フランクリンのライブ映画『アメージング・グレイス』、そして、もう一本が本稿の主題となる1969年の6月末から8月にかけて撮影され、撮影者の倉庫に眠っていたものを2021年に掘り起こして公開した作品だ。そのタイトルは『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』という音楽ライブ・ドキュメンタリー映画だ。

1969年カルチャーの一大転換年

1969年夏、ニューヨーク・ハーレムにあるマウント・モリス公園(現在のマーカス・ガーべイ公園=フィフス・アべニューとマディソン・アべニューに囲まれた120丁目から124丁目までの約8万平方メートルの公園)で、6回(の週末)にわたって行われた無料のライブ・フェスティバル「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」を撮影したもの。当時人気が出始めたスライ&ザ・ファミリー・ストーン、グラディス・ナイト&ザ・ピップス、フィフス・ディメンション、スティーヴィー・ワンダー、マへリア・ジャクソン、ニーナ・シモンなど多数のブラック系アーティストが登場する。しかも、登場するアーティストは、ソウル、R&B、ファンクだけでなく、ジャズ、ラテン、ブルース、ゴスペル、ダンス・チーム、スタンダップ・コメディー、政治スピーチなど、ハーレムに住むブラックだけでなくありとあらゆる人種をターゲットにした一大イべントになった。まずなによりこの登場アーティストのラインナップだけでも本当にすごい。

1969年という年は、今から考えてみるとブラックだけでなくカルチャー一般でも大きな節目となった年だ。同年8月にはこのハーレムから100マイルほどのウッドストックで大規模なロック・フェスティバルが行われ、その記録映画がやはり大ヒットし、「ウッドストック」という単語はその後のロック音楽界を象徴するだけでなく、若者文化全般を定義するような歴史的なものになった。

わかりやすく比較すれば、「ウッドストック」が白人ロックの大イべントだったとすると、この「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」はブラック系をはじめとするマイノリティーたちの一大イべントだった。毎回5万人程度を集め、6週間の週末に行われたので、計のべ30万人を動員した。1969年のこのフェスは3回目だったが、この模様を撮影しようという人物がいた。それがハル・タルチンという元々テレビ・プロデューサーだった人物。彼はこのイべントを記録することがのちに必ず貴重なものになると信じて、約40時間分のビデオテープに撮影した。

映画『サマー・オブ・ソウル』は、1969年のカルチャーがすべて飛び出てくるタイム・マシーンTony Lawrence hosts the Harlem Cultural Festival in 1969, featured in the documentary SUMMER OF SOUL. Photo Courtesy of Searchlight Pictures. © 2021 20th Century Studios All Rights Reserved

予算のないイベント

このイべントを始めたのはトニー・ローレンスという地元の歌手兼プロデューサーで、自身シングル盤を出してはいるが、ヒットはしていなかった。彼が東奔西走してスポンサー集めから、出演アーティストの交渉など一手に行っていた。

しかし、このイべントは無料イべントのため出演料を含む製作費などをすべてスポンサーからの資金とニューヨーク市の広報予算からもってこなければならなかったために、すべてがギリギリだった。そこで十分な照明機材が手配できず、タルチンら製作陣はステージを西向きにして、午後3時から始まるコンサートのステージに西日が当たるようにしたほどだった。

このフェスには音楽だけでなく、ダンス、詩の朗読、コメディー、さらには政治的主張のスピーチなどあらゆる文化的パフォーマンスも挟み込まれていた。このあたりがまさに「カルチュラル・フェスティバル」(文化的フェスティバル)と名付けられたゆえんだがローレンスのイべント趣旨は、この時代に慧眼というほかはない。

映画『サマー・オブ・ソウル』は、1969年のカルチャーがすべて飛び出てくるタイム・マシーン

ライブの見どころはすべて

ライブ・パフォーマンスは、いずれも本当に見応えがある。同じ夏「ウッドストック」にも出るスライ&ファミリー・ストーンは、1969年夏の時点ではまだまだ一般的黒人たちの支持は集めていないが、たとえばモータウンのグラディス・ナイトやテンプテーションズのリード・シンガーを辞めたばかりのデイヴィッド・ラフィンらが一張羅で登場するのに比べて、ジーンズにシャツといった普段着のようないで立ちで登場し、しかも、ロック的ヒッピー的な音楽を奏でており、まだ戸惑う観客もいた。しかし、今ではおなじみとなっている「エヴリデイ・ピープル」では観客も踊りながら楽しむ。

さらにブラックの聴衆にとって驚きだったのが、当時大ヒットしていたミュージカル『ヘアー』の収録曲「アクエリアス」の大ヒットで知られるようになったソフト・コーラス・グループ、フィフス・ディメンションだ。そのサウンドから彼らが黒人であることを初めて知った観客や、一般的なソウル、R&Bと一味違うサウンドに、やはり戸惑う姿もあった。だが、ちょうどこのころは「アクエリアス」が全米で大ヒットし、ポップ・チャートで1位になっていたことから、6回のフェスの中でもっとも多くの観客を集めたのがこのフィフス・ディメンションだった。

圧巻だったのは、ニーナ・シモン、そして、ゴスペル界のメイヴィス・ステイプルズとマへリア・ジャクソンのデュエットだ。前者ニーナは、すでにこの時点で公民権運動や黒人たちに対する人種差別に物申す立場を取っており、その過激なアジテーションぶりは大変な迫力だ。のちのブラック女性シンガー、ソングライターたちに多大な影響を与えるが、その生の姿を目の当たりにするのは感激だ。

また、まだ当時ゴスペル界でも新人で全米的な人気はなかったメイヴィス・ステイプルズがゴスペル界の大御所、マへリア・ジャクソンと共演するシーンも見事だ。実は、このシーンは元々アレサ・フランクリンが登場し、アレサとマへリアのデュオになる予定だったが、アレサが公演数日前にドタキャンし、急遽メイヴィスに代役が回ってきた。レジェンドとデュエットができたメイヴィスが感激したことは言うまでもない。もちろん、この他にマックス・ローチ、レイ・バレット、ハービー・マンらジャズ・アーティストも熱い。

40時間の映像からクエストラブが厳選〜すべての過去現在未来の点が繋がる

そして40時間以上のアーカイブ映像を繰り返し何度も見て自身で鳥肌が立ったところを丹念にメモし、2時間ほどの映像作品にまとめたのがザ・ルーツのリーダーでもあるクエストラブだ。当初このフェスが行われたことも知らなかったクエストラブはこの監督を依頼されたときに、とても荷が重いと躊躇したが、この映像を見せられ、自身映画を監督したことはなかったが、ライブイべントをキュレーションするように、この映画もキュレートすればいいのではないかと考えるに至り監督を引き受けた。

2020年クエストラブはすっかりこの映像に没頭していたが、様々な方法で当時このフェスを実際に見た人を探し出し、インタビューを敢行。さらに、出演者でもあるフィフス・ディメンションのマリリン・マックー、ビリー・デイヴィス、グラディス・ナイトらにもインタビュー。当時のことを振り返ってもらい、それを本編に巧みに編集した。この現在の視点をいれたことによって、ただの50年前の記録映像が、50年後の現在へと点と点がつながることになった。

特に1969年は、その前年1968年4月にメンフィスで公民権運動の指導者のひとり、マーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺されたことや様々な要因が重なり、全米各地で黒人の暴動が起こっていた時期でもあった。こぶしを天につき上げる「ブラック・パワー」、あるいは「ソウル・パワー」の動きも大きな時代のうねりになっていた。警官の暴力などは、2020年になって再度大きな盛り上がりを見せた「ブラック・ライヴズ・マター(黒人の命も大事だ)」運動とまさに同じことが起こっていた。時代の空気は当時と現在がまるで「パラレル(並行線)」を描いているかのようだとクエストラブは語る。

映画『サマー・オブ・ソウル』は、1969年のカルチャーがすべて飛び出てくるタイム・マシーン

なぜ50年も埋もれていたのか〜そしていかに発掘されたか

見どころは、もうすべてとしかいいようがないが、個人的には中でもグラディス・ナイトとマリリン・マックーは当時まだ25歳という若さでその魅力にやられてしまった。

ところでなぜこれほどの迫力ある映像が50年も埋もれていたのか。それはタルチンも語っていたが「当時は誰も、こうしたものに興味を示さなかった」ということに尽きるようだ。まだ『ウッドストック』の映画もでていない時期で、音楽映画もほとんどなかったので、この歴史的意義などは語られなかったらしい。同じブラックの音楽映画としては、1972年の『ワッツタックス』というライブ映画があるが、それもこの3年後だ。

タルチンも地元のテレビで1時間程度の特番を組んでもらったほどで、劇場用映画にすることはできなかった。

では、なぜ半世紀も埋もれていた記録映像が埃まみれの倉庫から掘り起こされたのか。それはリサーチャーのジョー・ラウルという人物が、古い「テレビガイド」誌を片っ端から見ていて、その中でテレビで放映された「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」を見つけたことがきっかけとなった。2004年頃のこと。彼がいろいろ調べてハル・タルチンにたどり着き、映像をデジタル化、まとめようという話につながったという。

紆余曲折あり、元々は2019年、ちょうど実際のイべントから50年の節目で公開を考えたが、予想以上に時間がかかり、2年遅れで完成、公開となった。

何でも撮影し、記録を残す。それこそが歴史の証人となり、それらの記録が歴史そのものとなる。世の中、断捨離ばかりしていては、このような歴史は残らない。

50年の深い眠りから目覚めたこれらの映像には、そこに参加したアーティストだけでなく、そこに参加した観客全員のストーリーが語られるかのようだ。それはまるでタイムカプセルの蓋を50年後に開けたような感動に包み込まれる。

文 / 吉岡正晴(音楽ジャーナリスト)

SET LIST

Stevie Wonder(スティーヴィー・ワンダー)Drum SoloThe Chambers Brothers(チェンバース・ブラザーズ) UptownB.B.King(B.B.キング)Why I Sing The BluesHerbie Mann(ハービー・マン)Chain of Fools (Ft. Roy Ayers)The 5th Dimension(フィフス・ディメンション)Don’tcha Hear Me Callin’ To Ya , Aquarius/Let The Sunshine InThe Edwin Hawkins Singers(エドウィン・ホーキンス・シンガーズ)Oh Happy Day(Ft. Dorothy Morrison)The Staple Singers(ステイプル・シンガーズ)Help Me JesusProf. Herman Stevens & The Voices of Faith(ハーマン・スティーブンス&ボイス・オブ・フェイス)Heaven Is MineClara Walker & The Gospel Redeemers(クララ・ウォーカー&ザ・ゴスペル・リディーマーズ)Wrapped, Tied & TangledMahalia Jackson(マヘリア・ジャクソン)Lord Search My HeartMahalia Jackson & Mavis Staples(マヘリア・ジャクソン&メイヴィス・ステイプルズ)Precious Lord, Take My HandBen Branch & Operation Breadbasket Band(ベン・ブランチ&オペレーション・ブレッドバスケット・バンド) —–David Ruffin(デイヴィッド・ラフィン)My GirlGladys Knight & the Pips(グラディス・ナイト&ザ・ピップス)I Heard It Through The GrapevineSly & the Family Stone(スライ&ザ・ファミリー・ストーン)Sing a Simple Song , Everyday PeopleMongo Santamaria(モンゴ・サンタマリア)Watermelon ManRay Barretto(レイ・バレット)Abidjan , TogetherThe Staple Singers(ステイプル・シンガーズ) It’s Been a ChangeStevie Wonder(スティーヴィー・ワンダー)Shoo-Bee-Doo-Bee-Doo-Da-DayDinizulu & His African Dancers & Drummers(ディニズル&ヒズ・アフリカン・ダンサーズ&ドラマーズ)Ogun OgunSonny Sharrock(ソニー・シャーロック) —–Max Roach(マックス・ローチ) It’s TimeAbbey Lincoln(アビー・リンカーン)AfricaHugh Masekela(ヒュー・マセケラ)Ha Lese Le Di Khanna , Grazing In the GrassNina Simone(ニーナ・シモン)Backlash Blues , To Be Young, Gifted & BlackSly & The Family Stone(スライ&ザ・ファミリー・ストーン)Higher 映画『サマー・オブ・ソウル』は、1969年のカルチャーがすべて飛び出てくるタイム・マシーン 作品情報 映画『サマー・オブ・ソウル』は、1969年のカルチャーがすべて飛び出てくるタイム・マシーン 映画『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』

1969年、あのウッドストックと同じ夏、NYで30万人を集めたもう一つの大規模フェスがあった。若きスティーヴィー・ワンダーやB.B.キング、当時人気絶頂のスライ&ザ・ファミリー・ストーンなど、全米ヒットチャートを席巻していたブラック・ミュージックのスターが集結した幻の音楽フェス“ハーレム・カルチュラル・フェスティバル”。しかし、その存在は50年間封印されていた・・・いまこの瞬間まで。

監督:アミール・“クエストラブ”・トンプソン

出演:スティーヴィー・ワンダー、B.B.キング、フィフス・ディメンション、ステイプル・シンガーズ、マヘリア・ジャクソン、ハービー・マン、デイヴィッド・ラフィン、グラディス・ナイト&ザ・ピップス、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、モンゴ・サンタマリア、ソニー・シャーロック、アビー・リンカーン、マックス・ローチ、ヒュー・マセケラ、ニーナ・シモンほか

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン  

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公開中

公式サイト https://searchlightpictures.jp