飴色のカウンターの真ん中にでんと鎮座する大きな鍋。中には出汁がよく染みた大根や厚揚げ、ひら天やタコなどがぐつぐつと煮えて、店の扉を開けた瞬間から旨そうな香りがどっと押し寄せてくる。

創業は弘化元年(1844)。上燗屋として始まった日本一古いこのおでんやは、織田作之助や池波正太郎、開高健などの多くの作家に愛されてきた名店だ。常連客が座れば、黙っていても、「さえずり(ヒゲ鯨の舌)」と、「たこの甘露煮」、上燗の入った錫のタンポと錫のカップが差し出される。酒の旨味がキュッと引き立つ、燗酒をちびちびやりながらおでんを口にすれば、誰もが思わず頬を緩める。

名物の「さえずり」(900円)と「たこの甘露煮」(一皿2串700円)。熱燗より低い温度で酒の旨味が引き立つ上燗は650円。錫のカップは冷めにくく、手によく馴染む。

鍋の前に立ち、その味を守るのは“鍋番”の店長・和田訓行さん。

「おでんと燗酒といえば、日本人のDNAに染み込んだ最高の組み合わせだと思います」

上燗にする酒は白鹿・特別純米「山田錦」のみ。コシのある灘の男酒のこなれた呑み心地が、おでんとよく引き立て合う。

独特の下処理と煮技で仕上げたさえずりは、噛み締めるほどにじゅわっとエキスが滲み出る。すかさず上燗をクイッ。お次のたこの甘露煮は、弾むような甘みと旨味が舌の上で転がる。これが浪速の旨味の素晴らしき連鎖だ。

“鍋番”の和田さんは割烹でいえば、「花板さん」という立場。お客の入り具合や注文状況を見て、どのネタをどれくらい鍋に投入するか、また、追いだしの「かつおの白だし」と「クジラの本だし」をどのタイミングでどれぐらい足すのか、全て瞬時に見極める。まさに名人芸だ。
昔ながらの木札を数えて勘定をするのもオツ。

文◎郡 麻江 撮影◎尾上達也

たこ梅 本店(たこうめ ほんてん)

※店の営業時間が変更になることがありますので、来店時には店舗にご確認ください。