門前に一晩滞在できる喜び。早起きでお朝事に参列

天台宗では民謡や浄瑠璃の源流とも伝わる仏教音楽・声明が、浄土宗では南無阿弥陀仏の念仏が響き、お朝事が始まる。

「兄部と書いて『このこうべ』と読む姓があります。万葉集にも記載され、寺社・宮中における職業集団の長の役職名で、兄部坊が堂童子(どうどうじ)という役の取り仕切り役を仰せつかっていたと聞いています」

住職の若麻績(わかおみ)善正さんが迎えてくださった。寺名と同様、名字も独特であるが、浄土宗14坊の住職は全て若麻績姓だそうだ。若麻績の家は本田善光の末裔と伝わり、血縁者のみが寺を継ぐことができる決まり。こうした宿坊に泊まると、やはり伝統ある善光寺に滞在しているんだなという実感が湧く。

宿坊ながら、特別なルールもなく日本旅館と同様にくつろげる。お朝事に参加する人は早朝、執事の案内で本堂へ向かう。
写経(1名2000円で2名〜)で心を落ち着かせるのも良い。

早朝、お朝事に参列した。365日欠かさず行われている全山の行事である。厳かに声明(しょうみょう)が謡われ始める。詩吟のような独特の響き。お朝事も天台・浄土それぞれの宗派の法要が約30分ずつ勤められる。

天台宗の本坊「大勧進(だいかんじん)」導師の読経が始まり、周りの僧もそれに合わせ、堂内に高々と響きわたる。最後に導師が参列者に向かって「南無阿弥陀仏」と10回唱えてくださった。入れ替わるかたちで、浄土宗の「大本願(だいほんがん)」の導師と僧による法要に移る。

同じく30分ほどの読経後に導師が「南無阿弥陀仏」と参列者に向けて10回、読唱。大本願の導師は尼僧である。大勧進導師の力強いお声に対し、きりっとした優しいお声が堂内に響いた。善い一日になりそうだ。

宿坊「兄部坊」でいただく精進料理

精進料理だが、地元でも評判の味とボリュームは、先々代の寺庭からの伝統という。
5品の薬味をご飯に乗せ、出し汁をかけていただく法飯(ほうはん)。善光寺の正月行事・堂童子を終えた祝宴の最後に出されるものを再現しており、実に珍味。

浄土宗14宿坊のひとつ
兄部坊(このこんぼう)

「昔の100年、これからの100年も変わらない善光寺。次につなげていきたい」と話す住職の若麻績さん。若麻績さんは先代を継ぎ、住職となって6年目という。

長野県長野市元善町463
TEL:026-234-6677
チェックイン・アウト:15:00・10:00
宿泊料:1泊2食付き1万1000円〜
アクセス:(電車)JR「長野駅」より徒歩約30分、(車)上信越自動車道「長野IC」より約25分

文/上永哲矢 撮影/遠藤 純