■そろそろ知的に沖縄を楽しまないか?

そんなアクセス抜群で手軽にバカンス気分が楽しめる沖縄は、国内の人気旅行先の一つである。かくいう筆者も40数年の人生で沖縄本島には幾度も訪れているのだが、それら思い出の大半は観光と酒、マリンスポーツで埋め尽くされている。

日常を忘れて楽しむことこそが旅の醍醐味ではあるのだが遊び呆けすぎてはいないか? そろそろいい大人なんだし(今さら)少しは沖縄の歴史や文化にも向き合った方が良いのではないか?

戦争の歴史に関することは過去の旅でも幾度か要所を訪れ、学び、心を痛めてきたが、そもそも沖縄や琉球王国の成り立ちについては、首里城を訪れるくらいできちんと触れてこなかった。というわけで今回は沖縄の歴史を体感するというテーマで旅立つことにした。

■何から学べば良い? そうだ、日本遺産!

テーマが決まったところで、次に考えるのは旅の行程だ。歴史を学ぶと決めたは良いが、どこで何を見たら良いのだろう? よくあるツアー会社の行程を真似ても良いのだが、せっかくの個人旅行。気の向くまま、興味が湧くままに行動したい。

そこで参考にしたのが「日本遺産」である。日本遺産とは文化庁が認定するもので、地域の歴史的な魅力を通じて文化や伝統を国内や海外に発信していく国の取り組みである。2022年5月現在、104件のストーリーが登録され、沖縄県では『琉球王国時代から連綿と続く沖縄の伝統的な「琉球料理」と「泡盛」、そして「芸能」』というストーリーが認定されている。

その内容を参考に自分なりに旅の行き先を決めてみた。限られた日程ですべての構成文化財やスポットに訪れることは不可能なため、今回は厳選した下記スポットへ行ってきた。

・浦添城跡
・浦添ようどれ
・浦添市美術館
・首里城公園
・味と踊りの竜宮城うらしま
・沖縄県立博物館・美術館
・国立劇場おきなわ

1泊2日の旅ということもあり、これだけでも詰めに詰め込んだ行程なのである。

■琉球王国はじまりの地・浦添からスタート

浦添城の立派な石垣。

まず最初に訪れた浦添城跡は13世紀に築かれた城(グスク)で、首里城へと王宮が移る以前に琉球王国の中心となった舞台である。当時は三山時代と呼ばれ、島の北側を治めた北山(ほくざん)、浦添城がある中山(ちゅうざん)、そして現在の糸満市があるエリアの南山(なんざん)に分かれ覇権を争っていた。1429年に中山の王・尚巴志(しょうはし)が三山を統一したことで、浦添城を中心とした琉球王国が誕生した。

そもそも琉球王国は1429年から1879年までの450年間、独立して存在した国家だ。日本の江戸時代よりも遥かに長い間、琉球諸島を統一していたのである。だからこそ独自の文化や芸術、生活様式が華開いたといっても過言ではないだろう。

そんな琉球王国の始まりの地である浦添城は、1609年に薩摩軍の琉球侵攻により焼き討ちされた。また1945年の沖縄戦では日本軍の防衛拠点として激しい戦闘の舞台となり、さらに戦後には採石によって城壁が失われてしまった。現在は復元に向けて整備計画が進められているという。

浦添ようどれへと続く道。
右が西室(英祖王陵)、左が東室(尚寧王陵)。

その浦添城の北側、崖下にある「浦添ようどれ」は英祖王(えいそおう)が咸淳(かんじゅん)年間(1265〜1274年)に築いたといわれる琉球王国初期の王陵だ。「ようどれ」とは琉球語で“夕凪”という意味で、その名の通り海までの見晴らしが良く非常に穏やかな場所である。ここには英祖王と尚寧王(しょうねいおう)が葬られ、静かに長い時の中で眠り続けている。

浦添城のそばにある「浦添グスク・ようどれ館」で古写真やビデオ展示、実物大で再現された浦添ようどれの西室(英祖王陵)を見学し、次の目的地である浦添市美術館へ向かった。

浦添グスク・ようどれ館の中にある西室内部の再現展示。

浦添グスク・ようどれ館
沖縄県浦添市仲間2-53-1

■琉球王国から連綿と続く伝統的な漆芸を見学

宮廷などで出された料理の再現。

琉球王国はその地理的環境から中国(明国や清国)と冊封・朝貢関係を築いたほか、朝鮮(李朝)、東南アジア(マラッカ、ジャワ)、そして日本と交流・交易をしていた。その中で中国や日本から伝わった技術や文様などの影響を受けながら、漆芸が発展したという。その芸術性と技術は17世紀には“王朝文化の華”と称賛され、中国皇帝や日本の将軍や大名に献上されていた。

それらの貴重な漆器を見学できるのが県内唯一の漆器に特化したミュージアムの浦添市美術館である。常設展示では古琉球(12世紀後半〜1609年)時代をはじめ、近世琉球(1609〜1879年)、近現代(1879年以降)の年代ごとに発展していく漆芸の進化を見ることができる。

また、琉球料理が漆器に詰められた重箱料理の展示も非常に興味深い。鮮やかで華やかにさまざまな食材が調理されているのを見ると、食文化という側面からも琉球王国が成熟していたのがわかる。

伝統的な重箱料理。
見応え十分の浦添市美術館。

浦添市美術館
沖縄県浦添市仲間1-9-2

■沖縄観光のマストスポット、首里城へ

首里城へは子供の頃も含め数回訪れたことがある。30年前はその多くが工事用のシートに囲われていたが、10年ほど前に訪れた際には工事がかなり進んでいて、青い空を背にした美しい朱色の正殿に圧倒されたのを覚えている。しかし、約30年にも及ぶ復元工事が完了した2019年1月から、わずか10ヶ月後に大規模火災が発生。正殿、北殿、南殿が焼失した。

復元完了前とはいえ10年前に見ておいて良かったな、そんなことを考えながら再び訪れた首里城は記憶の中のそれとは違う姿をしていた。とても不思議な気持ちである。

火災によって露出した正殿遺構の一部。
残存物の獅子瓦も展示される。
復興へ向けて動き出した首里城の姿。

とはいえ、これはこれで貴重な機会。再度の復興へ向けて前向きにあゆみ出した今だからこそ、いや、今でしか見られない景観でもある。その証拠に、これまで見学したことのなかった「正殿遺構」や、「首里城の赤瓦」「獅子瓦(残存物)」などを近くで見ることができた。

見学できるすべての場所を見て歩き、数奇な運命を辿った長い歴史の中、幾度も逆境から這い上がり復興を遂げてきた沖縄の人々の強さを垣間見た気がした。

首里城公園
沖縄県那覇市首里金城町1-2
https://oki-park.jp/shurijo/

■夜は「味と踊りの竜宮城うらしま」で琉球料理と舞踊を堪能

沖縄県に限らずその地域で昔から食されてきた料理は、その土地を理解するための重要な要素の一つ。ミミガー(豚の耳皮)やティビチ(豚足)といった豚肉料理は沖縄以外ではあまり食されることのない部位であるし、島ラッキョウや紅芋など沖縄ならではの野菜も多い。

居酒屋で食べられるような家庭的な沖縄料理は幾度も食したことがあるが、「琉球料理」と呼ばれるものはほぼ未経験だ。というわけで、(一社)琉球料理保存協会の専務理事を務めている與儀哲治さんのお店「味と踊りの竜宮城うらしま」で、伝統的な琉球料理を味わいつつ、琉球舞踏を見学させていただいた。

大きな壺が店舗の目印だ。
オーナーの與儀哲治さん。

1974年に創業した同店は沖縄の味に慣れ親しんでいない観光客でも美味しく味わえるよう、創業より琉球料理の研究を続けているという。

メニューはコース料理が基本となっており、琉球料理で4種類、刺身や茶碗蒸しなどの和食も組み合わせた和琉会席で4種類とラインアップが豊富。予約の際に事前にHPで確認して選ぶことができるので「琉球料理で食べられないものがあったらどうしよう?」という不安も少ない。

今回は琉球料理の「芭蕉」(全14品/税込7700円)コースを予約した。お品書きは以下の通り。

・前菜(島ラッキョウの漬物・ミヌダル(豚ロースの黒ゴマ蒸し)・トウフヨウ)
・ミミガーのピーナツ和え(豚の耳皮)
・スヌイの酢の物(もずく)
・ジーマーミトウフ(落花生豆腐)
・刺身
・クーブイリチー(昆布の炒め煮)
・ラフテー(豚の三枚肉の角煮)
・イセエビ雲丹焼き
・ティビチ(豚足)
・沖縄天ぷら(紅芋・もずく・島ラッキョウ)
・ジューシー(炊き込み御飯)
・中味の吸物(豚モツ)
・香の物
・デザート

19時から舞踊の舞台が始まるため、18時半頃に入店し着席、食事を堪能しつつ舞踊が始まるのを待つ。

前菜から始まり、刺身が提供される頃まで“沖縄といえば”のオリオンビールと共に箸を進める。一品一品、丁寧に下ごしらえされた料理の数々は、現代人の舌にも合う味付けだなと感じる。

いや、むしろ想像以上に美味しい。

料理左から時計回りに、ジーマーミトウフ、スヌイの酢の物、前菜(島ラッキョウの漬物・ミヌダル(豚ロースの黒ゴマ蒸し)・トウフヨウ)、ミミガーのピーナツ和え。
この日の刺身はマグロとサーモン。

さぁ、そろそろメインディッシュかなぁと思っていたところ、客席の照明が落とされ三線の音が流れ始める。どうやら琉球舞踊が始まるようだ。

ここ「うらしま」では18世紀頃から続く古典舞踊と、明治以降に庶民の風俗や習慣を題材に生まれた雑踊(ぞうおどり)まで、幅広い演目が毎日10曲(前後半で5曲に分け)披露される。

付け加えると、舞台に立つのは琉球古典芸能コンクールで新人賞以上を獲得した踊りのエキスパートのみというから、気軽に食事を楽しみつつ本格的な琉球舞踊に触れられる場所なのだ。

自席で食事をしながら舞踊を見学するシステム。

前半の1曲目は「かぎやで風(かじゃでぃふう)」という最高峰の格式高い古典舞踊だ。テレビで見たことのある琉球ならではの装いで、時に艶やかに、時に勇しく舞う踊り手さんにすっかり魅せられ、食事の手が止まってしまう。

ふと客席を見渡すと他の客も食事の手を止め、食い入るように踊りを眺めたり、動画や写真撮影をしている。それぞれの演目に物語性を感じながら見入る5曲30分だった。

前半が終わったところで手が止まっていた食事を再開する。箸で簡単に切れるほど柔らかく煮込まれたラフテー、イセエビにウニをふんだんに乗せた焼き物、プルプルでしっとり食べ応え満点のティビチなどなど、滋味深い料理の数々に舌鼓を打ちながら後半の踊りを楽しみに待つ。

左がクーブイリチー、右がラフテー。
イセエビ雲丹焼き。
ティビチ。
左から時計回りにジューシー(炊き込み御飯)、デザートのパイナップル、中味の吸物、沖縄天ぷら(紅芋・もずく・島ラッキョウ)、香の物。

後半の1曲目は琉球舞踊の中で最も優美で豪華絢爛な「四つ竹(よつたけ)」だ。美しい着物に花笠をかぶった踊り手が四つ竹を打ち鳴らしながら華麗に舞う。せっかくだから記念にとカメラで撮影するも、その優雅さにファインダーを覗くのを辞め、しっかりと自分の目で楽しませてもらった。

その後も、空手の型を取り入れた力強い「繁昌節」や、女性の可憐さを表現する「日傘」、海の男のダイナミックさを感じる「大漁節」などバラエティに富んだ演目で店内も自然と盛り上がる。全ての演目が終わる頃には圧倒的なステージを前に、すっかり放心状態だ。

観光客にも最も人気の演目「四つ竹」。
繁昌節。
大漁節。

そして満腹になりながらも最後のデザートまで余すことなく綺麗にいただき、沖縄の伝統に触れる夜を大満足で終えることができたのだった。

味と踊りの竜宮城うらしま
沖縄県那覇市久米2-10-6 新垣ビル2F
https://www.urashima.jp

■二日目はアカデミックに沖縄県立博物館へ

二日目、最初に訪れたのは「沖縄県立博物館・美術館」だ。前日に浦添や首里を巡り、沖縄の成り立ちや文化、歴史に興味が湧いたのがその理由。ここは博物館と美術館が併設された施設で、今回は歴史を学ぶために博物館常設展への入館のみでチケットを購入した。

広い館内では、地学や人類学、生物分野を含めた「自然史」、沖縄の「考古」、琉球の「美術工芸」、独立国家だった琉球王国から現代に続く「歴史」、沖縄の生活文化にふれる「民俗」の5つの部門に分かれ、総合的に沖縄のことが学べるのだ。

貴重な資料や実物展示が豊富で部門ごとに見応えがあり、3時間かけてじっくりと見学する。特に興味深かったのは、歴史と民俗部門だろうか。いわずもがな前日に歩いた2つの城のことや、伝統的な生活様式や信仰など、琉球から沖縄へ移り変わることで“変化したこと”や“受け継がれていること”を思い浮かべながら、楽しむことができた。

沖縄県立博物館・美術館
沖縄県那覇市おもろまち3-1-1
https://okimu.jp

■旅の締めくくりに訪れたのは「国立劇場おきなわ」での組踊公演

思いつくままに沖縄滞在を楽しんできたのだが、実は前日、浦添市美術館で見つけたチラシを見て詳細もわからないまま衝動的にチケットを購入したのが、国立劇場おきなわで本日開催される組踊公演「賢母三遷の巻」(けんぼさんせんのまき)である。

知識がゼロの人間がいきなり行っても良いものか少し悩みはしたものの、これを逃すとこのような機会に出会うことはないと思い、公式サイトから申し込んだ。幸い終演予定も16時頃とのことなので、19時30分発の帰路の飛行機には十分間に合いそうだ。

開演時間に合わせて会場へ入ると、想像以上の盛況に驚く。指定の席へ着席して見渡したところほぼ満席状態である。ちらほらと観光客らしき姿もあるが、客席のほとんどは地元のご年配や親子連れといったところだろうか。そこへきてようやく琉球舞踊がどれだけ地元の人々に愛されていて、特別なものなのかということに気付いた。

開演直前にあらすじだけを頭に叩き込み鑑賞したのだが、ステージ脇に現代語の翻訳が流れ初心者でも作品世界に没入することができた。

この演目「賢母三遷の巻」は、夫をなくした妻が幼い1人息子を立派に育てるため、苦労しながらもより良い環境を求めて引っ越しを繰り返す中で、その母の期待に応えるべく勉学と手伝いに励む息子の努力する様が、やがて口伝てに慈悲深い領主の目に留まり、世の模範として引き立てられ報われるという内容。

歌三線や台詞の独特な節回し、琉球音階の音程が非常に印象的で、これまで観たことのある歌舞伎や能など伝統芸能との違いが素直に面白かった。こうして琉球の古典にタイミング良く触れることができたのはラッキーだったなと思いながら、満足した気持ちで旅を終えることができた。

国立劇場おきなわ
沖縄県浦添市勢理客4−14−1
https://www.nt-okinawa.or.jp

■日本遺産をテーマにした「男の隠れ家デジタル」沖縄旅のまとめ

1泊2日という限られた時間の中で「どのように沖縄を楽しむか」というテーマに対し、今回選んだのは「日本遺産」を学ぶということだった。もちろん旅の形は人それぞれで、心ゆくまでマリンスポーツを楽しんでも良いし、買い物やナイトスポット巡りも楽しいだろう。

この旅を通して感じたことは、今まで何も知らずに通り過ぎてきた景色の中には確実に歴史があり、そこで暮らしてきた先祖代々の営みがあり、文化や風習を大切に守ろうとする気持ちが今も間違いなく続いているということ。

どこをどのように旅するにせよ、旅人を受け入れてくれるその土地に敬意を持つことは、自分自身への気付きにもつながり心を豊かにしてくれる作業なのかもしれない。

日本という一つの国家に含まれながらも、独自の歴史を歩んできた沖縄県。その成り立ちを知り、文化にふれることで、さらに沖縄愛が深まったことは言うまでもないだろう。

文・撮影/田村 巴