東京にある個性的な地ビールブルワリーを訪問。醸造所を見学しながら、ビール造りにかける思いをインタビュー。併設されたレストランや売店にも立ち寄り、そのブルワリーならではの地ビールの魅力を探る。

今回は、線路沿いに立つウッディな一軒家にある「十条すいけんブルワリー」を訪ねた。

農作物づくりの延長にできた手造りブルワリー

線路沿いのにぎやかな生活道路に面した建物。晴れた日にはテラスも利用できる

「十条すいけんブルワリー」は、十条駅近くの線路沿いに建つ一軒家にある。電車の走行音と行き交う学生のにぎやかな声が響く生活道路にあり、中に入れば地元に帰ってきたような居心地の良さを与えてくれる。

十条すいけんブルワリーとブルーパブ「Beer++(ビアプラスプラス)」ができたのは、2014年のこと。運営会社の水研クリエイトは、水質や土壌調査のほか、緑化事業を主な業務とし、水耕栽培や無農薬で野菜作りをしていた。その野菜を使った料理を出したいと考えていた矢先、東京に小規模なブルーパブがあることを知り、ブルワリー併設のブルーパブ建設の話が持ち上がった。

設備の前で話す醸造家の山腰洋一郎さん

そこで人づてに紹介されたのが、現在醸造家を務める山腰洋一郎さん。当時は勉強会でしかビール造りの知識がなかったが、誰にも負けないビール造りへの情熱があり、醸造家に抜擢された。ブルワリーのある一軒家は元々民家だったものを、山腰さんやスタッフの大内久人さん、水研クリエイトの社員たちによってリノベーション。ビール造りの設備も、狭いスペースに収まるよう山腰さんが工夫して作った。さらに、ビールのラインアップにもそうした手造り感が活かされている。

「ブルーパブでは全部で7種類くらいのビールを日替わりで出しています。麦芽とホップだけで造ったビールのほか、僕の地元・熊本の晩白柚(ばんぺいゆ)、常連さんの畑で取れた柚子、友人が作ったルバーブなどを使って造っているんです。しかもそうした副原料を大量に使っているので、ほんのり果実や野菜の味がするのではなく、しっかり個性的な味に仕上げている。地域の人とのつながりがビールの味に表れているんです」

十条すいけんブルワリーの仕込みタンクは180〜190lほど。大量生産できない分、友人や常連づてに知った副原料を活かした味わいが造り出されていた。東京の住宅街で、こうしたつながりを活かしたビールがいただけるのが、十条すいけんブルワリーの魅力だ。

週替わりで仕込まれる新鮮で個性的なビール

右から「ルート2020シトラ」700円、「アンバーエール」700円、「ジューシー晩白柚」800円(以上、すべて350mlテイクアウト缶)

取材時、十条すいけんブルワリーでは、以下の3つのビールと季節限定ビールがラインアップされていた。

●ルート2020シトラ
アメリカ産シトラホップのトロピカルな香りが魅力。桃のような甘い香りとホップの苦味のコントラストがおもしろさを与えている。

●目覚ましIPA
アメリカ産モザイクホップのパッションフルーツのような香りが特徴。

●アンバーエール
ローストした麦の風味。通常のアンバーエールよりも苦味が少なく飲みやすく、みずみずしい味わい。

このほか、季節によって柚子や晩白柚、レッドルバーブ、ヘーゼルナッツを使った限定ビールが登場し、2〜3週程度で入れ替わる。夏に向けては、キウイを使った限定ビールも登場する。

「ビール造りは、お客様の好みを取り入れたり、スタッフやお客様とつながりのある副原料を入れる広がりを大切にしています。いまは、ホップをふんだんに使ったものが求められているので、ラインアップに取り入れています。そのなかで、ホップの種類やスタイルを変えて、柑橘っぽさやフルーティーさの特徴を出しています。少量生産なので、仕込みは毎週していて新鮮な味が楽しめます」

地域の温もりが感じられるレストラン

ふらりと立ち寄れる1階のバースペース

7種類のビールは、1階のバーと2階のレストランで飲むことができる。1階はカジュアルな立ち飲みバースタイルで近くに住む人が、会社や買い物帰りに立ち寄るのにぴったり。常連同士や大内さんとなごやかに会話する風景が日常となっている。

2階も、ウッディな雰囲気で落ち着く

2階のレストランは、テーブル席でゆったりとビールを楽しむことができる。時折、聞こえる電車や踏切の音が、このブルワリーらしいBGMとなっている。

「ジャンボ羊串」 900円、右から「ルート2020シトラ」600円、「アンバーエール」600円、「目覚ましIPA」600円

メニューは1階と2階で共通しており、ビールに合うフライドチキンやピザなどが用意されている。おすすめは羊を使ったメニュー。

「羊料理は、肉肉しさとパンチがあって、香りも味もビールに負けない強さがあります。唐辛子の入ったクミン塩と、友人が作ったゴールデンマスタードを付けてお召し上がりください。うちの常連さんにはブルーチーズを使った料理も人気です。クセのあるものがビールには合うと思います」とスタッフの大内さん。

現在は通常営業のみだが、コロナ以前はイベントもたびたび開催されていた。ステージや高座を作ってフラダンスや寄席が開かれたことも。そうしたつながりが、常連の作った農作物を副材料にするきっかけになったそう。いまも店内には、地域の温かなつながりを感じる雰囲気があるという。

1Fのブルワリーへ向かう廊下にあるビールタップ

ブルワリーの見学は、山腰さんの出勤日で店内が混んでいない夕方などの時間帯であれば、いつでも受け付けている。所狭しと並べられたタンクなどの醸造設備は工夫されて造られたもの。手作り感のある小規模ブルワリーの様子を見学することができる。

オリジナルグラウラー(750ml、ビール入り)6,000円、計り売り(750ml)1,500円〜

店内で飲んだビールは、缶またはグラウラーで持ち帰ることができる。近くに住む人はグラウラーを利用してみるのもおすすめ。十条すいけんブルワリーでは、地元のつながりを活かした外部のイベントや展開が用意されているのも見逃せない。

「北区の隣にある板橋区のザ・ハスネファームでホップの栽培をしています。板橋区にクランクビールという小規模なブルワリーがあって、コロナ前は、それぞれがとれたてホップを使ったビールを醸造し、ザ・ハスネファームの収穫祭で、お客様と乾杯しました。また今年5月にはクランクビールや群馬のオクトワンブルーイングなどと共同でビアキャンプフェスをやり、東京からもたくさんの常連さんが来てくれました。

地域のつながりは飲食店とも作っていきたくて、十条や赤羽の飲食店と連携して樽ビールを提供し、地産地消の取り組みができないかと考えています。これからも手広くやっていくというより、地域のつながりを活かして、おもしろいビール造りができたらいいですね」と山腰さん。

小規模ブルワリーは地域密着でおもしろくなる。密度の濃い展開が、地ビールにおいしさのパワーを強化してくれるのかもしれない。

【十条すいけんブルワリー/Beer++(ビアプラスプラス)】
住所:東京都北区上十条2-7-13
TEL:03-5948-5657
営業時間:17:00〜22:30
定休日:日曜・月曜
http://plusplus.suiken.beer

取材・文:岡本のぞみ 撮影:山田大輔

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