■「クラシック」への愛が隅々にまで横溢する店内

レコードは「クラシック」から運んだ。
TANNOYのスピーカーの上には美作さんが描いた油絵が飾られている。

名曲喫茶「クラシック」を記憶する人は多いのではないだろうか。東京・中野駅に近い路地に、画家の美作七朗さんが昭和20年(1945)に開業した店だ。

木造3階建ての建物は我々が通った頃には階段がきしみ、床も傾き、暗い店内には美作さん作の絵画と共に古い時計や木彫、不用品で作ったランプなど謎めいたものがひしめいていた。

水はカップ大関の瓶、ミルク入れはマヨネーズの赤いキャップ。飲み物は入り口の番台で注文し、食券をもらう。ノラ猫が住み着いたこともある。

なんとも個性的な空間は居心地良く、深々と流れるレコードの音に浸って何時間でも過ごせたものだ。しかし美作さんの跡を継いだ娘さんも亡くなり、平成17年(2005)1月に長い歴史を閉じた。

レコードのジャケットは廃棄していた美作さん。盤はSP用のファイルに分類していた。
メニューは珈琲、紅茶、ジュースのみで各400円。「クラシック」同様に食べ物は持ち込み自由。
古いアンプや「クラシック」の看板も保管する。
引き継いだレコードリストが今も活躍する。

その気配を受け継いだのが「ルネッサンス」だ。店主は高校生の時からクラシックの従業員を務めた檜山真紀子さん。閉店で店内のさまざまが処分されるのは忍びなく、LPレコード全てと什器、装飾品などを引き取り、同僚と共にこの店を開いたのだ。

コンクリートの地下空間に木の床を張り、そこここに段差もつけた。「狭いので、お客さま同士の視線が合わないように」と檜山さんは言うが、同時に「クラシック」の入り組んだ雰囲気の再現でもある。

手製の非常ベルや照明、リクエストボードなども往時のようにそこにある。すり切れた椅子の匂いまでも、あの頃のようだ。

市販ドレッシングの空き瓶とザルのランプ。洗面器を笠にしたランプもある。
なんでも自分で工夫して作っていた美作さん。これは樽の脇をくり抜いて人形や電球を入れた灯り。

音響は新しくした。スピーカーはTANNOY。真空管アンプは、スピーカーの性質に合い、かつ長時間の演奏に耐えるものを知人の音響の専門家に手作りしてもらった。2000枚を超えるレコードは、美作さんの好みも反映する。

「交響曲より協奏曲が多いですね。モーツァルトも好きだったようですが、カラヤンの指揮は嫌いなので少ない(笑)」

この夏から店は私語禁止にした。ただ喫煙目的で入って大声で会話する若者が増えて致し方なくだ。

「喋る若者追い出し作戦です」

おかげでじっくりと音を楽しむ環境が戻った。クラシックに通っていた人も、ここで懐かしいひと時を過ごす。実はルネッサンスとは、美作さんが戦前に高円寺で最初に開いた名曲喫茶の名だ。歴史はこうして引き継がれていく。

かつての「クラシック」外観と美作七朗さん。

■店主とっておきの一枚

Laudate Pueri I・II
アントニオ・ヴィヴァルディ
レーベル/Renaissance X50(U.S.)

「ラウダーテ・プエリ」とは“讃えよ主の僕たちよ”の意。聖書『詩篇』による。子どもたちが歌っており、「クラシック」では皆が“子どもの歌”と呼んでリクエストしていた。

■音響機材

レコードプレーヤー:DENON DP-500M
アンプ:オリジナル(真空管)
スピーカー:TANNOY

店主の檜山真紀子さん。現在はひとりで「ルネッサンス」を守る。

ルネッサンス
平成19年(2007)創業
東京都杉並区高円寺南2-48-11 堀萬ビルB1F
TEL:03-3315-3310
営業時間:12:00〜19:30(水・木・金)、12:00〜21:30(土日祝)
定休日:月・火曜
席数:テーブル30席
アクセス:JR「高円寺駅」より徒歩約7分

文/秋川ゆか 撮影/遠藤 純

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