六根清浄と六感治癒の地 〜日本一危ない国宝鑑賞と世界屈指のラドン泉〜

「六根清浄」と「六感治癒」。人と自然が融合する日本独自の自然観(STORY #012)

■断崖に建つ国宝・投入堂 修験道の聖地、三徳山へ 

文殊堂からは天気が良ければ中国地方の最高峰、大山も遠望できる。
地蔵堂でひと息。地蔵堂と並んで国指定重要文化財。

修験の道とはどれほどの厳しさだったのか。今日において、その一端を鳥取県三朝町にある三徳山の行者道に垣間見ることができる。

山陰有数の霊場として知られる三徳山の行者道には、「カズラ坂」「願掛けの石段」、「馬の背・牛の背」など、数々の難所があり、途中、文殊堂、地蔵堂といった行場を巡りながら、断崖絶壁の岩窟に建つ国宝・投入堂へとたどり着く。人呼んで「日本一危ない国宝鑑賞」。文字通り決して侮ってはいけない。まさに修験道の聖地。入山にはそれなりの覚悟が必要だ。

カズラ坂(写真)のような難所が次々に現れる。登山靴や軍手など、本格的な装備を推奨する。 

■三徳山で「六根」を清める三朝温泉で「六感」を癒す 

山間を流れる三徳川に沿って旅館やホテルが建ち並ぶ三朝温泉。温泉名の由来は諸説あるが、「三つ目の朝を迎えるころには病が消える」ことから三朝と呼ばれるようなったともいわれる。 

三徳山の麓を流れる三徳川に沿って開かれた三朝温泉は、川に架かる三朝橋を中心に趣のある街並みが形成され、その古き良き時代を感じさせる風情は、訪れた人の心を和ませてくれる。そして開湯以来、三徳山参拝の前に心身を清める場所としての役割を担ってきたことでも知られている。

三朝温泉で湯治することで「六感(観、聴、香、味、触、心)」を癒し、三徳山を参拝することによって「六根(眼、耳、鼻、舌、身、意)」を清める。この文化価値は「六根清浄と六感治癒の地」として認められ日本遺産にも登録されている。人と自然が融合する日本独自の自然観を体現した、この地ならではのストーリーだ。 

三徳山三佛寺の参拝の途中、住職の米田良中さんに出会った。同寺の1300年以上の歴史、そして三朝温泉とのゆかりを語ってくれた。 
温泉街の中心にある薬師の湯には、足湯と飲泉がある。
堂宇に御座する本尊は薬師如来で、健康祈願に訪れる人も多い。 

温泉発見は今から850年前。三徳山信仰とのつながりを物語る「白狼伝説」が残されている。 

平安時代末期、源義朝(源頼朝の父)の家臣・大久保左馬之祐が三徳山参拝の途中、年老いた白い狼を見かけた。年老いた獣はときに神仏の化身であると考えて、そのまま逃がしたところ、夢枕に妙見大菩薩が現れ、白狼を助けたお礼に出湯の場所を授けた。そこには一本の古木(樟)があり、根元から温泉がこんこんと湧き出ていたという。この伝説に由来する源泉は「株湯」と呼ばれ、三朝温泉発祥の地として今も親しまれている。 

三朝温泉では気軽に湯治気分が味わえる。温泉街のシンボルともなっている無料の河原風呂をはじめ、株湯のような公衆浴場、足湯や飲泉場がそこかしこに設けられている。これらを巡り歩くのも三朝温泉の魅力のひとつだろう。

左/温泉街の外れにある株湯(鳥取県東伯郡三朝町三朝634-1 TEL.0858-43-3022)では、文字通り切り株から源泉(飲泉)が湧き出る。公衆浴場(大人350円)も利用できる。
右/白狼伝説の像が建つ。写真奥の建物は足湯(無料)。 

左/三徳山の皆成院で座禅を組んだ。
右/「大事なことは心を調えること」と清水成眞住職。自分と向き合う時間は貴重だ。座禅体験は要予約(大人2000円、TEL.0858-43-2882) 

左/藤井酒造(鳥取県東伯郡三朝町三朝870-1 TEL.0858-43-0856)のご主人の藤井公典さんが手にしているのは、世界大会金賞の銘酒「白狼」。みやげに買い求める人も多い。
右/創業は寛文9年。三朝温泉に唯一残る蔵元だ。 

左/国内では珍しい弦楽器をテーマとする「三朝バイオリン美術館」(鳥取県東伯郡三朝町三朝199-1 TEL.0858-43-3111)を訪ねた。
右/ギャラリーの他、バイオリン製作体験や弦楽器のコンサートなどを随時行っている。鳥取バイオリン製作学校も併設。 

■世界屈指のラドン泉で心身共にリフレッシュ

夜明け前の河原風呂には、すでに何人か先客がいた。毎日通う地元の人も多い公衆浴場だ。お互い迷惑をかけないようマナーを守って気持ちよく利用したい。 

三朝温泉は、高濃度のラドンを含んだ世界的に見ても屈指のラドン泉(放射能泉)だ。ラドンとは、ラジウムが空気に触れて生じる放射性を帯びた気体のことだ。 

微量のラドンは体に良いとされる。体内の細胞はラドンを浴びることで刺激され、その働きが活性化されるとともに、毛細血菅が拡張して新陳代謝が高まる。このように放射線の働きによって免疫力や自然治癒力が高まることを、「ホルミシス効果」と呼ぶ。ちなみにラドンは無味無臭、無色だ。 

ホルミシス効果は老化や生活習慣病の予防にも貢献するといわれている。実際、三朝温泉地区の住民のがんによる死亡率は、全国平均の約2分の1であるとの調査結果もあるほど。ホルミシス効果のさらなる科学的解析が進むことを期待したいところだ。 

温泉街の中心に位置する三朝橋。夜になると石灯籠に明かりが灯る。

ラジウムは体内に取り入れても効果があり、近年ではラドンを吸入する熱気浴が注目されている。肺から取り入れられたラドンは血液によって全身に運ばれ、細胞を刺激し、さらに生活習慣病の原因といわれる活性酸素を消去することによって、動脈硬化症などの予防も期待できるという。三朝温泉の湯はミネラルが豊富に含まれているので、飲泉にも最適だ。 

「六根清浄と六感治癒の地」において三朝の湯は、疲れた心を癒やし、傷んだ体を治す。そして、現代を生きる人々の中で失われつつある何かを呼び覚ましてくれる。

射的や手打ちパチンコが楽しめるレトロな泉娯楽場。
三朝神社の和紙灯り。和紙玉と和傘による光の演出が幻想的だ。 
かじか橋の足湯「かじかの湯」。風情ある温泉街の夕景を眺めたい。

●天然ラドン熱氣浴泉 すーはー温泉

ラドン熱気浴では深呼吸するようにラドンガスのミスト(湯気)を体内に取り入れる。室温32〜42℃、湿度約90%の温泉熱を利用している。 

鳥取県東伯郡三朝町三朝939-1
TEL:0858-33-5772
料金:2200円(予約制・高濃度熱氣浴室「不老庵」利用の場合)
休館日:火曜日 
https://hippy-suhaonsen.ssl-lolipop.jp/ 

●三朝温泉·登録有形文化財の宿「木屋旅館」

明治元年から続く老舗宿、木屋旅館。ラジウム温泉は4つの浸かる温泉の他、吸う温泉、飲む温泉、寝る温泉などがあり、自家源泉から豊富で新鮮なラジウム温泉を供給している。

建物は国の登録有形文化財で、明治・大正・昭和それぞれの時代の意匠が随所に散りばめられている。 

「日本遺産の物語を感じさせる風情を当館で味わってください」と木屋旅館の御舩利洋さん。 

鳥取県東伯郡三朝町三朝895 
TEL:0858-43-0521
https://misasa.co.jp/

●山陰・三朝温泉「旅館大橋」

ほぼ全館が国の登録有形文化財に指定されている老舗旅館。名物「天然巌窟の湯」は三徳川で湯が自噴していた岩をそのまま湯船に生かして屋根で囲っただけの情趣あふれる温泉だ。 

鳥取県東伯郡三朝町三朝302-1
TEL:0858-43-0211
https://o-hashi.net/

撮影/遠藤 純 文/仲武一朗

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