新規参入の携帯電話会社、楽天モバイルへ、大手携帯電話会社のソフトバンクから転職した男が不正競争防止法違反容疑で1月12日に逮捕されました。報道によると、高速・大容量通信規格「5G」に関する「営業秘密」をソフトバンクから不正に持ち出した疑いがあるようですがそもそも、どのような情報が「営業秘密」に当たるのでしょうか。また、転職先で前職の人脈を生かして営業をしたり、前職の仕事のやり方を実践したりした場合、法的責任を問われるのでしょうか。

 芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

顧客リストは営業秘密に該当

Q.そもそも、どのような情報が営業秘密に該当するのでしょうか。また、不正競争防止法に違反した場合、どのような刑罰が科されるのでしょうか。

牧野さん「事業者間の公正な競争を維持するため、不正競争防止法では『不正競争行為』として、営業秘密の不正取得・開示・使用を禁止しています。営業秘密に該当する情報は企業が『秘密』として管理しているノウハウや技術情報、秘密データ、顧客リストなどです。例えば、顧客リストは企業にとって重要な営業秘密に当たるため、多くの企業では、従業員の退職時に名刺や顧客リストをすべて提出させています。

違反した場合は損害賠償責任、廃棄責任などの民事責任が問われるほか、10年以下の懲役、もしくは2000万円以下の罰金、または両方が科される可能性があります(同法21条)。また、前職の営業秘密をうっかり使用したり、開示したりした場合、刑事責任は問われませんが民事上の損害賠償責任、廃棄責任を負います」

Q.では、転職先で「前職の人脈を活用して営業活動を進める」「前職の仕事のやり方を実践する」「『前職ではこうやっていた』などと現職の社員にアドバイスする」などの行為をした場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。

牧野さん「前職の企業が当該情報を営業秘密として管理していたかどうかによって異なるため、一概にはいえません。しかし、前職の人脈を使って営業活動をしたり、前職の仕事のやり方を実践したりするなどの行為は一般的に行われており、企業が管理する営業秘密に該当しない範囲であれば問題ないといえます。ただし、前職の情報が営業秘密に該当するかどうか分からない場合、転職先で一定期間は使用したり、開示したりしないのが賢明でしょう」

Q.ビジネスの世界では競合他社の社員を自社に引き抜くケースもよく見られますが、その場合、前職の営業秘密が漏れるリスクが高まるのではないでしょうか。競合他社の社員の転職について、法律で規制されていないのでしょうか。

牧野さん「特定部門の営業秘密を不正取得するために上司と部下をごっそり引き抜くようなケースや、特定社員が知る営業秘密を不正取得するために、その社員を引き抜くようなケースは不正競争防止法違反に該当する可能性がありますが、それ以外は特に法律で規制されていません。社員には職業選択の自由があり、転職を制限することは難しいためです。

ただし、多くの企業では社員との契約(就業規則や誓約書の締結)で、社員の同業他社への転職を一定期間制限したり、営業秘密の漏えいを禁止したりすることで営業秘密の流出に備えています」

Q.過去の営業秘密の漏えいに関する事例、判例について教えてください。

牧野さん「東芝の半導体に関する研究データを韓国企業へ不正に渡したとして、2014年3月、不正競争防止法違反容疑で元協力会社の社員が逮捕された事例があります。その後、東京地裁は元社員に対し、不正競争防止法違反(営業秘密の不正開示)の罪で懲役5年、罰金300万円の判決を言い渡し、弁護側は控訴しました。しかし、東京高裁も一審の東京地裁の判決を支持し、弁護側の控訴を棄却しています」

Q.営業秘密の漏えいを防ぐため、企業が普段から心掛けるべきことはありますか。

牧野さん「先述の東芝事件や今回の5Gの事件のように以前から、営業秘密の不正持ち出し事件が多発しているため、企業側は『営業秘密の不正持ち出しは最終的に明らかになり処罰される(不正競争防止法違反で10年以下の懲役など)』ことを普段から、社員教育で徹底しておくべきです。会社のシステムから秘密データを不正取得しようとすれば必ず、記録(ログ)が残るため、いずれ発覚します。

また、新型コロナウイルス感染拡大の影響で在宅勤務を行う企業が増えており、営業秘密の漏えいリスクはますます高くなっています。そのため、企業側は普段から、不正取得や漏えいの発生を想定し、『性悪説』に基づく営業秘密の徹底した管理体制を整える必要があります。

なお、営業秘密として管理していない情報については、たとえ漏えいがあっても、企業側は情報を漏らした本人に対して法的責任を問えません。経営上、重要な情報は営業秘密として管理すべきです」