放送中のNHK大河ドラマ「青天を衝け」(毎週日曜 後8:00)。新型コロナウイルスの影響により、大河ドラマ史上初の2月スタート、東京五輪・パラリンピックによる放送休止などの紆余(うよ)曲折を経て、ようやく第30回の放送を迎えようとしています。

 主演を務めるのは俳優の吉沢亮さん。大河ドラマの主演俳優としては初の平成生まれで、その他、草なぎ剛さん、堤真一さん、ディーン・フジオカさん、高良健吾さんら豪華俳優陣の共演も注目を集めています。

 また、「風のハルカ」「あさが来た」「眩〜北斎の娘〜」など数々のNHK作品を手掛けてきた、大森美香さんが脚本を務めることでも話題になっている同ドラマが支持を得ている理由について、テレビドラマに詳しいライターの田幸和歌子さんに聞きました。

不安視されていた渋沢栄一

 同ドラマは「日本資本主義の父」とも称された主人公・渋沢栄一(吉沢さん)が幕末から明治へかけて、挫折を繰り返しながらも高い志を持ち続け、日本の未来を切り開くために奔走していく姿を描いた物語です。

「『青天を衝け』の制作が決まり、題材が渋沢栄一と発表された際には『地味じゃないか?』なんて声も多く聞こえたように感じます。確かに『日本資本主義の父』と言われていたものの、渋沢栄一って何をした人なのか、イマイチ分からなかった人も多くいたのではないでしょうか」(田幸さん)

「しかし、ドラマ冒頭での『明治維新で徳川は倒され、近代日本が生まれた…(略)』という徳川家康の言葉で、渋沢栄一がどういう立ち位置で、どの時代とつながりがある人なのかというのを視聴者に伝えた演出に“驚き”と“うまさ”を感じました。その後も、当初の不安を払拭(ふっしょく)するような、斬新な仕掛けや演出が作品の随所に見られます」

 田幸さんは、朝ドラ「あさが来た」のファンに向けてのサービスが作品の随所にちりばめられていると話します。

「『あさが来た』で大きな話題となった、ディーンさん演じる五代才助(友厚)が今作で再登場するという発表は大きな反響を呼びました。しかし、再登場と言いながら、栄一となかなか会わず、すれ違ってばかりでしたが、9月19日放送の第27回で初めて出会い、『東の渋沢、西の五代』とも称された2人が、ここでようやく会うんだという盛り上げ方にも脚本のうまさを感じました」

「序盤には玉木宏さん演じる高島秋帆が登場。栄一との熱い関係性は『あさが来た』でいうところのディーンさんの役割を、同作で白岡新次郎を演じた玉木さんが今作では務めたというのも、一つのサービスのような気がしました。また、同作で栄一を演じたのは三宅裕司さんでしたが、それを今作では、美男子な吉沢さんが演じる面白さもあり、『あさが来た』ファンにとっては、いろんなつながりが見られて、楽しんでいる方も多くいるのではないでしょうか」

 さらに、起用したキャスト陣の存在も人気を集めている要因の一つであると、田幸さんは分析します。

「初めから地味な印象を持たれつつあったので、出し惜しみせずに冒頭からいろんなことを盛り込んできた今作ですが、中でも最大の目玉は草なぎさんの登場でしょう。久しぶりのドラマ出演ということで、どんな形でいつ出るんだろうと放送前から話題になっていましたが、第1回冒頭という、この意表を突いた登場には驚きでした」

「さらに今作は“イケメン大河”とも呼ばれ、吉沢さんやディーンさんの他、磯村勇人さん、町田啓太さん、犬飼貴丈さん、板垣李光人さんら、顔面偏差値最強とも言われていたりと、すさまじいほどの絵力で視聴者の女性たちを夢中にしているはずです」

龍馬不在? 土方だけの新選組?

 田幸さんによると、今作はこれまでの大河ドラマにはあまりなかった特徴があるといいます。

「例えば、薩長同盟があるのに坂本龍馬が出てこなかったり、池田屋事件が描かれても、新選組で出てくるのは土方歳三だけなど、作品の随所に大胆な省きが見られます。勝海舟も出てきませんし、他にも、鳥羽・伏見の戦いや戊辰戦争を全然描かなかったりという演出にも驚かされました」

「これらは今までの大河にはなかった描き方です。賛否両論こそあるものの、こういった人たちや出来事を全部描こうとすると、話がややこしくなってしまう可能性もあり、大胆なカットや割り切りはむしろ、今作の特徴であって、面白いなと思う点でもあります」

 さらに、大森さんによる脚本にも、随所にうまさを感じると田幸さんは話します。

「今作での栄一はイライラしたり、悩んだりする姿が見られるなど、親しみやすい等身大のキャラクターとして描かれているようにも見えます。主人公に共感しやすい作りになっているのは、大森さんならではの描き方ではないでしょうか」

「また、新しいなと思ったのが、まげを切った栄一の写真を見て、妻役の橋本愛さんが『あさましい』と1人だけ非難したシーンが少し話題になりましたが、このような場面が大河ドラマで描かれることは、これまであまりなかったと思います。これは一般目線に近い視点で描いているからこその描写であり、大森さんの脚本によって、少し、ホームドラマ感も垣間見ることができて、面白いなと感じた場面でもありました」

「東京五輪・パラリンピックによる中断から、放送再開のタイミングで栄一と家族の再会を描くなど、いろんな意味での“さいかい”をぶつけてくるのも、うまい脚本だなと感心しました。最後まで飽きずに見てもらうための、さまざまなサービスと仕掛けが多く見られる作品になっている印象です」