コロナ禍でストレス要因が増え、うつ病などの精神疾患になる人もいる中、「休職中の旅行や遊びの是非」がSNS上で議論になっています。「ストレス軽減になるならいいのでは」「温泉旅行は療養の一つ」と肯定する声の一方、「仕事を休んで遊んでいるなんて」と否定的な声もあります。休職中の旅行や遊びの是非について、社会保険労務士の木村政美さんに聞きました。

海外旅行で騒動の事例も

Q.うつ病での休職中、旅行や遊びで出掛けることは問題ないのでしょうか。

木村さん「うつ病の治療にはまず、心と体を十分に休め、養生して回復に努めることが大切です。その上で、気分や体調がよくなってきたら、生活のリズムを整えたり、気分転換をしたりする目的で、無理のない範囲で旅行や遊びに出掛けることは可能です。

しかし、楽しんでいるつもりでも、心身に負荷がかかって疲労し、かえって回復が遅れる場合があります。また、休職中に旅行や遊びに行ったことが会社に知られると『病気をダシにしてサボっている』といった悪い印象を与えてしまうこともあります」

Q.旅行や遊びに行ったことが分かった場合、会社は懲戒処分や注意ができるのでしょうか。

木村さん「懲戒処分を行うためには、就業規則の休職規定に『休職期間中は治療に専念すること。長期の外出をする場合は主治医の意見書を添え、会社の承認を得ること』というような取り決めが必要です。この根拠条文がないと、懲戒処分をすることは基本的に難しいでしょう。

また、長期の旅行ではなく、1〜2泊程度の旅行や日帰りでの外出は、たとえ、遊びが理由であっても、懲戒処分はおろか、注意することも難しいと思われます。この場合、注意するというよりも『遊びに行くほど回復しているのであれば、早期の職場復帰を促す』ような形になるでしょう」

Q.休職中の旅行や遊びで問題になった実例があれば教えてください。

木村さん「うつ病での休職中、1カ月以上海外滞在していた社員がその様子を毎日、複数回にわたり、SNSにアップし続けたところ、偶然、社内の人間が発見して会社に露見、大騒ぎになった案件があります。会社側は懲戒処分も考えましたが、先述したような休職規定の項目がなく、休職中とはいえ、遊びで海外旅行をしたという理由だけでは処分できませんでした。

最終的には『海外滞在中、病院で診察を受けておらず、主治医への相談や会社への報告もなく、勝手に自己判断で治療を中断した』ということで、治療専念義務を怠った理由での『注意』となりました。さらに、早急に治療を再開して職場復帰するよう指導しました。その後、本人は帰国し、病院で治療を再開しました。昨今のSNSの普及で類似の案件がたまに見受けられます」

Q.他の社員が旅行や遊びの現場を見た場合、不公平感を抱いたり、職場の士気が低下したりすることが考えられます。会社側はどう説明すべきでしょうか。

木村さん「他の社員が不平等感を抱いたり、職場の士気が低下する原因として考えられるのは(1)休職者の仕事を肩代わりすることで、自分の業務量が増加し疲弊している(2)休職者と他の社員たちの待遇差に不満がある(3)休職者が療養中にもかかわらず、旅行したり遊んだりしていることに対して『仕事をサボっている』」という認識があり、その状況を会社が認めていることで士気が低下する――などです。

対処法としては(1)の場合、職場の社員数を増やす、業務分担を見直す、シフト調整を行う等して業務量の負担を軽減する。(2)なら、休職期間中の処遇見直しを行う。(3)の場合、就業規則などで休職中の過ごし方について明確な基準を設け、社員に周知するといった対策が考えられます」

Q.「休職中の旅行や遊び」が問題化しないために会社側がしておくべきことはありますか。

木村さん「まずは就業規則などで、休職に関する事項(休職中の過ごし方も含む)を定めることが基本となります。規則などを定めている場合でも、メンタルヘルス不調が原因の休職時の運用までは想定されておらず、内容が不十分な場合があるので、よく確認や検討をし、必要ならば、改定や整備を行うことが必要です。例えば、他の病気やけがで休職する場合、療養中に旅行や遊びに行くことは想定されていないと思います。

また、休職する社員には、休職が始まる際に休職中の過ごし方について説明し、理解を求める必要があります。この場合、口頭での説明だけでなく、『休職中のしおり』といった書類を作成して本人に手渡すことも重要です」

Q.休職中はどのように過ごすのが望ましく、会社側はどのように対応すべきなのでしょうか。

木村さん「休職中は治療に専念し、早く職場復帰できるよう、心と体の回復に努めることが大切です。しかし、いつも、自宅に閉じこもり、じっとしていなければならないかというとそうではありません。病状によっては趣味を楽しんだり、屋外での軽い運動(散歩など)をしたり、近隣へ旅行したりといった気分転換の行為が回復にいい影響を与える場合もあります。

しかし、注意してほしいのは、自身の勝手な判断で行動せず、療養という観点からみた可否について必ず主治医に相談し、アドバイスに従うことです。会社側は休職中の社員と接点を持たずに放っておくのはよくありません。休職中の状況について、就業規則などに定めがあれば、定期的に社員から報告させたり、会社から連絡したりして確認することは可能です。

状況把握については面談、メールでの確認、会社から質問票を送付して回答してもらうなどの方法がありますが、本人に負担にならないよう、考慮して決めましょう。また、職場復帰の判断をするための材料として、休職者本人の了承を得た上で、会社が主治医の意見を直接聞いたり、情報共有ができたりするような制度を整えるとよいでしょう」