年末が近づくと、会社員や公務員が必ず行うのが「年末調整」です。しかし、生命保険等の加入者に届く「保険料控除証明書」などの証明書を準備したり、「扶養控除等申告書」などの書類に記入したりと「手続きが面倒くさい」と感じる人も多いと思います。

 なぜ、手間がかかる年末調整が存在するのでしょうか。年末調整をしなくても、適正な納税額を国が徴収することはできないのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの長尾真一さんに聞きました。

「源泉徴収」はあくまで概算

Q.なぜ、手間がかかる「年末調整」が存在するのでしょうか。

長尾さん「会社や個人が人を雇って、給与を支払うとその都度、支払金額に応じた所得税などを差し引き、翌月10日までに国に納める義務があります。これを『源泉徴収』というのですが、この源泉徴収された所得税額はあくまで概算によるもので、正確な税額ではありません。

所得税額は毎年1月1日から12月31日までに、支払いを受けた収入金額から各種控除額を差し引いた金額に税率を掛けて計算しますので、1年間の収入金額と控除額が確定した時点で正しい税額を再計算する必要があります。この正しい税額と源泉徴収された概算の税額の過不足を調整し、還付・追加徴収するのが年末調整なのです」

Q.年末調整をすることに、どのようなメリットがありますか。

長尾さん「そもそも、所得税は本来、自分で所得と税額を計算し、それを税務署に申告して税金を納める『申告納税』です。しかし、会社員や公務員は源泉徴収と年末調整という制度があるおかげで面倒な税務申告を自ら行うことなく、勤務先にその処理を代行してもらっているのです。

先述したように、源泉徴収される税額はあくまで概算なので、適用できる控除が正確に反映されていません。そのため、年末調整で生命保険料や地震保険料の控除を申告すると、還付金が戻ってくる可能性が高くなります。なお、高額なボーナスを受け取ったり、配偶者や子どもが扶養から外れ、扶養控除額が減少したりした場合、逆に年末調整で追加徴収になる場合もあります。

いずれにしても、面倒な手続きに思えるかもしれませんが、自分で確定申告をすることに比べれば、年末調整は比較的簡単な手続きであることに間違いありません」

Q.控除が受けられるのに「必要書類を集めるのが面倒」という理由で、名前とはんこ以外、何も記入しない申告書を提出した場合、どのようなデメリットがありますか。

長尾さん「控除は申告しないと受けられないので、本来なら受けられるはずだった還付を受けられないことになってしまいます。また、還付を受けられないだけでなく、場合によっては控除の申告をしなかったことにより、税金を追加徴収される可能性もあるので、年末調整はきちんとやっておいた方がよいです。

生命保険や地震保険の控除証明書は請求をしなくても、保険会社から送られてくるので、届いたらなくさないように保管し、年末調整の際には、その証明書を添付して申告書を勤務先に提出します。また、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)も1年目は確定申告をする必要がありますが、2年目からは年末調整で済ませることができます。

税務署から届く『証明書兼申告書』と住宅ローンを組んだ金融機関から届く『年末残高証明書』を添付する必要がありますので、こちらもなくさないように注意してください」

Q.控除の申告をしなければ、結果的に本来よりも多くの税金を支払うことになりますが、この場合は自己責任になってしまうのでしょうか。

長尾さん「自己責任となってしまいます。ただし、年末調整で控除の申告をしなかったとしても、確定申告をして、控除を受けることはできます。また、源泉徴収によって納め過ぎた所得税などは、その該当年の翌年1月1日から5年間は還付申告を行うことによって、還付を受けることができます。

なお、年間給与が2000万円を超える人は年末調整の対象にはならず、自分で確定申告をする必要があります。また、勤務先の給与以外に20万円以上の収入がある人も確定申告をしないといけないので、注意が必要です」

Q.年末調整の際、特に忘れがちな申請事項があれば教えてください。

長尾さん「納税者に控除対象扶養親族がいる場合、扶養控除が受けられますが、70歳以上の親族を扶養している場合や、所得税法上の障害者に該当する親族を扶養している場合、通常よりも多く控除が受けられるなど仕組みがやや複雑なところがあります。同居はしていなくても生計を同じくする親や、失業中で生活費を負担している子どもを申告し忘れていることもあるので、扶養控除についてはよく確認することが大切です。

また、配偶者が年収130万円(勤務先の従業員が501人以上であれば106万円)を超えると社会保険の扶養から外れますが、そうすると『配偶者に関する控除が受けられない』と誤解する場合があります。実際には配偶者の年収が103万円を超えると配偶者控除の対象からは外れますが、201万円以下であれば、配偶者特別控除が受けられます。社会保険の扶養であるかどうかは問いませんので、誤解しないように注意が必要です。

それ以外では、大学生の子どもの国民年金保険料を負担した場合や、生計を同じくする親族の国民健康保険料、介護保険料などを負担した場合、社会保険料控除の申告を忘れるケースがあるので注意してください」

Q.とはいえ、簡略であったとしても、納税者は時間と労力を費やさないと適正な納税額を確定できません。年末調整をしなくても、適正な納税額を国が徴収することはできないのでしょうか。

長尾さん「現在の税制で、年末調整や確定申告なしに国が適正な税額を徴収することは困難だと思います。なぜなら、所得税の正確な税額を国だけで把握することが不可能だからです。固定資産税や不動産取得税、自動車税などは地方公共団体や国が税額を計算して納税者に通知するので、納税者の税額を把握できます。

しかし、所得税は納税者全員の年収を国が把握しているわけでもなく、また、納税者によって適用される控除もさまざまだからです。つまり、納税者からの申告がなければ、所得税額を確定できないので、年末調整や確定申告が存在するわけです。ただ、キャッシュレス化やデジタル化が進めば、いつか、年末調整や確定申告が不要な時代になる可能性はあるかもしれません」