マイナビの「大東亜」ツイート以降、「学歴フィルター」の議論が活発です。そのような中、経団連が「新卒一括採用」の見直しを加速させるよう、企業に促す方針であることが分かりました。これは4月の新卒一括採用の割合を減らし、中途採用や通年採用を拡大するというものです。採用市場は変わるのでしょうか。

ミスマッチに翻弄される企業と学生

「就活のミスマッチ」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。ミスマッチとは、採用する企業と学生との間に認識のズレがあり、入社後にギャップが生じて、新卒社員が早期に離職してしまうことを意味します。多くの就職本では、3年で3割の新卒社員が離職することが「ミスマッチ」の基準とされていますが、実際はどうなのでしょうか。

 関心のある方は「新規学校卒業就職者の調査」(厚生労働省)の調査レポートを過去にさかのぼって調べてください。昭和40年の高度経済成長時代から、ミスマッチは社会問題として取り上げられています。多少の変動はあるものの、当時の数値と現在の離職率にそれほどの乖離(かいり)があるわけではありません。

 高度経済成長でもバブル景気でも、リーマン・ショックでもコロナ感染拡大でも、それほどは変わらないということです。就職情報会社は「3年で3割も辞めるんです。だから、ミスマッチです」「いい学生を採用しないと大変です」「階層間の分断が生まれます」と声高に言います。3年3割のミスマッチはそれほど異常な事態なのでしょうか。

 この数値を検証してみましょう。ソースは2010年以降のものを参照しますが、米労働統計局によれば、大卒者が32歳までに平均8回転職することが明らかになっています。英国家統計局によれば、大卒者が入社4年以内に3回以上の転職をする割合が「男性22.7%、女性26.4%」で、大韓民国統計庁によれば、大卒者が初めて入社した会社の平均勤続年数は2年未満、3年後の離職率は7割を超えています。

 各国の調査結果は調査項目が統一されていないため比較は難しいですが、少なくとも日本のミスマッチとされている基準(3年3割)が高いとはいえません。高くないということは、日本のミスマッチの定義自体がそもそも間違っているということです。ミスマッチがクローズアップされることが極めてナンセンスだといえるのです。

いっこうに変わらない新卒採用

 学生の志向はどのように変化しているのでしょうか。1970年6月10日、日経新聞に採用関連の記事を見ることができます。「人気企業は安定企業に」とあります。ここでいう安定企業は大手企業のことを指しています。採用市場において、大手企業以外に注目が集まり、応募が殺到したという話は聞いたことはありません。

 これまで、バブル崩壊があり、新卒者の青田買いが社会問題となり、リーマン・ショックがあり、コロナ禍の時代になりました。インターネットが普及し、新たなビジネスが誕生するなど、さまざまな社会システムの変化はありました。しかし、採用は基本的に変化に乏しい市場だということが分かると思います。

 では、企業にとって、新卒採用を行うメリットは何でしょうか。それは社員を純粋培養できることにあると考えています。売れ筋の商品を持っている会社であれば、年齢の高いベテランや中途よりも、新卒の方がはるかに人件費を抑えることができます。新卒入社して、数年は社会勉強の期間です。疑問を持つことなく働いてくれます。

 ところが、入社して数年がたち、役職者になれば、仕事を客観視して、場合によっては疑問を持つことも考えられます。複数企業を経験している中途社員は比較する物差しがありますから、このような違和感に気が付くことがあります。新卒社員は純粋培養されていますから、このような違和感に気付くことはありません。

企業にとって採用の成功とは

 現在、日本ではコロナの感染拡大が抑えられていることから、各種、メディア等で各企業の採用意欲が高まっている記事が並びます。しかし、企業は「学歴フィルター」による選考を止めることはできません。その理由は主に2つ挙げられると思います。

<1つ目の理由>

 有名大学の学生には原則的に外れが少ないことが挙げられます。入社試験をやらせても高得点は有名大学の学生の方が多く、競争に勝ち残ってきたことが評価されています。また、運も持ち合わせていなければ、有名大学への合格はできません。大手企業や人気企業においては効率性を鑑みても「学歴がフィルター」が指標にならざるを得ないのです。

<2つ目の理由>

 採用の成功を客観視するには「有名大学の学生が何名採用できたか」で可視化するしかありません。例えば、採用担当者が今年の採用はうまくいったと上司に報告したとします。上司は「どこの大学の学生が何名採用できたか」報告を求めてくることになります。仮に人物的にも素晴らしく、能力値の高い学生だったとしても、有名大学でなかったり、採用実績校ではない学生では、上司は評価することが難しくなります。

 今の時代はSNSの普及により、ネガティブな情報を隠す方が難しくなっています。「厳選採用を演じる企業」と「就活を演じる学生」の矛盾は双方にとって機会損失をもたらすことになります。見直した方が双方にとって好ましいはずですが「学歴フィルター」はなくなりません。「新卒採用」もなくならないでしょう。

 経団連の「新卒一括採用」の見直しを無視したところで罰則はありません。だから、毎年、青田買いが行われます。内々定は解禁前に出されています。何らかの罰則や規制をかけないことには変わるとは思えないのです。