社員のことを一般的に「人材」と呼びますが、中には「人財」と呼ぶ企業もあります。「人はビジネスの材料ではなく、財産なんだ。だから、人材ではなく、人財と呼ぶべきだ」という理屈ですが、この「人材か、人財か論争」は両者の言い分を聞いても、どちらが正しいのかよく分からなくなります。それぞれの企業や人の考え方で、好きなように使えばよいと思うのですが、白黒をつけようとすることに意味はあるのでしょうか。社会保険労務士の木村政美さんに聞きました。

バブル期の企業アピールで拡大

Q.「人材」は「ビジネスの材料」という意味なのでしょうか。

木村さん「『材』という字は一般的に、原料や材料のことを指しますが、他に、能力、才能という意味もあります。そのため、『人材』とは『仕事をする上での才能や能力のある人』のことも指しています。ビジネス上で『人材』のことを『人財』と表現する企業や経営者がいますが、『財』は『たから』とも読み、価値のある有形や無形の財産、富を表しています。

人財とは、企業にとって大切な人のことであり、『大切な』というところを『たから』になぞらえているといえます」

Q.「人財」と呼ぶ人が現れたのは、いつごろからで、背景に何があったのでしょうか。

木村さん「『人財』という言葉は1960年代後半の高度成長期、書籍の中に記載があったとされています。当時は、社員のことを才能や能力で見るのではなく、費用(コスト)として捉えています。その後、『人財』が盛んに使われるようになったのは、1980年代後半のバブル期の頃です。

この時代の雇用事情は人手不足による売り手市場であり、企業が入社試験を受けた学生に対して、『わが社の宝として、大切にします』という意味を込め、『人財』と呼ぶようになったとされています」

Q.なぜ、「人材」か「人財」かの呼び方で賛否両論の議論になると思われますか。

木村さん「社員から見た場合、漢字の意味をそのまま読むと、人を材料だとする『人材』よりも財産だとする『人財』の方が、会社が社員を大切にしてくれているというイメージを持ちやすいです。しかし、企業の中には、人財は社員そのものの能力や才能ではなく、『企業の収益を上げてくれるための能力』として見ているところもあり、人の労働力を商品として捉えていることに反感を覚える社員もいます。

そうした、社員と企業の考え方の違いが賛否両論の議論につながるのだと思われます。また、社員を大切にしようとまでは考えず、求人の際、求職者に対して企業の印象を良くする目的で『人財』を使っている場合もあります」

Q.「人材」か「人財」かで白黒にこだわることに意味があるのでしょうか。

木村さん「どちらが正しいのか、白黒をつけて決めることは意味がないと思います。先述したように、表向きは『人財』を使い、社員を大切にしているように見えますが、実際は『企業の収益を上げてくれるための能力』としてしか見ていない企業もあります。

一方で、社員は宝であり、人材として大切に考える企業や経営者も存在し、その思いを社員や求職者、外部などにアピールするために、あえて、『人材』ではなく、『人財』の文字を使うことがあります。また、『人財』は『人材』の当て字として使われていることも多いようです。

本来は言葉の意味に沿って正しく使うことがよいのですが、たとえ、『人財』の使い方が間違っていたとしても、その文字に込められた思いまでを否定することはできないでしょう。『人材』と『人財』では、言葉の受け手が感じるイメージが違うため、受け手が言葉の意味を正しく認識しない限り、それが正しいか否かにかかわらず、『人財』が多く使われることになると思われます」

Q.今後、「人材」か「人財」かの呼び方の議論は、どのようになっていくのが理想だと思われますか。

木村さん「『人材』か『人財』かの呼び方にこだわるよりも、むしろ、企業が社員のことをどのように考え、扱っていくかが大切ではないでしょうか。社員のことを単に、企業の収益を上げるための労働力として考えるのか、それとも、教育・研修やより高度な仕事に挑戦させる機会を与えるなどの人的投資を行い、企業の宝として、その人の能力や価値を高めていくことを考えるのかです。

労働者から見れば、前者よりも後者の企業で働きたいと思うでしょうし、人をただの労働力としてしか見ていない企業は優秀な社員が育たないばかりか、社員が定着しないので慢性的な人手不足につながり、職場環境が悪化する可能性が大きくなります。また、当然ではありますが、自己研さんを積むなど、社員にも『会社の宝』となるための努力が求められるでしょう」