テレビの情報番組やネットなどの記事を見ていると、弁護士が番組に出演したり、取材を受けたりして、事件・事故の法的責任を解説することがよくあります。このとき、気になるのが、所属先の「法律事務所」の名称に弁護士の名字やフルネームを冠した名称が多いことです。一般企業でも、トヨタ自動車やブリヂストンなど、創業者の名前に由来する企業名は存在しますが、多くの企業では、企業名に独自性を出そうとする傾向があるように思います。

 なぜ、法律事務所では、所属弁護士の名前をそのまま、名称にすることが多いのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

植物名や好きな言葉になることも

Q.そもそも、「弁護士事務所」ではなく、「法律事務所」と呼ばれているのはなぜですか。何らかの規則があるのでしょうか。

佐藤さん「弁護士の事務所は『法律事務所』と称することが法律で決まっているからです(弁護士法20条1項)。なお、弁護士が法律業務を行う法人を設立した場合、名称の中に『弁護士法人』という文字を使用しなければならないことになっています(同法30条の3)。一方、弁護士や弁護士法人でない者は『弁護士』や『法律事務所』の表示をしてはいけません。『○○法律相談所』など、利益を得る目的で法律相談などを扱う旨の表示をすることも禁じられています(同法74条)。違反すれば、100万円以下の罰金に処される可能性があります(同法77条の2)。

法律でこうしたルールが定められているのは、市民に対して、弁護士の事務所であることを分かりやすく示すためです。法的トラブルを解決するためには高い専門性が必要であり、報酬を得る目的で制限なく、法律事務を扱えるのは弁護士だけというルールになっています(同法72条)。市民が紛らわしい表示によって弁護士以外の者に依頼してしまい、抱えていたトラブルがかえってこじれてしまったり、新たなトラブルに巻き込まれてしまったりしないよう、このようなルールになっています」

Q.なぜ、法律事務所では、所属弁護士の名前をそのまま、名称にすることが多いのでしょうか。

佐藤さん「『法律事務所』の文字を入れる以外に特にルールはないので、各事務所が自由に名称を決めているのですが、経営している弁護士の名前をそのまま、法律事務所名としているケースは確かに多いです。法律事務所に所属しているといっても、経営している弁護士の他、勤務している弁護士や間借りしている弁護士など、いろいろな立場の弁護士がいます。事務所名に弁護士の名前を入れることで、誰の事務所なのか、より正確に言えば、誰が経営している事務所なのかがはっきりします。

伝統的にそうした事務所が多いことから、それに従って、経営者の名を付けた弁護士もたくさんいるのではないかと思います」

Q.複数の弁護士が所属している法律事務所では、例えば、「鈴木・田中法律事務所」など名字を羅列した名称の事務所があります。名字だけにしたり、羅列したりする意味は何でしょうか。

佐藤さん「複数の弁護士で事務所を経営している場合、経営者の名字を羅列した名称にすることがあります。複数の経営者のフルネームを入れると、事務所名が長過ぎてしまうので、名字だけにしているケースが多いのではないでしょうか。中には、名字を羅列した事務所名に、お堅い印象を受ける人もいるかもしれません。受け手の印象なども踏まえ、柔らかな響きの植物の名前を取り入れたり、経営者の好きな言葉を取り入れたりするケースもあります。どのような名前を採用するかは経営者の好みかと思います」

Q.佐藤弁護士も「佐藤みのり法律事務所」と名前を冠していますが、どのような背景から、自分の名前を事務所の名称にしたのですか。

佐藤さん「司法修習でお世話になった法律事務所も、初めて勤務した法律事務所も、経営している弁護士のフルネームが法律事務所名になっていました。そのため、私もシンプルに自分の経営する事務所ということで、フルネームを入れることにしました。また、『佐藤』という名字は日本で一、二を争うほど多い名字なので、他の法律事務所と区別がつきにくくなることを防ぐためにも、フルネームの方がよいかと思いました」

Q.弁護士の名前を名称にしない法律事務所もありますが、そうした事務所は少数なのですか。もし、名前を名称にしない場合、どのような名称になる傾向がありますか。

佐藤さん「弁護士の名前を名称にしない法律事務所も多くあります。中でも、法律事務所の所在する地名を事務所名に入れるケースは多いように思います。他の事務所と区別するため、地名に加えて、『第一』や『総合』といった文字を入れることもよく見られます。その他、先述したように、弁護士の好みで植物の名前を入れたり、好きな言葉を入れたりすることもあります。例えば、『さくら』や『みらい』といった言葉はよく採用されているように思います。

最近は、カタカナや英字が入った事務所名もよく見かけるようになり、法律事務所の名前も多様化してきたように感じます」