デパートやコンビニ、レストランなどで、店員が胸元に「名札プレート」を着けていることがあります。最近はストーカー犯罪やクレーマーから店員を守るために、名字だけの名札プレートがほとんどになりましたが、「名字だけでも不特定多数の人に見られるのは不安」という声もあるようです。接客業の店員はどのような目的で、名札プレートを着けているのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

百貨店業界が先駆けか?

Q.そもそも、日本で名札プレートを着けるようになったのは、いつごろからですか。

大庭さん「個人を識別するなどの理由で、人の名前を札に書いて表す文化は少なくとも戦国時代には存在していました。また、学校では、児童・生徒の名前を書いた布を着物に縫い付けることが戦前から行われていました。接客業の店員に関しては、いつごろから、名札プレートを着け始めたのか、具体的な記録を見つけることはできませんが、この慣習が始まったのは少なくとも、国民生活の中に洋服が定着した戦後であることは間違いないはずです。

どのような店が最初に始めたのかも定かではないのですが、客との距離を縮めることを大切にしながら、商品・サービスを販売する業種、例えば、百貨店業界などが先駆けて、そのような対応を行っていたのではないかと推測されます」

Q.接客業の店員はどのような目的で、名札プレートを着けているのでしょうか。本当に必要なのでしょうか。

大庭さん「店員が名札プレートを着ける主な目的は(1)来店した客が声をかけやすいようにするため(2)来店した客に対して親しみの持てる接客を行うため――です。客が、商品の配置場所や内容を確認したいとき、店員の名前が分かっていることで気持ち的に声を掛けやすくなります。さらに、名前の分かっている相手から接客を受けることで、客が親しみを覚えやすくなります。これらのことはいずれも、客がその店で商品を買う可能性を高めることへとつながることなので、必要な対応だと考えられています」

Q.中には、ストーカーやクレーマーから店員を守るために、偽名やニックネームの名札プレートを着けている店もあるそうですが、本当ですか。なぜ、そこまでして名札プレートを残す必要があるのでしょうか。

大庭さん「本当です。例えば、居酒屋など接客のフレンドリーさを売りにしている店では、店員がニックネームを表記した名札プレートを着けて接客対応をしているケースもあります。店員の名前の表示形態は法令で定められている薬局を除き、基本的に企業(店)側の判断に任されています。接客を伴う店では、店員への声の掛けやすさや、店員への親しみやすさが客側の購買意欲を高めることにつながるため、本名が表示されていなくても、現状では、名札プレートを残す必要があると考えている店が多いのではないでしょうか」

Q.以前は店員が名札プレートを着けていたのに、現在は廃止した店はあるのですか。

大庭さん「店員の名札プレートの着用を廃止した店の存在を、私の知る限りでは聞いたことがありません。名札プレートの着用は就業規則などで従業員(店員)に義務付けているのが一般的であり、店員が拒むことは難しいです。拒むと業務指示違反となり、ペナルティーの対象となってしまうからです。企業(店)が店員の名札プレートの着用を廃止する場合、就業規則などで根拠をなくす対応が必要となります」

Q.今後、店員の名札プレートは存続していくと思われますか。あるいは、徐々になくなっていくと思われますか。

大庭さん「名札プレートを店員に着けさせる意味は、先述したように、客との距離を縮めて販売機会を拡大することです。そのため、店員が名札プレートを着用する慣習は、基本的には続いていくのだろうと私は考えています。ただし、本名を知られることで、店員がストーカー的な被害に遭うなどのリスクが顕在化した店では、名札プレートの着用をなくすことも間違いではないと思います。

法律で、使用者(店側)に、労働者(店員)が心身とも健康かつ安全に業務に従事できる環境を確保しなければならない義務(安全配慮義務)が課せられているからです。このことへの対応として、例えば、店員が客から声をかけられる理由が、商品や売り場の案内に関する質問が大半である場合、そのことへの対応を行う店員に特定の服装をさせて、店内の表示やアナウンスで『商品や売り場についてお尋ねになりたいお客さまは○○の格好をしたスタッフに、お気軽にお声掛けください』というような案内を行うことが考えられます」