「第7波が来たのでは?」との声もある新型コロナウイルスですが、オミクロン株の系統の一つ「BA.2」の感染が広がり、さらに新たな系統「XE」も国内で確認されたと厚生労働省が発表しました。そもそも「株」と「系統」による違いは、どういう意味なのでしょうか。アルファ株、デルタ株などと名前が付いてきたのに、今回の変異は、なぜ、新たな「株」と認定されないのでしょうか。医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。

変異の大きさの違い

Q.「系統」とはどういう意味でしょうか。「株」との位置づけの違いを教えてください。

森さん「同じウイルスであるものの、異なる性質を持つグループを『株』と分類します。ウイルスは、増殖や感染を繰り返す過程で、遺伝情報の一部に変化が起こることがあり、これを『変異』と呼びます。新型コロナウイルスも感染の拡大によって、大小の変異を重ねてきました。

その中で、ウイルスの性質が変化するような大きな変異があると、新たなグループとして位置づけられます。これがオリジナル(『従来株』)に対して『変異株』と言われるもので、世界保健機関(WHO)の命名システム(WHOラベル)において、『デルタ株』や『オミクロン株』と命名されているものです。

その変異株も、さらに変異します。同じ株であっても、変異の箇所が異なるものを細かく分類しており、オミクロン株における『BA.2系統』などがこれにあたります。オミクロン株には『BA.3系統』や『BA.4系統』などもありますが、これらは共通する変異が多いものの、それぞれの系統で特徴的な変異が見られます。

また、異なる変異株や異なる系統の間で、遺伝子の一部が組み換わって新たに生成される組み換え体も確認されています。『XE系統』というのは、オミクロン株のBA.1系統とBA.2系統の間で起きた組み換え体です。少し前に『デルタクロン』という通称で報道されたのはオミクロン株(BA.1系統)とデルタ株の間で起きた組み換え体のことです。これは『XD系統』『XF系統』『XS系統』に分類されています。

こうした分類は『PANGO(パンゴ)系統』という新型コロナウイルスに関して用いられる国際的な系統分類命名システムで決められています。近年は、遺伝情報の変化がゲノム解析によって迅速に正確に調べられるようになったので、詳細な分類が可能になりました。

ちなみに、系統名の冒頭の文字が『X』に飛んだように見えますが、PANGO系統の『系統リスト』を見ると、2021年1月にアルファ株(B.1.1.7系統)とB.1.177系統の組み換え体を『XA系統』と分類したのが最初で、『X』は、異なる変異株や異なる系統の間で新たに生成された組み換え体に対して付与されています」

Q.過去流行したデルタ株やアルファ株にも、新たな「系統」があったのでしょうか。もしあったとすれば、それがあまりニュースにならなかったのはなぜでしょうか。

森さん「他の株にも、新たな『系統』はありましたが、流行による社会生活への影響がそれほどまで大きくなかったため、関心が高くなく、報じられる機会も少なかったのだと思います。

一方、オミクロン株のBA.2系統がこのように話題になっているのは、従来のオミクロン株(BA.1系統)よりも、感染・伝播性が高いことが分かったからです。従来のオミクロン株(BA.1系統)自体が、デルタ株より感染・伝播性が高く、世界中で急拡大したことを踏まえ、BA.2系統はさらに感染力が強いということで、感染者の急激な増加による医療提供体制への影響と社会生活への影響が懸念されているのです」

Q.なぜ新たな「株」を名付けずに、「系統」で表現するのでしょうか。

森さん「新型コロナウイルスのゲノム解析によって、これまでにどんな変異が起きてきたかを系統樹に表すことができます。変異が起こる度に枝分かれしていき、ウイルスの性質が変わるような遺伝情報の変化があった場合は『変異株』として新たなグループに分類します。そこから枝分かれした変異については、同じ変異株の新たな『系統』となります。

BA.2系統は、グルーブとしては『オミクロン株(B.1.1.529)』のグループであるので、新たな変異株に分類されず、枝分かれした『BA.2系統(B.1.1.529.2)』となります。

今回のBA.2系統は、感染・伝播性が高くなってはいるものの、ウイルスの性質が変わるような遺伝情報の変化があったとはいえない、ということでしょう」

Q.オミクロン株のBA.2、XEの特徴を教えてください。

森さん「オミクロン株BA.2系統の特徴として、イギリスやデンマークなど海外の報告から、BA.1系統(従来型)よりさらに感染・伝播性が高いと考えられています。京都大学の西浦博教授らによれば、1人から何人に感染させるかを示す『実効再生産数』はBA.1系統より26%高くなり、次の人に感染させるまでの『世代時間』は15%短いと推計されています。つまり、BA.1系統より、さらに感染拡大のスピートが速いと考えられています。

重症化する割合についてはまだ分かっていませんが、BA.1系統より高いという報告はありません。ワクチンの効果についても、まだ明らかにはなっていませんが、BA.1系統と同等と考えられ、発症予防効果や感染予防効果は、デルタ株より低くはなりますが、重症化や死亡を抑える効果は維持されそうです。

XE系統については多くはまだ分かっていませんが、国立感染症研究所は4月11日時点のレポートで、『感染者の増加する速度が、BA.2系統より12.6%高い』というイギリスの報告を紹介しています。また、『基本的な性状は、BA.2系統の形質を有すると考えられ、ウイルスのスパイクタンパク質を標的とする中和抗体医薬やワクチンの効果も、BA.2系統に対する効果と同等と考えられる』という予測をしていますが、一方で『ウイルス感染に与える影響については不明であり、感染伝播性や病原性などのウイルスの形質の変化の有無や感染拡大状況を注視していく必要がある』と、現時点での見解を示しました」

3回目のワクチン、必要?

Q.オミクロン株のBA.2系統が主流となっていることを踏まえての感染対策を改めてお願いします。3回目のワクチン接種がまだの人は、急いだ方がいいのでしょうか。

森さん「個人の感染対策はこれまでと変わりません。人と接触する際のマスクの着用(会話する際は、特にに注意が必要)、小まめな換気、リスクの高い環境(密閉、密集、密接)を避ける、手を洗う(消毒する)などを継続することが、基本的な感染対策となります。

先述の通り、オミクロン株BA.2系統に対するワクチン追加接種(3回目接種)の効果は、BA.1系統とほぼ同等と考えられ、対デルタ株より発症予防効果は低下するものの、入院や重症化、死亡については効果を保つとみられています。

また、4月4日に兵庫県と神戸大学医学研究科付属感染症センターの研究グループは、追加接種(3回目接種)によって、BA.2系統に対しても中和抗体価が上昇したと報告し、感染拡大を抑制する効果を期待できるという見解を発表しました。

重症化リスクは高齢者で高くなりますが、あらゆる世代に重症者がいること、感染後に後遺症とみられるさまざまな症状で苦しむ人がいることから、BA.2系統への置き換わりが進む現時点でも、追加接種(3回目接種)は重要な対策だと考えられます」