カフェやレストランのPRとしてよく使われるのが、「隠れ家」という枕ことばです。「秘密にしておきたい隠れ家カフェ」「大人の隠れ家レストラン」など、「隠れ家」という言葉を頻繁に目にしますが、この言葉の定義がいまひとつ分かりません。「メディアでPRすると、多くの人に知られて『隠れ家』ではなくなるのでは?」と、矛盾すら感じてしまいます。カフェやレストランの紹介でよく使われる「隠れ家」とは、どういう意味なのでしょうか。トータルフードコンサルタントの小倉朋子さんに聞きました。

本当の「隠れ家」は取材を受けない

Q.グルメ雑誌やテレビの情報番組で、「隠れ家」という枕ことばが付いた、カフェやレストランの紹介をよく見ます。こうした表現が使われ始めたのは、いつごろ、何がきっかけでしょうか。

小倉さん「使われ始めた明確な時期は不明ですが、昔から『隠れ家的』な知る人ぞ知る飲食店はあり、当初は『政治家がお忍びで来る店』などのように、『お忍び』の意味で使われていました。

その後、バブル景気のとき、さまざまなレストランが雑誌などで紹介され、会員制の店や看板のない店も増えたので、おそらくその頃から『隠れ家』という表現がよく使われ始めたのではないでしょうか。

そして、その後もグルメ情報サイトなどが生まれ、さまざまな媒体で飲食店が紹介されるようになると、『隠れ家的/隠れ家風』という表現によって、飲食店をタイプ化、カテゴリー化させていったように思います」

Q.カフェやレストランの紹介でよく使われる「隠れ家」とは、どういう意味なのでしょうか。

小倉さん「ひと言で言えば、『簡単には入りにくい店』といえるでしょう。簡単に入りにくい意味には幾つかあるといえます。

例えば、(1)看板がない、または目立たない看板である(2)マンションの一室や一軒家など飲食店とは思えない外観、場所にある(3)交通の便が悪い、人通りが少ない裏通りにあるなどの立地条件(4)店のホームページがない(5)店の連絡先や場所を公開していない(6)紹介制や会員制など一見さんお断り(7)店内の様子が外からは見えない─などが考えられます」

Q.「隠れ家」と呼べる条件を満たしていても、多くの人に知られている場合、「隠れ家」と呼べるのでしょうか。

小倉さん「条件を満たしていれば、全て『隠れ家』と呼べるわけではありません。例えば、店が交通不便な場所にあったり、どこにあるのか分かりにくかったりしても、長い行列ができる人気店もあります。こうした店の場合、『隠れ家』という定義にはならないでしょう」

Q.メディアでPRすると、多くの人に知られ「隠れ家」ではなくなると思います。店のアピールポイントを自ら壊しているように思いますが、大丈夫なのでしょうか。

小倉さん「そもそも、『隠れ家』には、大きく2つあります。1つ目は、隠れ家として本当に公開したくない店、2つ目は、『隠れ家的/隠れ家風』な店です。

前者は、そもそもメディア取材を受けません。店側が受けたい客だけを相手にコミュニケーションを取って運営していきます。一方、後者は、隠れ家のコンセプトに似せた雰囲気の店づくりをしている店だともいえます。そのため、店のメディア露出が問題ではないことが多いです。

また、『隠れ家』というコンセプトではなくても、メディアが『隠れ家風』の店として紹介する場合もあります。以前は、店がメディアで紹介されると新規の客が急増し、常連客が来店しにくくなったことが度々ありました。しかし、近年は、メディア側も取材の内容を公開してよいか店側とコンセンサスを取ることが多くなり、問題は起こりにくくなっています」

Q.隠れ家ではない場合でも、「隠れ家的/隠れ家風」という曖昧な表現で店をPRするケースもあります。カフェやレストランにとって「隠れ家」という言葉でPRすることは、大きな魅力なのでしょうか。

小倉さん「『隠れ家的/隠れ家風』という言葉は、店の個性になりアピールポイントだといえるでしょう。『隠れ家』という言葉が持つ、『自分だけが知っている』『特別感』といった客側の自尊心をくすぐるイメージがあると思います。

また、『隠れ家的/隠れ家風』であれば、落ち着く雰囲気であるとか、大人の客が集う店だろうと想像しやすいので、そのような店でありたいと望む店であれば、こうした言葉は使いやすいといえます。

そもそも、飲食店に限らず、子どもの頃にかくれんぼをしたり、秘密基地という言葉にワクワクしたり、大人にもお化け屋敷や忍者屋敷が人気なのは、『隠れる』という言葉に魅力を感じるからです。『隠れ家』という言葉そのものに、エンターテインメント性があるといえるでしょう」