日本の会社の中には、「社員は家族だ」とうたっているところがあります。しかし、この言葉に対する印象は、かなり悪いようです。ネット上には、「そんな会社では働きたくない」「ブラック企業の常とう句」など、ネガティブなコメントが数多く見られます。一見するとそこまでネガティブではないと思うのですが、なぜ、「社員は家族」という言葉は、嫌われているのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

「終身雇用の崩壊」が大きく影響

Q.「社員は家族」という言葉は、本来、どのような意味で使われ始めたのですか。

大庭さん「『社員は家族』は、トヨタ自動車(愛知県豊田市)の創業者の豊田喜一郎氏が語った『社員は家族であり、会社の宝である』という言葉に代表されるように、『会社(経営者)は、社員を家族のように大切にし、会社(経営者)と社員が心を通じ合わせて、一致団結して会社を成長させていくことのできる経営を目指す』という意味合いの経営理念を表す言葉として使われていました」

Q.「社員は家族」という言葉を会社が使うことについて、世の中の評判はよくありません。なぜ、嫌われていると思われますか。

大庭さん「本来の『社員は家族』という言葉の意味を履き違え、社員に甘えて自分(経営者)に都合の良い働き方を押し付け、さらには、社員のプライベートにまで介入するような経営者がいるからです。

『家族のような存在なのだから、会社のためにこうしてほしい』という名目で、サービス残業の強要や、有給休暇を使わせないなど、労働者の権利を侵害し、あるいは、パワーハラスメントのような行為が行われているケースがよくあります。

このような理由から、『社員は家族』と掲げる企業は『ブラック企業』だというイメージが世の中に存在します」

Q.言葉の意味が、変わってしまったきっかけは何でしょうか。

大庭さん「『終身雇用の崩壊』が大きく影響していると思います。

戦後の高度成長期は、終身雇用が世の中に定着し、労働者の会社に対する帰属意識が総体的に高い時代で、『社員は家族』という言葉は『会社が社員を守ってくれる』とポジティブな意味で受け取られるケースが多かったです。

しかし、終身雇用の概念が崩壊し、働き方や働く目的も多様化した現代では、『会社が社員を拘束する、価値観を押し付ける』というようにネガティブな意味で受け取られることが多いのだと思います」

Q.会社側が「社員は家族だ」と心から思っていても、それをうたわない方がよいのでしょうか。あるいは、うたっても大丈夫なのでしょうか。

大庭さん「社員の年齢層の比率がどうなのかにより、対応が変わると思います。勤続年数が長く、つぶしが利かずに転職が難しい中高年層が多い会社では、『社員は家族だ』とうたうことで『自分たちの雇用が守られる』と社員に安心感を与え、帰属意識を高める効果が期待できると思います。

一方、若年層が多い会社の場合、『社員は家族だ』とうたうことで、『経営者の考え方を押し付けられる、プライベートにまで踏み込まれる』など、社員に警戒感を与えてしまい、離職の動機につながってしまうと考えます」

Q.現在、勤務している会社が「社員は家族だ」とうたい始めた場合、気にしなくても大丈夫でしょうか。あるいは、「何かあるのでは?」と疑った方がよいのでしょうか。

大庭さん「一概にネガティブに捉えるのではなく、まずは会社(経営者)の経営方針を正確に理解した上で、『社員は家族だ』の言葉の意味を考えた方がよいと思います。

世の中には、『社員の雇用を絶対に守りたい』『社員の労働条件を良くしていきたい』『社員を幸せにしたい』と心から思っている経営者もたくさんいます。そのような会社が『社員は家族だ』とうたい始めたのであれば、今後のことに希望を持ってもよいのではないでしょうか。

反対に、劣悪な労働条件や価値観の押し付けなどが横行している会社の経営者が、『社員は家族だ』とうたい始めた場合は、警戒をした方がよいでしょう。社風の改革は、経営者がスローガンを掲げることで、すぐに実現できるようなものではありません」