「春眠暁を覚えず」という言葉がありますが、春でも不眠に悩む人は一定数いるようです。そうしたときの薬として、「睡眠薬」が考えられますが、「睡眠」という名称が付いた薬としては、「睡眠改善薬」や「睡眠導入剤」も聞きます。これらは、どのように違うのでしょうか。薬剤師の川口てるこさんに聞きました。

睡眠改善薬は「一時的な不眠」用

Q.睡眠薬、睡眠導入剤、睡眠改善薬の違いを教えてください。

川口さん「『睡眠薬』は、医師が不眠症の人に処方する薬の名称です。不眠の症状は『寝つきが悪い(入眠障害)』『途中で目が覚める(中途覚醒)』『朝早く目が覚める(早朝覚醒)』の3タイプがあります。『睡眠薬』は睡眠を促す薬全般を指します。『睡眠導入剤』は特に、『寝つきが悪い』症状を改善するための薬を指す場合もありますが、睡眠導入剤という言葉に明確な定義はなく、睡眠薬とほぼ同じと考えてよいでしょう。

一方、『睡眠改善薬』は、医師の処方箋なしで購入できる薬で、ドラッグストア、薬局などで販売されているOTC医薬品(一般用医薬品)の名称です。慢性的な不眠症状に使用する睡眠薬(睡眠導入剤。以下同)とは異なり、あくまで『一時的な不眠症状』を緩和する薬です。寝つきが悪いときや眠りが浅いときのみの服用にとどめ、連用しないことが大切です」

Q.睡眠薬の主な有効成分、効能、どういった仕組みで効くのかを教えてください。副作用についてもお願いします。

川口さん「現在、睡眠薬として処方されている薬は、(1)ベンゾジアゼピン系睡眠薬(2)非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(3)メラトニン受容体作動薬(4)オレキシン受容体拮抗(きっこう)薬などがあります。

(1)ベンゾジアゼピン系(2)非ベンゾジアゼピン系の薬は、脳内で、抑制系の神経伝達物質である『GABA(ギャバ)』の働きを強めることで、催眠効果を発揮します。(3)メラトニン受容体作動薬(4)オレキシン受容体拮抗薬は、比較的新しい薬です。脳内の睡眠に関係する物質を調整し、自然な眠気を強める薬です。

また作用時間により、『超短時間型』『短時間型』『中間型』『長時間型』の4つに分類されます。入眠障害には、超短時間型、短時間型が使われ、中途覚醒や早朝覚醒には、中間型や長時間型が使われます。

副作用としては、薬によっては耐性や依存性があります。作用時間の長いものは、作用が起床後に持ち越されてしまうことで、日中の眠気、ふらつき、転倒などを起こすことがあります」

Q.睡眠改善薬の主な有効成分、効能、どういった仕組みで効くのか、副作用について教えてください。

川口さん「睡眠改善薬は、先述したように、処方箋なしでドラッグストアや薬局で購入できる市販薬(OTC医薬品)です。『ドリエル』『ドリーミオ』『ネオデイ』などの商品名で販売されていて、どの薬も『ジフェンヒドラミン塩酸塩』を含んでいます。

ジフェンヒドラミン塩酸塩は、くしゃみ・鼻水などのアレルギー症状を引き起こすヒスタミンの作用を抑える抗ヒスタミン薬で、総合感冒薬(風邪薬)などに含まれているものです。風邪薬は副作用として、眠気を起こすことがあるのですが、この眠気を利用した薬です。

寝つきが悪い、眠りが浅いといった、一時的な不眠の症状の緩和に使うもので、日常的に不眠の人や、不眠症の診断を受けた人には向きません。眠気をもよおして事故を起こすことがあり得るほか、翌日まで眠気が続いたり、だるさを感じたりする可能性もあるので、眠気やだるさが消えるまで、乗り物や機械類の運転操作をしないことが大切です」

Q.睡眠薬は一度に大量に飲むことで、命に関わることもあると聞いたことがあります。

川口さん「睡眠薬の歴史の中で、危険性の高い薬もありましたが、現在医師が処方する医薬品は、大量に服用しても命に関わることはないようです。医薬品の毒性を調べる急性毒性試験という試験があるのですが、数万錠という単位での服用が必要になる計算になります。

また、多くの睡眠薬は処方日数の制限があり、一度に多くの日数分処方することができないようになっています。OTC医薬品である睡眠改善薬は、さらに高い安全性が確認されています」

Q.睡眠薬は医師や薬剤師の指示に従って服用することになりますが、睡眠改善薬について、適切な使い方を教えてください。長期間飲んでもよいのでしょうか。

川口さん「繰り返しになりますが、睡眠改善薬は、一時的な不眠症状の緩和を目的としています。数回の服用にとどめ、連用しないようにしましょう。2〜3回服用しても、症状が良くならない場合は、服用を中止し、医師、薬剤師に相談するようにしましょう。また、アルコールによりジフェンヒドラミン塩酸塩の抗ヒスタミン作用が増すことがあるので、アルコールと一緒に服用しないようにしましょう。

ここまで挙げた薬以外にも、市販の漢方薬で、不眠に適応を持つ薬があります。『柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)』、『加味帰脾湯(かみきひとう)』などは、徐々に働きが出てくるものなので、1カ月程度服用して様子を見てもよいでしょう。

また、サプリメントや機能性表示食品なども商品が増えていますので、最初に試してみるのもよいかと思います」