企業やお店で働く人たちについて、「制服に着替える時間」や「後片付けや掃除での居残り」、「朝礼」といったことにかかる時間が、労働時間に含まれるかどうか、ネット上などで議論になることがあります。時には裁判にまでなることもあるようですが、着替える時間などは「労働時間」に含まれるのでしょうか。グラディアトル法律事務所の若林翔弁護士に聞きました。

指揮命令下の業務なら労働時間

Q.いわゆる法定労働時間とは何でしょうか。また、法定労働時間と会社ごとの労働時間の関係性とはどのようなものですか。

若林さん「法定労働時間とは法律で定められた労働時間の上限のことであり、労働基準法32条では、休憩時間を除いて1週間につき40時間、1日につき8時間と定められています。そのため、会社は特殊な場合を除き週に1回以上の休日を与えることで、原則としてこの枠内で自由に労働時間を定めることができます。会社が定めた労働時間のことを所定労働時間といいます」

Q.法定労働時間、あるいは会社ごとの労働時間を超過した部分については、会社が残業代を支払う義務があるのでしょうか。

若林さん「会社ごとに定められた所定労働時間を超過した分について、会社は超過時間に相当する賃金を支払う必要があります。そして、法定労働時間が意味を持ってくるのは、この超過時間の労働が時間外労働等として割り増しを受けるかどうか、という部分です。労働基準法37条は法定労働時間を超過した場合の賃金について、通常の賃金から25%増しで計算すると規定しています。

しかし、会社は所定労働時間について法定労働時間の枠内で自由に定めることができるので、『所定労働時間を超過している=法定労働時間を超過している』とはならない場合があるのです。週休2日で1日8時間労働という会社が多いでしょうから、結局は『所定労働時間=法定労働時間』となり、あまりピンと来ないかもしれませんね」

Q.「着替える時間」「居残り」「朝礼」などは労働時間に含まれるのでしょうか。

若林さん「これらの時間が労働時間に該当するかどうかは、これらの時間が使用者の指揮監督の下、業務として行われているかどうかによります。制服着用が義務付けられているような会社では当然、着替え時間も労働時間ということになるでしょうし、多くの朝礼も業務の一環として行われているでしょうから、これらの時間は賃金の発生する労働時間ということになります。

一方で、用もないのに友人と私語をするために居残っているような場合、使用者の指揮監督下にあるとは言えないので、労働時間には該当しないでしょう。使用者には従業員の労働時間を適切に把握し、賃金を支払うことはもちろん、働き過ぎによる健康被害の発生を防止する義務があるので、労働時間とそうでない時間をはっきりと区別し、労働時間をきちんと把握できるようにタイムカードなどの管理を徹底すべきだと言えます」

Q.会社が「着替える時間」「居残り」「朝礼」を労働時間にカウントしてくれない場合、労働者としてはどのような法的措置に訴えることが可能でしょうか。

若林さん「会社が労働時間を正確にカウントしてくれない場合、労働者は労働時間に見合った賃金を支払うよう請求することになります。話し合いで任意に支払ってくれればよいのですが、話し合いがまとまらない場合はやむなく法的措置を取ることになるでしょう。

法的措置の種類としては『労働審判』という労働紛争独特の制度や、訴訟を提起する方法などが考えられますが、どの制度が適切かは事案によって異なるので、弁護士とよく相談するのがよいと思います。

ただし、ここで一番問題となるのは、実際に労働をしたことを証明できるかどうかです。タイムカードなどで労働時間がきちんと打刻されていれば問題ありませんが、会社が労働時間を正確にカウントしてくれない場合、タイムカードに記載されている時間が正確な労働時間ではないということもあるでしょう。そうしたケースで立証活動に支障をきたさないために『労働時間の詳細なメモを取る』『仕事の最後に業務終了のメールを残す』など、できる限り事前準備をしておくことをお勧めします」