盗難の被害に遭った際、警察などの捜査機関に提出する「被害届」。犯罪被害を警察に伝え、盗難された物をできるだけ早く見つけるための、一般的な方法です。ところが、「自分の出した被害届で自分が捕まる」という不思議なケースもあり得るようです。例えば、自転車を盗難されて被害届を出した場合、盗難された自転車を見つけて勝手に持ち帰ると、自分が盗難の“犯人”になるといいますが、実際のところはどうなのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

Q.そもそも「被害届」とは、どのようなものなのでしょうか。

牧野さん「被害届とは、犯罪の被害に遭ったと考える者が、被害事実を警察などの捜査機関に申告する届け出をいいます。盗難届は、被害届の一つであり、自分の所有物が第三者に盗まれた(窃盗された)と考える者が行う届け出です」

Q.自分の出した被害届で自分が警察に捕まる、ということはあり得るのでしょうか(例:自転車が盗まれて被害届を出す→盗まれた自転車を道端で発見したので無断で持ち帰る→窃盗の容疑で自分が捕まる)。

牧野さん「法的にはあり得ると言えます。ただし現実的には、警察が被害者本人と分かれば、事情を聞かれることはあっても、逮捕されてそのまま拘留されることはないでしょう。

逮捕されることのないように、盗まれた自転車を道端や他人の家で発見した場合には、被害届を提出した警察署や最寄りの警察署へ、ただちに出頭して、盗まれた自転車を発見した場所や状況について申告すべきです。

乗り捨てられていた場合も、自転車の使用窃盗(自分の物にしてしまうのではなく、使用するために占有を奪い、使用が終わったら乗り捨てるケース)は、占有を奪った時点で窃盗罪に該当する可能性が高いので、警察は犯罪捜査が必要となり、『自転車が見つかったから終わり』ということにはならないからです」

Q.届けを出していなかった場合はどうでしょうか。自分の物を取り返しただけでも、法的には窃盗罪等の罪に該当しうるのでしょうか(例:自転車を盗まれる→道や他人の家で発見したので無断で取り返す→窃盗罪に該当するかどうか)。

牧野さん「『他人の家で発見したので無断で取り返す』場合、自転車の所有権は自分にあっても、一時的に盗人など他人に占有(事実上支配)されている状態です。他人が占有するものは『他人の財物』とみなされるため、無断で持ち帰れば窃盗罪(刑法242条、10年以下の懲役または50万円以下の罰金)に該当する可能性があります。

また、『道端で発見したので無断で取り返す』場合は、すでに占有を離れている物を横領することになり、遺失物横領罪(刑法254条、1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料)に当たる可能性があります。ただし、自己の所有物を回復するために行った行為ですので、処罰の必要性は低く、不起訴になる可能性が高いでしょう」

Q.このようなトラブルを防ぐために気をつけるべきことは、どんなことでしょうか。

牧野さん「盗まれた所有物を自力で取り戻す行為は、いわゆる『自力救済』と呼ばれ禁止されています。盗まれた自転車を道端や他人の家で発見した場合、すぐに最寄りの警察に届け出て、手続きを踏んでから取り戻す必要があります」