7月から9月にかけて、宿泊を伴う旅行を検討している人も多いと思います。そんな中、多くの宿泊施設では、利用客に対して宿泊者名簿に名前や住所などの記入を求めています。なぜ宿泊者名簿に名前や住所の記入を求めるのでしょうか。また、宿泊者名簿にうその名前や住所などを記入した場合、利用客は法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

拘留や科料の可能性も

Q.そもそも、なぜ多くの宿泊施設は、利用客に対して、宿泊者名簿への名前や住所などの記入を求めるのでしょうか。法律的な観点で教えてください。

牧野さん「旅館業法6条1項では『営業者は(中略)宿泊者名簿を備え、これに宿泊者の氏名、住所、職業その他の(中略)事項を記載し、都道府県知事の要求があったときは、これを提出しなければならない』と定められており、違反した場合、営業者、つまり経営者は、50万円以下の罰金を科される可能性があります(旅館業法11条1号)。

つまり、宿泊施設の経営者は宿泊者名簿への記入を求めなければならず、宿泊者はその要求を拒むことはできません。伝染病や食中毒など発生時の追跡調査、賭博など違法行為の防止、宿泊者の死傷時の身元確認、テロ対策のためです」

Q.では、宿泊者名簿にうその名前や住所などを記入した場合、利用客は法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。うその情報を書いた場合の罰則も含めて、教えてください。

牧野さん「宿泊者が虚偽の氏名や住所を記載した場合、拘留(1日以上30日未満)または科料(1000円以上1万円未満の金銭の納付を命じられること)に処せられる可能性があります(旅館業法12条)。ただし、この罰則が使われた事例はほとんどありません」

Q.宿泊者名簿に書かれた名前や住所などの個人情報を、自治体以外の第三者に提供した場合、宿泊施設はどのような法的責任を問われるのでしょうか。

牧野さん「個人情報保護法27条では、法令の規定や、人の生命、身体または財産の保護、あるいは公衆衛生目的などの例外を除いて、本人の承諾なく第三者へ個人情報を提供してはならないと定められています。違反すると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金(同法174条)を科される可能性があります」

Q.ちなみに、18歳未満の人が単独もしくはグループで宿泊施設を利用する場合、事前に保護者の許可が必要なのでしょうか。それとも、許可は不要なのでしょうか。宿泊施設が保護者に無断で18歳未満の人を宿泊させた場合の法的責任も含めて、教えてください。

牧野さん「例えば、東京都青少年の健全な育成に関する条例15条の4(深夜外出の制限)では、保護者の同意その他正当理由を除き、『何人も、深夜に青少年を連れ出し、同伴し、またはとどめてはならない』という規定があり、16歳未満の人にそれらの行為をした場合、30万円以下の罰金を科されます。そのため、18歳未満とみられる人が単独またはグループで来た場合、宿泊施設はしっかりと身分確認をする必要があるでしょう」

Q.宿泊者名簿にうその情報を記入したことで裁判に発展した事例、判例について、教えてください。

牧野さん「過去に対象者を拘束する際に、宿泊名簿の不実記載で別件逮捕に利用されたケースがあり、刑法で定める私文書偽造・同行使罪(3月以上5年以下の懲役)で有罪とされたケースがあります。宿泊者名簿には、自分の個人情報を正確に記載すべきです」