東京電力福島第1原発事故を巡り津波対策を怠って東電に損害を与えたとして、計13兆3210億円を東電へ支払うよう旧経営陣4人に命じた東京地裁判決を受け、株主代表訴訟の原告が、4人の財産差し押さえを求める要望書を東電に送ったことが7月22日、報道されました。

 まだ一審判決の段階で、判決は確定していませんが、差し押さえは可能なのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

「仮執行宣言」付きなら可

Q.判決の確定前に、財産の差し押さえをすることは可能なのでしょうか。

佐藤さん「判決の確定前に、財産の差し押さえができる場合があります。財産権上の請求に関する判決について、裁判所は必要があると認めるとき、判決に『仮執行宣言』を付けることができます(民事訴訟法259条)。仮執行宣言が付されると、判決が確定する前に強制執行することが可能になり、たとえ被告が控訴して裁判が続いたとしても、いつでも預金や不動産などを差し押さえることができます。

これに対して、一審で敗訴した被告側は、控訴を提起した上で、裁判所に『強制執行の一時停止』の決定をしてほしいと申し立てることができます(民事訴訟法403条1項3号)。被告側は、一審判決が変更される可能性があることや、強制執行されることで著しい損害が生ずる恐れがあるといった事情を主張することになります。なお、強制執行の停止にあたっては、被告に担保の提供が求められることが多いです」
 
Q.なぜ、仮執行宣言という制度があるのでしょうか。

佐藤さん「日本では三審制を採用しているため、例えば、一審で判決が出ても、さらに上級の裁判所で判断が覆る可能性がある以上、本来であれば判決が確定しなければ強制執行できないはずです。

しかし、紛争解決を引き延ばすために、時間稼ぎの目的で上訴するようなケースもあるため、勝訴した原告の迅速な権利実現についての利益と、敗訴した被告の上訴の利益とを事案に応じて調整するために、仮執行宣言制度が存在します。その他、一審後の被告の怠惰な訴訟手続きを抑制する目的もあると言われています」

Q.仮に、高裁段階で賠償命令が取り消された場合、差し押さえはどうなるのでしょうか。

佐藤さん「仮執行宣言は、賠償命令を認めた一審判決を変更する高裁判決の言い渡しにより、変更の限度において効力を失います(民事訴訟法260条1項)。そこで、被告が申し立てることにより、裁判所は、仮執行宣言に基づいて被告が給付した物の返還や、仮執行によって被告が受けた損害賠償を原告に命じることになります(民事訴訟法260条2項)」

Q.今回の差し押さえの要望に対し、東電が何もしなかった場合は、どうなるのでしょうか。

佐藤さん「株主側弁護団の弁護士は、東電が対応しなかった場合、株主側が代わって強制執行の手続きを取る考えもあると会見で明らかにしたようです。

しかし、株主代表訴訟において、株主が強制執行を申し立てる資格があるかどうかについては、争いがあります。従って、株主側の主張が認められるかどうかは不透明です。

その他、株主側は、東電の現経営陣が債権回収を怠ったとして、現経営陣の責任を追及するための新たな株主代表訴訟を提起する可能性はあるでしょう」