病気などで障害基礎年金を受給できるようになった人は、手続きをすることによって国民年金保険料の法定免除を受けることができます。法定免除になると、その後の国民年金保険料を支払う必要がなくなります(厳密には、障害基礎年金が認定された日を含む月の前月の保険料から免除になります)。

 もちろん、障害基礎年金を受給しながら国民年金保険料を支払い続けることも可能です。法定免除にするのか、保険料を支払い続けるのか。ひきこもりのお子さんにとって、どちらが正解なのでしょうか。

長女「将来のために貯蓄して」

「ひきこもりの長女(34)と意見が食い違ってしまい困っている」。そのような悩みを持つ父親(63)から、筆者は相談を受けました。

 長女は、最近になって障害基礎年金を受給できるようになったそうです。その後の国民年金保険料について長女は法定免除を希望しているのですが、父親は支払い続けた方がよいと思っています。すると長女から「これから支払う国民年金保険料の分は、将来のために貯蓄してほしい」と言われてしまいました。長女の意見に対し、父親は理解を示すことができませんでした。

「なぜお前はいつもそうなんだ! いいかげんにしろ」

 意見の対立から、父親は感情的になって長女を怒鳴りつけてしまい、親子関係が気まずくなってしまったそうです。

 父親は筆者に言いました。

「法定免除になると国民年金保険料は支払わなくてもよくなりますが、その分、将来もらえる年金(老齢基礎年金)も減ってしまいますよね。私としては法定免除ではなく、このまま国民年金保険料を支払い続ける方がよいと思っています。私の考えの方が正しいですよね」

「法定免除にするのか、国民年金保険料を支払い続けるのか。どちらが正解でどちらが間違いということはありません。娘さんのケースではどのようになるのか。まずは老齢年金額を試算してみて、そこから考えてみましょう」

 筆者はそう答え、長女の年金加入状況を伺いました。

「障害基礎年金」「老齢基礎年金」は同時受給不可

 長女は高校2年のときに不登校となり、社会との接点を持てないまま20歳の誕生日を迎えました。20歳以降、長女の国民年金保険料は、父親が支払ってきたそうです。長女は30歳を過ぎてもひきこもり状態が改善せず、心の不調を両親に訴えるようになり、心療内科を受診。最近になって障害基礎年金の2級を受給することができました。

 なお、障害基礎年金の2級に該当すると年金額などは【表1】のようになります。

 次に、父親から聞き取った長女の年金加入状況を踏まえ、長女が34歳から60歳までの26年間、国民年金保険料を支払い続けた場合と法定免除をした場合で、老齢基礎年金などの月額を比較してみました。【表2】です。

 父親は【表2】の合計額の部分を指さしました。

「やはり国民年金保険料を支払った方がよさそうです。65歳からは障害年金と老齢年金の両方がもらえるでしょうから、将来の収入は少しでも多い方がよいですよね」

 この父親の発言に、筆者は違和感を抱きました。どうやら父親は年金制度について少し誤解をしているようです。そこで筆者は65歳以降の受給方法について説明しました。

「確かに娘さんが65歳になると老齢基礎年金の受給権(年金をもらう権利)が発生します。ですが、障害基礎年金と老齢基礎年金は両方もらうことはできません。『どちらか一つを選択して受給してください』という法律があるからです」

「え! そうなのですか。65歳からは障害年金と老齢年金は両方もらえると聞いたこともあるのですが…」

「それは厚生年金がある場合です。障害基礎年金と老齢厚生年金は組み合わせて両方受給できます。一方、障害基礎年金と老齢基礎年金は組み合わせて受給することができません。娘さんは今まで厚生年金に加入されたことがないようですし、今後も厚生年金の加入がなければ、65歳からは障害基礎年金または老齢基礎年金のどちらか一方を受給することになります」

 それを聞いた父親は、がくぜんとしたようでした。

「もし65歳からも障害基礎年金を選択した場合、これから支払う518万円の保険料は掛け捨てになってしまうということですよね。それはあまりにもひどい…」

「こればかりは法律なのでどうすることもできません。65歳以降も障害基礎年金を受給できれば法定免除の方がよかったということになります。一方、娘さんの症状が改善し、障害基礎年金が停止になってしまったら老齢基礎年金を受給することになります。そうなると、国民年金保険料は支払っていた方がよかったということになるかもしれません」

 筆者は続けて説明しました。

「繰り返しになりますが、このまま国民年金保険料を支払い続けるのか、法定免除にして保険料分を貯蓄に回すのか。どちらかが正解でどちらかが間違いというわけではありません。お父さまの年金制度の誤解も解けたようなので、もう一度親子で話し合って答えを出してみてください」

「そうですね。もう一度長女とよく話し合ってみます」

 父親はそのように答えました。