円安が進み、10月には32年ぶりに1ドル150円を突破したことが、大きなニュースになりました。そもそもなぜ「円安」が問題になるのでしょうか。基礎的なことを含めて、ファイナンシャルプランナーの長尾真一さんに聞きました。

実質的に1970年以来の低さ

Q.そもそも、「円安」「円高」とはどういうものか、教えてください。

長尾さん「『円安』や『円高』とは日本円と外国通貨との交換比率、あるいはその変化の動向を指します。たとえば1米ドルが100円のとき、日本円を持っている人は100円を支払えば1ドルと交換することができます(※為替手数料を無視した場合、以下同)。

ところが、1米ドルが150円になると、150円を支払わないと1ドルと交換することができません。このとき相対的に米ドルの価値が上がったことになるので『ドル高』、逆に日本円の価値は下がったことになるので『円安』となります。

逆に1ドル100円から1ドル70円になると、それまで100円を支払わないと1ドルに交換できなかったのが、70円で交換できることになるので、円の価値が上がったことになり、『円高』となります。

このように異なる通貨を交換することを外国為替といい、外国為替市場では24時間取引が行われているため、為替レート(通貨の交換比率)は常に変動しています」

Q.円安はなぜ問題なのでしょうか。「日本は輸出企業が多いので、円安の方がよい」と言われていた時代もあったと思います。

長尾さん「輸出企業は外国で商品を販売しますが、1ドル100円のときに100ドルで商品を販売した売り上げは、日本円にすると1万円です。ところが円安で1ドル150円になると、同じ100ドルで販売しても日本円に戻した売り上げは1万5000円に増えます。このため、輸出企業にとっては円安が好ましいと言われます。

逆に輸入企業は1ドル100円のときであれば、100ドルの商品を1万円で仕入れることができていたのが、1ドル150円になると仕入れ価格が1万5000円に跳ね上がり、利益を圧迫します。

このように輸出企業と輸入企業の立場の違いによって利害は逆転します。もちろん、円高になれば輸出企業にとっては売り上げが減る要因となり、輸入企業にとっては安く仕入れられて利益増につながります。

日本は全体で見ると、国内で製造した高品質の製品を外国に売ることによって稼ぐ『ものづくりの国』とされてきたため、『円安は日本にとって好ましい』と言われてきましたが、一方でエネルギーや食糧品の大部分は輸入に頼っており、急激な円安は日本国内の物価上昇につながり、家計を圧迫します。そのため、最近の急激な円安を警戒する声が増えています」

Q.昔の話ですが、1ドルが360円の時代もあったと思います。その時代に比べれば、今はまだましと思うのは、安易なのでしょうか。

長尾さん「確かに1973年2月14日に変動相場制に移行する前は固定相場制で、1ドル360円の時代もありました。それと比べると、現在は円安と言っても150円にいくかいかないかという水準なので、まだましに思えます。

しかし、これはあくまで『名目為替レート』の話です。物価水準等を加味した相対的な通貨の購買力を示す『実質実効為替レート』では既に1970年以来の低さになっていて、円の実力は1ドル360円時代と同程度まで下がっているとも言えます。

実質実効為替レートについて少し説明します。仮に1ドル360円のときにハンバーガー1個が1ドルだったとすると、それを買うのに必要な日本円は360円です。そして価格が変わらずに為替が1ドル120円になれば、同じハンバーガーを120円で買えるので、まさに円の価値が上昇したことになります。

しかし、アメリカの物価が上昇してハンバーガーの値段が1個3ドルになったら、為替が1ドル120円になっても結局ハンバーガー1個を買うために必要な日本円は360円のままです。このように名目上の為替レートでは必ずしも通貨の実力を測ることはできないので、実質的な購買力を測るためにあるのが実質実効為替レートです」

Q.将来的に円安がさらに進むと、私たちの生活にどのような影響があるのでしょうか。

長尾さん「円安がさらに進むと、輸出企業で働く人にとっては会社の業績が良くなってボーナスが増えるかもしれませんし、外国人にとっては日本に来るコストが安くなるので、外国からの旅行者が増えて、インバウンド需要が見込める業種で働く人も収入増につながるかもしれません。

一方で食品や電気・ガス・ガソリン料金等の上昇は避けられず、多くの人にとって生活を圧迫する要因になります。特に収入がない年金生活者などは影響が大きいかもしれません。また輸入企業の業績が悪化して賃金の低下や倒産が起きる、海外旅行や海外留学に行きにくくなるといったマイナスの影響が懸念されます」

Q.逆に円高に進んだ場合、私たちの生活にどのような影響があるのでしょうか。

長尾さん「円高に進んだ場合は、基本的には円安と逆のことが起きます。輸出企業にとっては収益が減る要因になるので、そこで働く人は収入減少につながるかもしれません。また外国人にとっては日本に来るコストが上昇するので、訪日外国人が減る、あるいは訪日外国人の消費額が減るといったことが考えられます。そうなればインバウンド関連の業種で働く人にとっては収入減の要因になります。

一方で食品やエネルギー価格は安定するので、人々の生活には余裕ができるかもしれません。また輸入企業の業績は改善し、海外旅行や留学にも行きやすくなります。

ただし、円安も円高もどちらもよい面と悪い面があり、それは個人や企業の立場によっても違ってくるので、どちらが良いとは一概に言えません。程度の問題もあるでしょうし、基本的に急激な変動は、円安であっても円高であってもあまり好ましいことではないでしょう」

生活、どう守る?

Q.円安が進む中で、生活を防衛する方法があれば教えてください。

長尾さん「日本で暮らす中では、基本的には(1)収入を増やす(2)支出を減らす(節約する)(3)資産を運用する―という3つしか方法はありません。

(1)の収入を増やす方法として、最近は物価上昇に対応するために『インフレ手当』を支給する企業も増えているようですが、会社からの手当や賃上げがない場合は、副業や転職も一つの手段になるでしょう。

(2)の節約に関しては、『〇千円節約する』といった金額目標よりも、『外食や買い物に行く回数を減らす』、『晩酌のビールの本数を減らす』など、消費行動の回数(数量)を減らす目標の方が実行しやすく、結果的に節約につながる傾向があります。また、少し時間と手間は掛かりますが、住宅ローン、生命保険、通信費などの固定費を見直して削減することができれば、比較的大きな効果が期待できます。

(3)の資産運用については、もし今後も長期的に円安が進むことを見込むのであれば、外貨預金や外国株式・債券などに投資する投資信託などを持つことも検討してみる価値はあるかもしれません。いずれにしても、無理はせず、できることから始めてみることが大切です」