コロナ禍で医療現場の過酷な勤務状況が指摘されることがありますが、医師や看護師の中には「燃え尽き症候群」になってしまう人もいるそうです。「燃え尽き症候群」とは、どのようなもので、予防策はあるのでしょうか。精神科専門医の田中伸一郎さんに聞きました。

「完璧主義」の人、要注意

Q.「燃え尽き症候群」の症状や原因を教えてください。精神疾患の一つなのでしょうか。

田中さん「燃え尽き症候群とは、分かりやすく言うと、仕事上のストレスなどによって心身がすっかり疲れ果ててしまった(=バーンアウトした)状態です。心理学の概念であり、燃え尽き症候群という医学的病名はなく、あえて精神疾患にあてはめると、大部分が『適応障害』になるでしょう。

燃え尽き症候群になると、長期間にわたる職業上のストレスによって、慢性的な疲労感を覚え、仕事に対してネガティブな気持ちにしかなれず、自己効力感が失われていきます。原因は過重労働です。救急医療の現場で働く看護師、医療現場に出たばかりの研修医などが、燃え尽き症候群を呈することが知られています。長期化、重症化すれば、うつ病を発症してしまうこともあるでしょう」

Q.燃え尽き症候群で、受診した方がよい目安があれば教えてください。その場合、どのような治療をするのでしょうか。

田中さん「多少の過重労働があっても、それが一時期のことであって、働きがいを感じられるなら、何の問題もないことがほとんどでしょう。しかし、これまで前向きに頑張ってきたのに報われない気持ちでいっぱいになり、徒労感を覚え、疲労感が抜けなくなり、加えて、睡眠障害、ささいなことに対するイライラ感などが見られたら、燃え尽き症候群の危険信号です。

ただし、『燃え尽き症候群かな?』と思って心療内科、精神科の病院やクリニックを受診しても、多くの医師は『適応障害』『軽症うつ病』『軽いうつ』などと診断するでしょう。というのも、先ほど説明したように、燃え尽き症候群は心理学の概念だからです。

治療としては、適応障害の治療に準じて、快眠・快食・快便が得られるような生活指導を行い、職場環境の調整、さらには、頑張り過ぎたり、まじめ過ぎたりする性格傾向に対する助言をひとまず行います。それでも改善が得られない場合には、抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬などを用いた薬物療法を行うのが一般的です」

Q.燃え尽き症候群になりやすい人は、どんな人でしょうか。

田中さん「日本の場合、まだまだ、労働者に対して多大な負荷をかける、いわゆるブラック企業が少なくありません。そうした職場では、報酬も少なく、ひたすら受動的に業務をやらされ、自ら判断し、行動するといった自己裁量権を持たされないことがほとんどです。燃え尽き症候群は仕事上のストレス、労働環境が問題になりますので、そうした環境にいる人は燃え尽き症候群になりやすいといえるでしょう。

また、精神医学の立場からは、燃え尽き症候群になりやすい人として『徹底的にやらないとすまない完璧主義タイプの人』が挙げられます。また、最近よく指摘される発達障害との関係でいうと、こだわりが強すぎる自閉スペクトラム症の人、過集中になりがちな注意欠如・多動症の人なども過剰適応から、燃え尽き症候群にならないよう注意が必要かもしれません」

Q.予防策はありますか。

田中さん「仕事で無理をしないことに尽きます。もちろん、責任ある仕事であれば、多少の無理が必要になります。しかし、それでも、職場では昼食・トイレなどのための休憩時間をきちんと確保し、家では朝食・夕食・リフレッシュ・入浴などの時間をしっかり持つようにしましょう。

どんなに多忙であっても、平均7時間の睡眠を目標にしてください。他にも、『○曜日はジムに行く』と周囲に宣言して、定時で(あるいは早めに)退社する日を決めるのもアリかもしれません。とにかく、どうしたら仕事で無理をしないかを考え、生活上の具体的な工夫を図ることを常に意識しておきたいところです」

Q.家族や友人、知人が燃え尽き症候群らしい、あるいはなりそうだと思った場合、どのように対応すればよいでしょうか。

田中さん「まずは、ゆっくりと話をする時間をつくることです。例えば、やりがいを感じていたはずの仕事に対して前向きになれないこと、やらねばならないという思いばかりが空回りしていることに焦点をあてて、本人が疲れ果てていることに共感することから始めましょう。

燃え尽き寸前に陥っている人がいたら、周囲が一緒になって、つらい状況を把握するように努め、本人にそれを気付かせることがポイントになると思います」