映画を10分ほどに短くまとめた「ファスト映画」を動画投稿サイトで無断公開した20代の男女2人に対し、大手映画会社などが損害賠償を求めた訴訟の判決で11月17日、計5億円の賠償を命じたとの報道がありました。2人が動画公開で得た広告収益は約700万円とされており、それを大きく上回る賠償額です。およそ70倍という賠償をなぜ命じたのでしょうか。賠償額を払えなかったら、どうなるのでしょうか。ゆら総合法律事務所(東京都荒川区)の阿部由羅弁護士に聞きました。

利益を上回る賠償、珍しくない

Q.700万円ほどの収益を得た2人に対し、なぜ5億円という賠償命令が出たのでしょうか。

阿部さん「著作権侵害を含む『不法行為』(民法709条)に基づく損害賠償は、被害者が被った損害を基準に金額が決定されます。今回の判決では、著作権法114条1項の規定を根拠に、大手映画会社などが被った損害額が算定されたものと考えられます。

著作権法114条1項の規定に基づくと、今回のケースでは『再生数×1販売単位当たりの逸失利益』を損害額とすることができます。判決では、映画のレンタル価格(1作品当たり少なくとも400円)を基準に、1回の再生につき200円の逸失利益が認定されています。再生数に200円の逸失利益を掛けて、総額5億円の損害賠償が認められました」

Q.著作権侵害による利益を大幅に上回る賠償命令は、問題ないのでしょうか。

阿部さん「先ほど述べたように、被害者が被った損害を基準に賠償額が決定されるので、法律上は問題ありません。

なお、著作権侵害の場合、被害者が主張する損害額の算定方法については、被害者側にいくつかの選択肢があります。著作権法114条2項には、侵害者(加害者)が得た利益の額を損害額と推定する規定があります。この規定に基づき、被害者は損害額を『侵害者が得た利益の額に等しい』と主張することも可能です。しかし、今回は114条1項の算定方法の方が、侵害者が得た利益よりも、はるかに金額が高くなります。

今回のケースでは、金額が高くなる114条1項の算定方法が選択されたということかと思います」

Q.著作権侵害以外の問題でも、利益を大幅に上回る賠償ということはあり得るのでしょうか。

阿部さん「加害者の利益と被害者の損害は一致しないケースも多いので、利益を上回る賠償が命じられることは珍しくありません。あくまでも、被害者の損害が賠償額の基準となります。

加害者の利益が賠償額と一致するのは、窃盗や横領などのケースで、加害者の利益と被害者の損害が一致する場合のみです」

Q.2人が得た広告収益からして、5億円はとても払えないように思います。とても払えないような賠償を命じるのは、著作権侵害についての今後の抑止力も考えてのことなのでしょうか。

阿部さん「裁判所は、個々の事案について個別具体的な判断を行います。今回の事案でも、大手映画会社に生じた損害の額を客観的に認定したというだけで、それ以上の意味合いを持たせることは適切でないと思います」

Q.2人が賠償額を払えなかった場合、どうなるのでしょうか。

阿部さん「加害者が損害賠償を支払わない場合、被害者は加害者の財産について強制執行を申し立てることができます。

加害者が自己破産をすれば、不法行為に基づく損害賠償債務は原則として免責されます。ただし、不法行為が『悪意で加えた』ものである場合と、故意または重大な過失によって他人の生命・身体を侵害した場合については、自己破産をしても不法行為に基づく損害賠償債務が免責されません(破産法253条1項2号、3号)。

今回の事案において、仮に加害者が自己破産をした場合は、ファスト映画の違法アップロード行為が『悪意』によるものかどうかが問題となります。加害者は著作権法違反の罪で有罪判決が確定しており、『悪意』を推認させる有力な事情となりますが、破産申し立てを受けた裁判所がどのように判断するかは不透明です」