商業施設内のフードコートやスーパーのイートインスペースなどには、店内飲食者向けに水を提供するためのウオーターサーバーが設置されていることがあります。基本的に、水は無料で提供されることが多いですが、中にはウオーターサーバーの水を水筒などに入れて持ち帰る人もいるようです。この場合、持ち帰った人は法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

窃盗罪に該当する可能性

Q.商業施設内のフードコートやスーパーのイートインスペースなどに、ウオーターサーバーが設置されていることがあります。店内飲食後、ウオーターサーバーの水を水筒などに入れて持ち帰った場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。

牧野さん「そもそも、商業施設によるウオーターサーバーでの水の提供は、施設の利用客に限定したサービスです。『ウオーターサーバーの水の持ち帰りはお断り』といった内容の張り紙が掲示されていれば、店舗が許諾する範囲は明確になりますが、張り紙がない場合でも、商業施設側は、客が水を持ち帰って当該施設以外の場所で使用するのを認めていないでしょう。

水は商業施設の立派な占有物なので、無許可で水を容器に入れて持ち帰る行為は、窃盗罪に該当する可能性があります。窃盗罪が成立した場合、10年以下の懲役または50万円以下の罰金を科される可能性があるので、注意が必要です。

水を備え付けの紙コップに入れて持ち去り、帰る途中で飲み干す程度の量であれば、商業施設の許容範囲でしょう。ただ、容器に入れて水を持ち帰り、自宅など当該施設以外の場所で使用する場合は、持ち帰りの頻度に応じて、窃盗罪が成立する可能性があります。

また、極端な場合ですが、ある客が水筒に大量の水を入れたことで、ウオーターサーバー内の水がなくなってしまい、他の客が水を飲めなくなれば、威力業務妨害罪(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)に当たる可能性もあります。

これらの場合、商業施設は、容器で水を持ち去る客により損害を被るので、少額ですが、当該顧客に対して民事の不法行為に基づく損害賠償請求が可能です」

Q.店側が、ウオーターサーバーの水を水筒に入れて持ち帰ろうとする客がいるのを発見した場合、やめさせることは可能なのでしょうか。

牧野さん「力づくで制止すると、商業施設側が反対に暴行罪に問われる可能性があります。ただ、商業施設側の当然の権利として、客に口頭で注意するのは可能です」

Q.ちなみに、商業施設だけでなく、勤務先に設置されているウオーターサーバーの水を勝手に持ち帰った場合も、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。

牧野さん「勤務先のウオーターサーバーの水もその組織の立派な占有物なので、無許可で水を容器に入れて持ち帰る行為は、先述の商業施設における行為と同様、窃盗罪に当たる可能性があります。この場合、会社側は、水を持ち帰った当該社員に対して、少額ですが、民事の不法行為に基づく損害賠償請求が可能です。

なお、自宅で使うために、トイレットペーパーなどの備品を勤務先から持ち去る行為も、同様の刑事責任、民事責任を負う可能性があるので注意しましょう」

 トラブルを防ぐためにも、商業施設内に設置されたウオーターサーバーの水は、持ち帰らないようにしましょう。