ある出来事をきっかけに、突然、これまで築いてきた人間関係を断ち切って“リセット”してしまう――。そうした行為を指す「人間関係リセット症候群」という言葉が、最近SNS上などでよく聞かれるようになりました。具体的な行動としては、「突然、仕事を辞める」「連絡先を全て削除し、音信不通になる」「誰にも告げずに突然引っ越す」などが挙げられます。

 こうした衝動に心当たりがある人は少なくないようで、SNSでは「これすごく分かる」「時々、何もかもリセットしたくなることがある」といった声があるようですが、実際にリセットし、後悔の念で苦しむ人もいます。「人間関係リセット症候群」とは何なのか、精神科専門医の田中伸一郎さんに聞きました。

「願望を言葉にする」ことが、状況の再点検につながる

Q.いわゆる「人間関係リセット症候群」とは何ですか。

田中さん「『人間関係をリセットしたい』という気持ちは、しばしば日常会話で耳にしますし、診療の場面でも話題に上ることがたまにあります。しかし、医学的な病気ではありませんし、心理学の教科書にも載っていません。よって、『人間関係リセット症候群』という専門用語は存在しません。

実際に、『知り合いが誰にも何も伝えず、突然いなくなる』『連絡が取れなくなる』などしたら、急病でなければ、その人が何らかの事故やトラブルに巻き込まれた可能性を心配するのではないでしょうか」

Q.「人間関係をリセットしたくなる」原因として、どのようなことが考えられますか。

田中さん「先述したように、医学的な病名や専門用語は存在しないため、今回は『関係をリセットしたい願望』という言葉を使いたいと思います。

この『関係リセット願望』は、ストレスフルな環境にさらされ続けると誰でも感じる『もう嫌だ。全部投げ出したい』という気持ちです。衝動的になりやすい性格傾向がある人に限らず、強いストレスにさらされれば、誰しも心身の緊張が高まり、イライラしやすくなり、ついには『関係リセット願望』を抱くようになるかもしれません。

最近だと、『スマートフォンに登録した連絡先を全消去する』というたった一つの行動で『関係リセット願望』を実現させることが可能ですが、結果を考えれば、それを実行に移すわけにいきません。そのため、強めのストレスを感じ始めたときには、ひとまず『帰宅後はメールを見ない』『週末はスマホの電源をオフにする』『普段からアプリの新着通知をオフにする』などを思い切って試みてみるとよいと思います。“プチ関係リセット”ですね」

Q.精神科医は、「関係リセット願望」をどう捉えていますか。

田中さん「一般には、『関係をリセットしたい気持ち』はネガティブな意味合いが強いかもしれません。『そんなこと言わずに頑張ろうよ』と。しかし、われわれ精神科医は、診察時に『関係リセット願望』が語られた場合、うつ病を発症していないか、発達障害が隠れていないか、まだ語られていない大事な問題があるのではないか、ひょっとしたら自死を考えていないか…など、別の角度から普段の診療を見直すことを考えます。

従って、正直に『関係リセット願望』を言葉にすることによって、置かれた苦しい状況を再点検し、そこから抜け出す方法がないかを再検討するチャンスにつながっていくように思います」

Q.「関係リセット願望」を感じたとき、どうすればいいですか。

田中さん「心に『関係リセット願望』が出てくるような苦しい状況の中で、長い期間、孤軍奮闘しないようにしたいものですね。心の不調に気付きにくい場合には、睡眠・食事・排便の量と質などから体の調子をチェックするとよいでしょう。意外に忘れられているのが胃腸の調子。『よく寝て、よく食べる』だけでなく『よく食べて、よく出す』ことも心の健康にとって大切です。

また、先に孤軍奮闘という言葉を使いましたが、ストレスを一人で抱え込まないことが大切です。『関係リセット願望』が強まらないようにするためにも、関係を続けたいと思うような相談相手を見つけておきたいところです。周囲にそうした相手が見つからない場合には、心の相談窓口などを利用することをお勧めします」