「年齢を重ねるにつれて、歯並びが悪くなっているような…」。そんな心当たりがあるという人、実は少なくないのではないでしょうか。以前と比べて「食べ物が歯の間に挟まりやすくなった」「歯茎が痩せたように見える」といった変化を感じる場合、歯並びも少しずつ変わっている可能性があるようです。
加齢とともに歯並びが悪くなるというのは本当なのでしょうか。千葉センシティ矯正歯科(千葉市中央区)院長で歯科医師の石川宗理さんに聞きました。
歯ぎしりや食いしばり、口呼吸をする人はリスク大
Q.「加齢によって歯並びが悪くなる」ことがあるというのは事実ですか。
石川さん「はい、事実です。歯並びが変わり始めることの多い年代としては、(1)6〜12歳(2)30〜40歳以降―の2つが挙げられます。
(1)は、乳歯から永久歯に生え変わる時期のため、歯が生えるスペースが不足していたり、生えてくる歯の方向が悪かったりするときには、特に如実に現れます。(2)に関しては、歯周病によって歯を支える骨が少なくなること、虫歯で歯を失ったまま放置することによる移動が考えられます。『爪をかむ』『口呼吸をしている』『歯ぎしりや食いしばりがある』といった悪い癖も、歯が動くことにつながります。
また年齢問わず、虫歯を治療せずに放置してしまったり、抜けた歯があるにもかかわらずそのままにしてしまったりすると、歯並びが崩れることがあります。
歯並びの変化によって起こり得る症状としては、審美的な問題を除くと、歯磨きが困難になることや、それに伴う虫歯や歯周病の悪化が考えられます。
そもそも歯は、『歯槽骨(しそうこつ)』という顎の骨の中に、根っこである『歯根(しこん)』が埋まっていることによって、咬合力に耐えるようにできています。歯槽骨と歯根の間には『歯根膜(しこんまく)』というゲル状の組織があり、そこにある程度の力がかかり続けると歯槽骨の形が変わり、歯の移動が生じるのです。
矯正治療では、この現象を計画的に行うのですが、日常の継続的な力でもこの変化が起こります。基本的に、かむ力だけでも経年的に歯が動く可能性が示唆されており、これが加齢とともに歯が動く原理になります。
なお、歯周病は歯槽骨が溶ける病気です。歯槽骨が溶けてしまうと、普段は歯が動かないような力でも動く力になってしまうため、病的な歯の移動が生じます」
Q.加齢によって歯並びが変化したり、悪くなったりすることで、どのような弊害が考えられますか。
石川さん「歯磨きやフロスといったセルフケアが困難になります。また歯科医院で、歯周病の主たる問題である歯石を取る際も、器具が入りづらくなり、除去することが難しくなるため、歯周病のリスクが上がってしまうことがあります」
Q.加齢で歯並びが悪くなりやすい人にみられる特徴はありますか。
石川さん「海外の論文などでは、年齢的には加齢とともに増加することが報告されています。『女性に起きやすく、下の歯に起きやすい』という報告の他、『上の前歯は外側に、下の前歯は内側かつ凸凹になりやすい』という報告もあります。
基本的には、歯ぎしりや食いしばり、口呼吸といった癖がある人、また歯周病の状況が悪い人などはリスクが高くなると考えられます。その他、例えば糖尿病といった歯周病がリスクとなる全身的な疾病も、間接的にはリスクを高くする一因と考えることができるかもしれません。
なお、矯正治療後に関しては、元の歯並びに戻ろうとする『後戻り』という現象がこれらに加わるため、それを防ぐための保定装置を使うことがとても重要となります」
Q.加齢によって歯並びが悪くならないようにするために、日常的に意識・行動するとよいこととは。
石川さん「基本的には矯正治療を行わない限り、悪くなってしまった歯並びは治すことは困難です。しかし、重度の歯周病になっている人の場合は歯周病の状況を改善すること、口呼吸など悪習癖がある人は、その癖を訓練して治すことによって、改善する可能性はあります。
日常的に意識することとしては、虫歯を放置せずすぐに治療することや、食いしばりや歯ぎしり、口呼吸などの癖を改善すること、歯周病にならないようにセルフケアや歯科医院でのメンテナンスを継続的に行うことが挙げられます。また、矯正治療後の人については、夜だけでもいいので、保定装置を使い続けることでしょう」