「肝炎」という病名を聞くことがありますが、どのような病気なのか分かりにくいと感じたことはありませんか。ネット上では、「血液を通じて、他人に感染する」「感染しても無症状の場合もある」「ジビエの生肉を食べてはいけない」という内容の情報があります。

 そもそも、肝炎を発症するのはなぜなのでしょうか。一度かかると、完治は難しいのでしょうか。肝炎の主な症状や治療法などについて、四谷内科・内視鏡クリニック(東京都新宿区)院長で、消化器病専門医の高木謙太郎さんに聞きました。

ウイルス感染が原因で発症するケースが多い

Q.そもそも、肝炎とはどのような病気なのでしょうか。SNS上では、「ジビエの生肉を食べるとE型肝炎に発症する」という情報がありますが、本当なのでしょうか。

高木さん「肝炎とは、肝臓の細胞に何らかの原因で炎症が起こり、肝細胞が破壊されていく病気です。主な原因としてはウイルスやアルコール、自己免疫の異常、脂肪肝がありますが、日本では、ウイルスの感染によって肝臓が炎症を起こす『ウイルス性肝炎』が肝臓病全体の約80%を占めています。

肝炎の原因となるウイルスで現在知られている主なものは、A型、B型、C型、D型、E型の5種類がありますが、最近、特に問題になっているのは、血液や体液から感染し、慢性化しやすいB型肝炎ウイルス(HBV)とC型肝炎ウイルス(HCV)です。

ジビエの生肉を食べたことが原因でE型肝炎を発症するケースは、衛生状態の悪い東南アジアやアフリカで多いです。日本でもまれですが、ジビエの生肉の摂取による発症の報告はあります」

Q.B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの感染が原因で肝炎を発症した場合、主にどのような症状が出るのでしょうか。受診の目安はあるのでしょうか。

高木さん「急性肝炎を発症すると、全身の倦怠(けんたい)感や食欲不振、悪心、嘔吐(おうと)などの症状が現れることがあります。ただ、肝臓は沈黙の臓器といわれており、自覚症状がないことも多いため、健康診断などを定期的に受けるのが重要です。定期的に検査を受けて、早期発見を心掛けましょう」

Q.肝炎を発症したにもかかわらず、医療機関を受診せずに放置した場合、どのようなリスクが生じる可能性があるのでしょうか。

高木さん「次の4つの症状を引き起こす可能性があります」

(1)肝硬変(Liver Cirrhosis)
肝炎が放置されると、肝臓の炎症が進行し、肝細胞が傷つきます。この結果、肝臓は瘢痕(はんこん)組織で置き換えられ、肝硬変が発生します。肝硬変は肝臓の機能低下を引き起こし、重篤な合併症をもたらす可能性があります。

(2)肝がん(Hepatocellular Carcinoma)
肝炎ウイルス感染は、肝がんの主要なリスク因子です。放置された肝炎は、肝臓の細胞ががん化するリスクを高めます。早期の肝がんは症状がほとんどなく、進行してから発見されることが多いため、定期的な検査と早期治療が重要です。

(3)他人に感染拡大
肝炎を放置した場合、周囲の人に感染を広げるリスクがあります。感染経路によっては、無症状の感染者が、他の人に感染させることがあります。

(4)肝炎が慢性化
肝炎は慢性化することがあります。そのため、放置すると肝臓の炎症が持続し、肝機能が低下します。

Q.肝炎になった場合、日常生活ではどのようなことに注意する必要があるのでしょうか。

高木さん「肝炎になった場合、日常生活での支障を最小限に抑えるために次のような注意点があります」

(1)カロリーと鉄分の摂取量を適度に抑える
カロリーの取り過ぎは脂肪肝につながります。特に慢性肝炎の人が脂肪肝になると、肝がん(肝臓がん)に進行する危険性が高くなるとされています。また、鉄分の摂取も適度に抑えましょう。慢性肝炎の人は肝臓に鉄分が沈着すると炎症が強まり、肝がんへと進行しやすくなることが知られています。

(2)GI値(グリセミック指数)が高い食品を避ける
GI値が高い食材は、体内への糖質の吸収率が高く、脂肪の蓄積につながりやすいとされています。脂肪肝がリスクとなる慢性肝炎患者は、GI値の高い食品を避けるようにしましょう。例えば、白米よりも玄米を選ぶことをお勧めします。また、野菜やキノコ、肉、魚はGI値が低い食材とされているので積極的に取り入れましょう。

(3)肝臓が弱っているときは貝類や海藻類などの摂取を避ける
肝臓の健康のためにも、お酒は適度な範囲で摂取しましょう。また、貝類や海藻類、卵黄のほか、肉や魚の赤身部分や内臓などの食材は、肝臓が弱っている場合はできるだけ避けることが推奨されています。

(4)バランスの良い食事を心掛ける
主食(白米、パン、麺類)・主菜(肉や魚などのたんぱく質)・副菜(野菜やキノコ類)といった形で、バランスのよい食事を心掛けましょう。主菜は、白身魚や鶏肉、イカ、タコ、エビなどを中心に食べ過ぎないようにしましょう。総じて、バランスの良い食事を心掛け、アルコールや糖分、カロリー、鉄分の摂取量に気を付けましょう。

Q.B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの感染が原因で肝炎になった場合、主にどのような方法で治療するのでしょうか。また、完治は可能なのでしょうか。それとも、定期的に治療しなければならないのでしょうか。

高木さん「急性B型肝炎の場合、まれに劇症化して死亡する場合がありますが、ほとんどの人が完全に治癒するとされています。

体内にB型肝炎ウイルスが持続的に存在している、いわゆる『B型肝炎ウイルスキャリア』の発症による慢性肝炎や肝硬変の場合は、治療が必要となります。どのような治療法を選択するかは、全身状態や肝炎の病期、活動度などから判断されます。

B型肝炎の治療法は、グリチルリチン製剤の静脈注射や胆汁酸製剤の内服などにより、肝臓の機能を正常化させ、病状の進行を抑える『肝庇護(ひご)療法』、ウイルスの増殖を抑える働きのあるたんぱく(インターフェロン)を注射する『インターフェロン療法』、抗ウイルス薬の内服による『抗ウイルス療法』などがあります。

C型肝炎の治療は患者さんの年齢や今までの治療歴、その他の病気の有無と種類、C型肝炎ウイルスのタイプと量によって決まります。グリチルリチン製剤の静脈注射や胆汁酸製剤の内服などによる肝庇護療法で治療を行います」

肝炎の予防法は?

Q.肝炎の発症を予防する方法について、教えてください。

高木さん「肝炎の代表的な予防法は、次の通りです」

(1)ワクチン接種
肝炎ウイルスに対するワクチンは、感染を予防するために非常に効果的です。特に、B型肝炎ウイルスはワクチンがあり、ワクチン接種を受けることで、感染リスクを低減できます。一方、C型肝炎ウイルスはワクチンがありません。

(2)感染経路の予防
肝炎は血液や体液を介して感染することが多いため、感染経路を避けることが重要です。次のポイントに注意してください。

・針を共有しない。
・血液や体液に触れた後は手を洗う。
・タトゥーやピアスなどの施術は、衛生的な施設で行う。
・ジビエを生の状態で食べない。

(3)安全な性行為
性感染症の予防として、避妊具を使用することが大切です。肝炎ウイルスは性行為を通じて感染する可能性があるため、避妊具を正しく使用しましょう。

(4)衛生習慣の徹底
手洗いや食品の適切な調理、清潔な水の摂取など、衛生習慣を守ることで感染リスクを低減できます。

(5)感染者との接触に注意
感染者との接触を避けることで感染リスクを減らせます。感染者に接触したり、感染者と物を共有したりするのは避けましょう。

これらの対策を実践することで、肝炎の発症を予防できる可能性が高まります。もし肝炎の疑いがある場合は早期に医療機関を受診し、医師の適切なアドバイスを受けることも重要です。