企業の採用説明会の開催など、2020年卒大学生の就職活動が本格化しています。ここ数年、就活生にとって有利な「売り手市場」が続く一方で、実は就職活動の真っ最中に発達障害と診断され、内定を得られずにつまずく就活生がいます。しかし、以前に比べて支援体制が広がりつつあり、発達障害であっても就職を諦める必要はないようです。発達障害の就活生やその親の相談に応じる、工学院大学(東京都)の心理カウンセラーでコラムニストの大間秀章さんに聞きました。

発達障害の大学生は全国に4500人

Q.発達障害の就活生は、ここ数年で増えているのですか。

大間さん「就活生だけに絞った数字は出ていませんが、日本学生支援機構の調査によると、発達障害の大学生は2017年度、全国に約4500人おり、2016年度と比べて約1000人増加しています。肌感覚でも確実に、発達障害を抱える大学生は増えています。単純計算で、就活生に当たる1学年では約1000人でしょうか」

Q.増加傾向とはいえ、思ったより少ない印象があります。

大間さん「約4500人という数字は、発達障害の診断が出ていて、それを大学に届け出ている大学生の数です。発達障害の症状が出ていてもその自覚がない、発達障害の症状はあるが診断基準を満たしていない、いわゆる『発達障害グレーゾーン』の大学生は含まれていません。それらの人も含めれば、大学生全体で数万人単位になると考えています」

Q.就活生は、いつ自分が発達障害だと気づくのですか。どのようなことで就職活動の壁にぶつかるのでしょうか。

大間さん「大学生活は何とかこなせても、就職活動中に発達障害が判明する学生が少なくありません。『壁』は例えば、企業に提出するエントリーシートの作成に苦労します。『志望動機』の記入項目に『企業理念』を書いてしまうなど、適切な内容を書くことができない、または、自分の考えを文章にまとめることが苦手で筆が進まずに苦労する、などです。1人でエントリーシートを完成させることが難しいので周囲のサポートが必要になります。

また、仮にエントリーシートが通過しても、コミュニケーションを苦手とする学生が多いので、1次面接やグループディスカッションなどで意思疎通の悪さが見られてしまい、不採用になることが多いです」

Q.発達障害からメンタル不調になる人がいると聞いたことがあります。

大間さん「発達障害の自覚がない学生は、当初は周囲の学生たちと同じように普通に就職活動を始めますが、面接を受けてもなかなか良い結果がでません。そうすると、『周りは内定が出ているのになぜ自分は駄目なのか』と、その原因が分からないまま悩み、自己肯定感を失いやすくなります。なぜ、自分だけが内定をもらえないのか理由が分からず、一人で抱え込んで疲弊し、二次障害としてメンタル不調をきたしてしまうことがあります」

Q.親は驚くのではないですか。

大間さん「二次障害としてメンタル不調を起こして病院を受診し、発達障害の可能性が判明する、そうすると就活の方向性をリセットすることになるわけですから、普通に就職をしていくと考えていた親御さんは驚かれ、不安になられることもあります。ただ、大学内や外部の支援を活用し、その学生に合った就活方法や就職先を捜して就職することは可能です」

「発達障害=不利」では決してない

Q.では、発達障害の就活生は、どのように就職活動と向き合えばよいのでしょうか。

大間さん「例えば、発達障害の特性から、同時並行で物事を進めることが苦手で、就職活動と学業の両立が難しい学生がいます。その場合、本人や親御さん、担当の教員と話し合った上で、就職活動はいったん保留にして、まずは確実に大学を卒業できるよう、学業に専念させます。

そして、卒業できる見通しが立った段階から就職活動を再開します。同時並行ではないため、卒業してから内定が決まるケースが多いです。そのため、卒業後も就職活動のサポートが必要です」

Q.親は、どのように向き合えばよいのでしょうか。

大間さん「親御さんは進路の決定や就活を本人任せにせず、一緒に寄り添い、将来を考えてもらいたいです。具体的には、発達障害の人に理解のある求人や職場の求人情報を就活生に提供したり、専門の就労支援を活用したりすること。また、場合によっては、障害者手帳の取得を検討するなど、就活生に合った環境で自分らしく生きる道を家族とともに検討してほしいです」

Q.障害者手帳を取得すると、障害者枠での就職が可能になりますが、職種が限られるなど一定の制限があります。そうしたことに就活生は、抵抗を感じないのですか

大間さん「障害者手帳を取得し、障害者枠で採用される就活生の心境はさまざまですが、おおむね前向きに捉えているという印象です。そもそも、発達障害で障害者手帳を取得した学生は、通常の就職がうまくいかなかった理由がクリアになった方です。

そして、『発達障害であれば、こういう就活方法や求人があるんだ』と就職の道筋が見えてきます。発達障害の学生は、具体的な目標が見えると動ける方が多いので、抵抗を感じるという人は少ない印象です」

Q.社会全体の支援体制は整いつつあるのですか。

大間さん「現在、多くの大学で、発達障害の就活生に向けた支援体制を強化しています。大学だけでなく、民間の発達障害の就労移行支援も整ってきており、ハローワークでは手帳の有無にかかわらず、発達障害やコミュニケーションが苦手な方の就職支援を行っているところもあります。

卒業後も継続して就職活動を行う発達障害の就活生は多いことから、大学内だけでの対応ではなく、こうした外部の支援機関へつなぐことは大切です。そうすることで学生本人と親御さんも安心できます」

Q.発達障害と判明した就活生に声を掛けるとすれば。

大間さん「周囲の学生が内定を獲得していく中、自分だけがなかなか内定が出ないと焦るのはどんな学生も同じです。大切なのは、『内定=ゴール』でなく、自分に合った環境を見つけて自分らしく生きていくということです。発達障害だから不利だなどと、決して思ってほしくはありません。以前より、格段に支援が広がってきています。自分に合った環境は必ずあるので、そこに向けて進んでほしいです」