お笑いコンビ・ロンドンブーツ1号2号の田村亮さんや、NHKから国民を守る党の丸山穂高衆院議員、自民党の河井案里参院議員が患ったとされる「適応障害」。よく聞く病名ではありますが、どのような病気で、同じく精神疾患の一つである「うつ病」とは、何が違うのでしょうか。精神科専門医の田中伸一郎さんに聞きました。

「心がくじけた状態」、自殺のリスクも

Q.適応障害とは、どのような病気でしょうか。

田中さん「適応障害とは、わかりやすく言うと、ストレスによって心がくじけた状態です。医学的には、本人の特性(考え方、生き方を含む)と環境との相互作用によって発症すると考えられています。

原因としては、恋愛、失恋、進学、就職、解雇、退職、1人暮らしの開始、結婚、離婚、妊娠、出産、身体疾患の発病など、さまざまな生活上の変化が挙げられます。もちろん、学校でのいじめ、職場でのハラスメントなどといった過度のストレスも原因となります。

適応障害では、そうしたストレスを受けてから数カ月以内に、うつ、不安、睡眠障害、食欲低下などの心身の不調が見られます。また、人によっては、いらいら、攻撃的な言動、過剰飲酒が見られる場合もあり、自殺行動のリスクもあります」

Q.治療はどのようにするのでしょうか。また、一般的にどのくらいの期間が治療にかかるのですか。

田中さん「治療はまず、『一体何が起こって、どのようにつらくなってきたのか』を話してもらうことから始めます。安心感や信頼感のある治療関係のもとでつらさを語ることは、それだけでも治療効果があるでしょう。その上で、睡眠時間を確保し、適度な運動をすすめ、ほどよいリラックスが得られるような生活指導を行います。

人によっては、職場などに宛てて診断書を作成し、数週間から1カ月程度の自宅療養を指示する場合もあります。環境的なストレスから離れることができれば、適応障害は投薬治療を行わなくても数カ月以内に速やかに回復するのが一般的です。

回復段階に入れば、適応障害を引き起こした本人の対処不全と適応力についても焦点を当てていきます。一体どのようにすれば、つらい状況を乗り越えることができるのか、あるいは、乗り越えることができないとしたらどうすればいいのか(本人の特性と環境の相互作用なので、必ずしも乗り越えられるとは限りません)を一緒に考えます」

Q.うつ病との違い、共通点を教えてください。

田中さん「先述したように、適応障害の症状にも『うつ』があり、睡眠障害、食欲低下などの身体症状も見られます。従って、症状の上では、適応障害とうつ病はかなり共通しているということになります。また、発症の仕方も、丁寧な診察によって『過度なストレスと本人の特性(考え方、生き方など)との相互作用』が明らかになってくると、適応障害とうつ病はかなり似通ってきます。

ただし、両者が重なり合うのは軽度のうつ病までです。中等度以上の本格的なうつ病を発症した場合、脳機能を改善させるための投薬治療が必要となるでしょう」

Q.適応障害で自殺のリスクがあるとのことですが、うつ病の場合も自殺に至る場合があります。適応障害とうつ病で、リスクの程度に違いはあるのでしょうか。

田中さん「先述したように、適応障害の場合にも自殺行動のリスクがあります。うつ病と同程度と言ってもよいかもしれません。というのも、過度なストレスにさらされ続けると、誰しも心が折れた状態に陥り、『つらい状況から抜け出すためには死ぬしかない』と考えてしまうからです。

いつもの余裕を取り戻し、自分の特性(考え方、生き方など)と環境がミスマッチを起こしていることに気付くことができれば、体勢を立て直せるでしょう。しかし、次から次へとストレスが襲ってくる状況では、広い視野を持って柔軟に対処することができません。自殺行為にまで至らずとも、攻撃的な言動が増えたり、大量に飲酒したり、危険な行動を起こしたりすることもあるので十分に注意が必要です」

平気を装って日常生活送るケースも

Q.適応障害と診断されても、日常通りの活動をしているように見えたり、「非常に重要」という場には姿を現したりする人もいます。適応障害においては、このようなケースもあるのでしょうか。

田中さん「適応障害では、くじけていても多少の無理を押して日常生活を送っていることがあります。もともと前向きで適応力の高い人が、過酷な環境を何とか乗り越えようとしていたのが、ついに限界を超えて発症してしまうケースもまれではありません。一人でストレスを抱え込み、それでも平気を装って無理を重ねているため、周囲の人から全く気付かれないということがしばしば起こるのです。

従って、本人のつらさを置き去りにして『適応障害は大した病気ではない』と思うのは、完全に誤解だと言ってよいでしょう。適応障害かなと思ったら『薬に頼らない治療』を行っているような精神科外来を受診することをおすすめします」

Q.家族や会社の同僚、友人が適応障害と診断された場合、どのように接するのがよいのでしょうか。

田中さん「何よりも、本人がつらくなった経緯をじっくりと聞きましょう。その際、ねぎらいの言葉かけが重要ですし、『私はあなたの味方である』という安心感を与えるように接することを心がけます。いったん環境的なストレスから離れることができたら、改めて本人の対処不全と適応力について話題にしていきましょう」

Q.適応障害にならない予防策はありますか。

田中さん「ストレスフルな現代社会において、環境的なストレスを避けることは不可能に近いかもしれません。そのため、適応障害にならない予防策を考えることはとても難しいと思います。

ただ、ストレスが増えてきたと思ったら、自分はどのような心身の不調が出やすいか(→不調のサインを知る)、どのような思考パターンを取りやすいか(→『コーピング・スキル』と呼ばれるストレス対処法の技能を高める)、自分はどうなりたいのか(→達成可能なゴールを設定する)などを自分自身に問い直してみるとよいでしょう。

こうした作業は、何も一人で取り組むものでもなく、信頼できる相手と話し合いながら進めていくものであることを忘れてはいけません」