先日、大幸薬品(大阪市西区)が胃腸薬「正露丸」の公式ツイッターで、「かばんやスーツケースについた正露丸の臭いについて、率直に申し上げますと、臭いを取る有効な方法はございません。臭いが強すぎました」と公表して話題になりました。洗濯できないものに正露丸の臭いが付くと、自然に消えるのを待つしかないそうです。

 一方、衣服など洗濯できるものについては、同社によると、衣服に付いた臭いが取れるか問い合わせがあった場合、「他の洗濯物とは分け、洗えるだけ洗ってください」と回答するものの、「臭いが取れる」とは断言していないそうです。

 年末年始、食べ過ぎなどで正露丸を使う機会もあると思いますが、容器が密閉されていなかったなどの理由で服に臭いが付いてしまうことも考えられます。洗濯で正露丸の臭いを完全に除去できるのでしょうか。東京・旗の台にある三共クリーニングの田村嘉浩社長に聞きました。

効果的な消臭洗剤はない

Q.大幸薬品が述べているように、正露丸が、かばんやスーツケースの中で散らばって臭いが付いてしまった場合、臭いを取ることは難しいのでしょうか。

田村さん「臭いを取ることは難しいと思います。正露丸の主成分は、木(もく)クレオソートだそうですが、木クレオソートは、ブナやマツなどを炭化するときに得られる木タールという物質を蒸留し、精製される微黄色透明の液体で、粘性のある油が成分です。

粘性のある油は、水の洗浄では簡単に汚れが取れないことが推測されます。今回は臭いが取れるかどうかという問題なので、この油の微粒子が取れるかどうか、ということになります。微粒子が表面にのっているだけなら、水拭き洗いでも臭いは取れると思いますが、かばんやスーツケースの内側の生地や皮革に染み込んだ場合、丸洗いもできないので除去は難しいと思われます」

Q.衣服に正露丸の臭いが付いてしまった場合、完全に臭いを取ることはできないのでしょうか。

田村さん「通常、臭いが軽度の場合は風通しのよい場所に陰干しするか、日光に当てても変色しないものは天日干しすることで臭いは消えます。しかし、香水や防虫剤もそうですが、精製され、臭いを凝縮した油性・アルコール系の臭いの除去は、難しいです。少しでも成分が付いていれば、臭いがいつまでも残る目的で作られた製品だからです。

プロ用の消臭洗剤はたくさんありますが、正露丸のような成分に決定的な効果がある消臭洗剤はまだ見つかっていません。それを除去するためには、相当過激な洗浄が必要になります。

丸洗いできるものは、洗うたびに臭いが薄くはなりますが、完全に取れたケースは少ないです。これは雑菌による臭いではないので、殺菌・除菌系列の洗剤の消臭効果は期待できません。臭いを発生させる原因物質を取り除く必要があります。

ただ、臭いは長期間持続しますが、永久ではありません。少しずつ減少させていくしかないでしょう。そのため、臭いを吸着するものにできる限り臭いを吸わせて、軽減させる方法も考えられます」

Q.クリーニング専門店にお願いして、特殊な洗い方をすれば臭いが取れるということでしょうか。

田村さん「唯一考えられるのは、油性の汚れを取るドライクリーニングです。ただ、ドライクリーニングできる衣服のみが対象で、しかも、1回の依頼で何度も洗う必要がありそうなので費用がかかるほか、何度もドライクリーニングしても大丈夫な衣服に限られてしまいます。

正露丸の臭いを取る依頼を私自身が受けたことはありません。決定打はなさそうですが、熱をかけられる衣服であれば、40〜60度に温めて少しでも臭いを揮発させ薄くする方法▽アイロンのスチームをかけて臭いを揮発させ取り除く方法▽オゾン発生装置でオゾンをかけて臭いを分解する方法▽扇風機の風に当てて臭いを少しでも飛ばす方法――なども考えられます」

Q.最近では、数多くの家庭用の洗濯芳香剤が販売されています。これらを通常よりも多く使うことで、正露丸の臭いを消すことはできないのでしょうか。

田村さん「芳香剤は臭いをごまかすために入っています。正露丸の臭いが取れていないのなら、正露丸と芳香剤の臭いが混じる結果となり、それを受け入れられるかどうかということになります。芳香剤に抗菌・殺菌成分が入っている場合でも、菌による臭いではないので効果は期待できません。ただ、臭いを吸着する消臭剤を使用する方法は有効性があると思います」

家庭でできる臭い軽減は?

Q.洗濯で重曹を使い、しつこい汚れを落として臭いを取ることがあります。正露丸の臭いに、重曹は太刀打ちできないのでしょうか。

田村さん「重曹は万能とされていますが、人間に対する安全性メリットの面が大きいです。クリーニング業からすれば、家庭でも使用できる弱いアルカリ剤の一種で、食品にも使用でき安全ですが、効果は薄いと思います。油汚れの洗浄力を少し上げるという点では、洗剤効果の強化剤と併用してもよいでしょう。ただ、今回のケースに効果があるかは分かりません。水洗いが前提なので、耐えられる衣服でお試しください」

Q.家庭で衣服の正露丸の臭いを軽減させる場合、どのような対応をすれば効果があるでしょうか。

田村さん「一番有効と思われるのは、衣服を新聞紙(古新聞)でくるむ方法です。それをビニール袋などで包んで密閉し、2〜3日放置します。新聞紙は植物繊維で、ミクロの隙間に臭いを吸着してくれる効果があります。効果が少ない場合は、新聞紙を取り換えて繰り返してみるのもよいでしょう。時間はかかりますが、時間とともに徐々に効果が期待できます。新聞紙に包むだけなので、どんな衣服でも試せます。

また、臭いが付いた衣服を、冷蔵庫に入れる活性炭の消臭剤とともに、ビニール袋などの密閉空間に一緒に入れておく方法があります。そして、何日も臭いを確認しながら、臭いを抜いていく工程を繰り返します。

洗濯が可能な衣服は、油性の汚れに効く台所中性洗剤や重曹をぬるま湯に入れ、つけ置き洗いするのもよいです。スチーマーやアイロンのスチームで加熱し、少しでも臭いを揮発させて臭いを取ることもできます。

マスキング効果のある消臭剤、揮発する臭い原因物質を塗布することでコーティングする方法、スプレータイプの消臭剤で幾分封じ込める方法も考えられます。ただ、これらいずれの方法でも、完全に臭いが取れるとまではいきません。決定的な打開策はないと個人的には思います」