大学入試が終盤戦を迎えています。民間の英語試験導入が見合わせになるなど、当事者である子どもたちが翻弄(ほんろう)されている大学受験の現状を見て、「わが子のときは大丈夫なのか」と案ずる保護者も多く、そんな不安を軽減させようと中学受験を選択する家庭も出てきています。

 年々注目が高まる中学受験ですが、最近は従来のペーパー試験だけでなく、思考力を測るユニークな入試を行う学校も増えています。内容はプレゼンやプログラミングなどさまざまです。受験の多様化を背景に、文字から学ぶだけでなく体験を通して学ぶ講座を開く塾も増えてきました。

 そんな中、受験塾でもないのに、なぜか中学受験を目指す子どもが集まっているとうわさの教室があります。開講の情報が載るや否や、すぐに満席になるという謎の講座とは、一体どのようなものでしょうか。

「タマネギが日本で一番とれるのは…?」

 都内某所、その教室の扉を開くと、そこにいたのはエプロン姿の子どもたち。大きなキッチンを囲んで着席する様子は、どう見ても学習塾とは異なります。

「今日のメニューはタコライスです」

 先生から発表されたのは、その日作る予定のメニュー。彼らは何と、料理講座を受けていました。

 講師を務めるのは、台所文化伝承家で食育・受験フードアドバイザーの中原麻衣子さん。この日開かれていたのは、子ども向けの料理教室「つながるキッチン」。講座の内容が受験にも役立つと口コミで広がり、受験を考える子どもが多く通ってくるようになったのです。なぜ、それほどまでに人気が出たのか、理由はその内容にありました。

 テーブルに用意されていたのは、タコライスの材料。講師の中原さんは材料の産地について語り始めます。

「タマネギが日本で一番とれるのはどこか分かりますか?」

「どこかなあ…」

 少し考える子どもたち。「青森」「茨城」など、いろいろな県の名前が飛び出す中、「北海道」と叫ぶ子どもの声がすると、すかさず「正解!」と中原さん。クイズ形式で子どもたちの興味をグイグイと引き出し、続くトマトやナスなどの産地も次々とクイズ化していきます。

 こうして、その日の材料の産地を紹介すると、「では、ノートにある地図に色を塗ってみよう」。先生の言葉に子どもたちは一斉にノートを開き、「ここは何県かな?」「熊本ってここ?」などと相談しながら、材料の産地を率先して書き込んでいきます。その姿は、ドリルなどで生産高のグラフを見るよりも、はるかに深く情報を脳に刻んでいるように見えます。

調理の段取りが、受験にも役立つ

 調理に取り掛かってからも、先生の抜群のコメントは続きます。

 タマネギのみじん切りで涙を流す子がいると、「タマネギに含まれるアリシンという成分が、目のこの辺りにある涙腺を刺激して涙が流れるんだよ」などと、料理教室とは思えない情報をトークしていきます。そして、何よりも目を奪われたのは、どのタイミングでどの食材を入れるかなど、子どもたちに段取りを考えさせながら進めていく様子です。

 実はこれ、受験のときにもとても役立つ要素。塾によっては大量のプリントが課せられることもあるのですが、段取りを考えて行うことで効率よく進めることができるのです。

 参加した保護者に話を聞くと、「『これをしたら次にあれをする』ということが前よりも自然とできるようになってきた気がする」とのこと。学校探しから試験問題を解く順番に至るまで、段取りよく進めることはすべてのことに生かされます。それが、料理を通して学べるというのです。

 共働きが増えた現代、親としては子どもが料理の手伝いをしたがっても、手取り足取り教える時間が作れないというのが正直なところ。そんな中、料理だけでなく受験に役立つ知識や力までもが養われるというのですから、人気が出るのもうなずけます。

 しかし、講座を主催する中原さんは当初、こうした反響があるとは思っていなかったそうで、中学受験と料理の関係性について次のように語ります。

「お料理を通して生きる力を養ってほしいという思いでやっています。産地を紹介するのは受験勉強のためではなく、いただく食材の向こう側には、いつも生産者さんたちがいることを知ってほしいから。それがたまたま、受験にも役立つ知識につながっていったということだと思います」

「学ぶ」とは本来こういうことなのかもしれません。大人の私たちの方が、学ぶべき姿勢を教えられている気がします。