新型コロナウイルスの感染者が増加し、国内ではこれまでにさまざまなイベントが中止に追い込まれたほか、各スポーツの試合も延期、または無観客での実施が増えています。感染の終息のめどが立たないことから、今夏の東京五輪・パラリンピックの開催を危ぶむ声も出始めていますが、もし五輪・パラリンピックが中止となった場合、経済的な損失はどの程度になるのでしょうか。

 一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事で尚美学園大学准教授の江頭満正さんに聞きました。

中止なら7兆2900億円まで減少

Q.もし、東京五輪・パラリンピックが中止となった場合、経済的な損失はどの程度になるのでしょうか。

江頭さん「東京都オリンピック・パラリンピック準備局の発表によると、日本における経済効果は32兆円です。もし中止となった場合、経済効果は7兆2900億円にまで減少すると私は試算しています。つまり、約25兆円の“損失”です」

Q.中止になった場合の収支の内訳は。

江頭さん「東京都の算出根拠に示された施設設備費は、スタジアムなどの建築費や改修費用が中心ですが、この金額は中止になってもあまり変わらないと思います。このほか、大会運営費については、企業マーケティング費用がすでに準備段階で発生しているため40%程度、国際映像制作費用はテレビ中継がなくなるのでゼロとします。

レガシーによる経済効果に関しての減少が大きく、スポーツや都民参加による消費は準備段階ですでに進行しているため20%、経済の活性化は中止により投資が回収できない、また、マイナス効果の可能性もあるのでゼロと想定しました。

その結果、大会に関する出費が14兆2200億円(都推定)から3兆2000億円(江頭推定)と大幅に減少し、一次波及、二次波及効果を合わせて7兆2900億円にまで減少します」

大会組織委、IOCの損失は?

Q.中止となった場合の大会組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)の損失は。

江頭さん「2019年12月に組織委員会が発表した『大会費用バージョン4』を基に試算すると、組織委員会は最大625億円程度の赤字になると思われます。国内外のスポンサー、およびライセンス料は、大会前に放映したCMやロゴの使用を鑑みて50%程度しか請求できない危険性があります。

900億円を見込んでいたチケットの売り上げはゼロになるだけでなく、払い戻し手続きや販売にかかった手数料でマイナスとなる可能性もあります。支出に関しては、マーケティング費用は100%とし、準備段階で支出済みの費用を50%と想定しました。625億円の赤字は東京都を中心に負担すると予想されます。

一方、IOCは東京での開催を前向きに検討しています。中止すると多くの収益を失うからではないでしょうか。全世界へのテレビ放映権、スポンサーなどの収入をロンドン大会とリオ大会を参考に推定すると、日本円で8100億円(1ドル110円で計算)となります。

中止により、チケットの売り上げはゼロ、スポンサー費用は50%、テレビ放映権は40%(夏大会と冬大会セットのため)とそれぞれ試算すると、日本円で約5000億円の減収です」

Q.無観客試合となった場合はどうでしょうか。

江頭さん「テレビを経由して世界中にスポンサー名が放送されるため、スポンサーへのダメージが軽減されます。2016年のロイターの報道によると、ロンドン五輪の際は全世界の人口の半数にあたる約36億人がテレビ観戦しました。

【日本の経済波及効果】

本来の開催時、チケットを購入して会場で観戦する人は1000万人以下と思われます。観戦する人と海外からの訪問者の出費は減少しますが、それ以外の経済活動への影響は限定的と思われます。そのため、経済波及効果は2兆円程度の損失で済みますが、ホテルや飲食店など観戦者をあてにしていた産業のダメージは大きいでしょう。

【組織委員会の損失】

チケット売り上げの900億円がそのまま赤字になるでしょう。また、無観客のため警備にかかる費用や光熱費などは減少すると思いますが、結果的に諸経費は開催の場合とあまり変わらないと思われます。ただ、代表選手は競技に参加して成績を残すことができます。スポーツ振興などの視点から鑑みてもダメージは限定的と思われます。

【IOCの損失】

IOCにとって、五輪開催による収入の過半はテレビ放映権です。収入予想ですが、8100億円のうち約4600億円に該当します。無観客でも大会を開催し、テレビ中継できれば、損失はチケット収入だけで済みます。しかも、チケット収入はIOCのものではなく、組織委員会のものです。

つまり、IOCはほとんど損失が出ないと思われます。なお、IOCが危惧するのは、日本での新型コロナウイルスの感染拡大により、世界のアスリートが出場を見送る危険性だと思われます」

五輪中止の可能性は低い?

Q.英国では「(2012年の五輪開催都市)ロンドンで開催すべきだ」との声もあります。代替地での開催はあり得るのでしょうか。

江頭さん「先述の通り、無観客での開催は予想以上に損害が少ないことが分かりました。ロンドンに移すより、無観客で東京開催した方がダメージは少ないと思われます。現在、プロ野球のオープン戦は無観客開催ですが大きな問題は起きていません」

Q.新型肺炎の終息のめどが立たない中でも、東京で五輪を開催できるのでしょうか。

江頭さん「2016年のリオ大会では、ジカ熱感染の危険性がWHO(世界保健機関)などから指摘されていましたが、IOCが開催を決定しています。東京大会も中止や延期などの措置を決める権限はIOCにあります。

リオ大会の際、IOCのバジェット医事部長は『WHOは移動や商取引をなんら規制すべきではないと明確にしている。つまり、リオ五輪を中止したり遅らせたり延期したり開催地を変更したりする、正当な理由はないということだ』と表明しています。

WHOからの警告があったにもかかわらず開催し、結局、ジカ熱による影響はほとんどなく大会を終えました。これらのことから、よほどのことがない限りIOCは中止という決定はしないでしょう」

Q.ただ、感染の有無についての検査件数の少なさなど、新型コロナウイルスへの国の対応は遅れ気味の印象があります。

江頭さん「現在の日本では、新型コロナウイルスに関する十分なPCR検査が行われていません。もし、国民の大半がこの検査を受けられるようになったら、感染者数は現在判明している人数の数百倍になるかもしれません。そうなると、感染者率が高い日本に世界のトップアスリートが集まることが難しくなる可能性もあります。

あくまで私見ですが、感染者の増加が止まらない状況が続くと、多くのトップアスリートが出場を辞退するかもしれません。そうなれば、中止や延期が現実味を帯びるでしょう。開催できるかどうかは、今後どこまで状況を改善できるか、5月までに感染者数を減少傾向にできるか否かにかかっていると思います」