女子プロレスラー・木村花さんの急死をきっかけに、SNSなどネット上における誹謗(ひぼう)中傷が社会問題となっています。

 木村さんのSNSには「死ね」「消えろ」など乱暴な言葉が書き込まれていたようですが、ネット上では「『死ね』もだめだけど、持病のことをやゆする人もアウトでは?」「相手が芸能人だろうが政治家だろうが、子どもの有無や家族構成のことを悪く言うのは人としてどうかと思う」など、パーソナルな部分を攻撃し得る心ない言葉や内容に関しても、さまざまな意見が上がっています。

 個人的な事情や環境をやゆする言葉も、罪に問うことができるのでしょうか。グラディアトル法律事務所の伊藤翔太弁護士に聞きました。

名誉毀損罪や侮辱罪の可能性

Q.誹謗中傷を行うと、どのような罪に問われる可能性がありますか。

伊藤さん「名誉毀損(きそん)罪や侮辱罪に問われる可能性があります。名誉毀損罪とは、事実の有無にかかわらず、公然と事実を摘示(てきじ=示す)し、人の名誉を毀損した者に対して成立する罪です。

分かりやすく言うと、不特定、または多人数が認識できる状態で、人の社会的評価を低下させる具体的事実を示した場合、罪に問われる可能性があります。『事実の有無にかかわらず』とは、示した具体的事実がうそであっても該当するということです。

例えば、『Aが複数の女性と不倫している』と誰もが見ることができるSNSに書き込む行為は、それが事実であろうとなかろうと、不特定、または多人数が認識できる状態での投稿であり、“不倫”というAさんの社会的評価を低下させる具体的事実を示しているので、名誉毀損罪が成立する可能性があります。

侮辱罪とは、具体的事実を示すことなく軽蔑の感情を表すことをいいます。名誉毀損罪とは異なり、『事実の摘示』がいらない点が特徴です。例えば、『Aはうそつきの大ばか野郎だ』と投稿すると、具体的事実は示していませんが侮辱罪が成立する可能性があります」

Q.ネット上では、著名人に対し、悪意が感じられるような言葉を用いて「持病」「子どもの有無」「家族構成」についてやゆするケースがあります。こうした個人的な事情や環境に対して心ない言葉を向けた場合も、罪に問われるのですか。

伊藤さん「個人的な事情・環境に対する心ない言葉の内容が、先述の名誉毀損罪や侮辱罪を構成するものであれば、これらの罪に問われる可能性があります。

法的手段としては、まず刑事上は告訴をして、名誉毀損罪や侮辱罪の事実を捜査機関に申告し、犯人の処罰を求めることができます。名誉毀損罪や侮辱罪は、告訴がなければ公訴を提起できない『親告罪』なので、刑事上の処罰を求める場合は告訴が必要です。

民事上は、書き込まれたSNSや掲示板などに対して、投稿記事を削除するよう請求できます。投稿者に対しては、SNSや掲示板、および、投稿者が利用した回線事業者に対する発信者情報開示請求を経て、当該投稿について『投稿者が行ったものである』と判明した場合、損害賠償請求をすることができます」

合法と違法の線引きはある?

Q.批判や誹謗中傷について、合法/違法の基準・線引きはあるのでしょうか。

伊藤さん「明確な合法/違法の基準や線引きは『ない』といわざるを得ません。いえるとすれば、名誉毀損については『社会的評価を低下させる事実かどうか』、侮辱については『軽蔑の感情を表示する表現かどうか』ということになります。

名誉毀損に関しては、憲法が保障する『言論の自由』との関係から、書き込んだ事実が公共の利害に関するもので、かつ、摘示された事実が真実であることが証明された場合には、罰せられることはありません。

例えば、『政治家Aは賄賂を受け取っている。政治家としては不適格だ』という投稿は通常、『公共の利害のために、政治家Aの社会的評価を下げる投稿を行った』といえます。そのため、Aが実際に賄賂を受け取っていたと証明できる場合は、罰せられることはありません。

過去の判例では、『Aは中絶経験有り』『不倫・離婚経験有り』と記載した郵便はがきを送り付けたケースや、『教育者であるのに校則を知らない』『うそをうそで塗り固める』とネット上の掲示板に投稿したケースで、名誉毀損罪の成立が認められています。また、侮辱罪では『くそばば早くくたばれ』と口頭で発したケースがあります」

Q.持病や子どもの有無といったパーソナルな部分を、SNSなどのオープンな場で攻撃する人も少なくありません。こうした状況について、どう思われますか。

伊藤さん「私見ですが、パーソナルな部分であろうとなかろうと、オープンな場で他人を攻撃する人が出てくる背景としては、匿名で投稿できるSNSや掲示板が多いからではないかと思います。SNSをはじめ、インターネット環境の発達に伴い、伝えたい内容や自らの意見を誰もが容易に、多くの人に向けて自由に表現できるようになりました。

もっとも、自由に表現できるようになったとはいえ、自ら行った表現に対しては責任を負う必要があります。にもかかわらず、他人を攻撃する表現を行うのは“匿名”である以上、自らが表現したものと判明することはなく、結果、『表現に対する責任を負うことはないから、どんな投稿をしても大丈夫』という思考になるのではないでしょうか。

匿名であるがゆえに表現が活発化する、という側面もあるかもしれません。しかし、『表現の活発化』と『表現に対する責任』は別物です。そして、匿名での投稿であったとしても、先述したように、発信者情報開示請求の手続きにより投稿者を特定することは可能です。

そのため、自らの表現を投稿する際には、その裏に責任があることを認識して投稿しましょう。個人的には『自分の本名を明かした上でも、この表現をできるかどうか』を、投稿するかどうか決める基準とするのがいいのではないかと思います」