新型コロナウイルス感染防止のため、ライブエンターテインメント業界は2月、営業停止状態に入りました。緊急事態宣言が5月25日に全面解除され、プロ野球やサッカーJリーグが観客を入れた興行を始めた後も、同業界は本格的な再開には遠い状況です。

 有料のオンラインライブ開催など試行錯誤が続いていますが、夏場を中心に多くの観客を集める「ロックフェス」は軒並み中止に追い込まれました。その影響は音楽業界だけでなく、地域経済にも及びます。

 ロックフェス中止の影響と今後の在り方について、音楽イベントやスポーツが地域経済に与える影響を研究してきた筆者がお話しします。

経済波及効果は150億円超

 新潟県の苗場スキー場で毎年開催されている「FUJI ROCK FESTIVAL(通称『フジロック』)」の経済波及効果について、筆者は2015年に現地調査を行い、151億円という経済波及効果を確認しました。

 2015年のフジロックはステージ数12、出演アーティスト214組。チケット価格は一般前売り券が3日通し券3万9800円(税込み)、1日券1万6800円(同)で、前夜祭を含む4日間の延べ動員人数は約11万5000人でした。

 チケット売り上げだけでも10億円を超えますが、151億円の90%以上は、ロックフェス自体の売り上げ以外の経済活動によるものです。フジロックは会場内でキャンプができますが、近くのホテルや民宿に泊まる来場者も多く、夏場は閑散期となる苗場スキー場周辺の宿泊施設にとって重要な催しものとなっています。

 フジロックを満喫するためには、靴をはじめとしたアウトドア衣料や椅子、キャンプ用品なども必要です。会場までの交通費や駅から会場までのシャトルバスの運行費、スタッフが準備のため苗場に滞在する際の費用など、関連して発生するものは多岐にわたります。これが経済波及効果額の90%以上になります。

中止・延期の中、オンライン開催も

 開催地にとって、大事な観光収入源となっているロックフェスですが、今年は新型コロナウイルスの影響で中止や延期が相次いでいます。例年なら、茨城県ひたちなか市で開催される「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」は中止、「SUMER SONIC」に代えて開催予定だった「SUPERSONIC」も2021年へ開催延期となりました。

 そんな中、オンラインでの開催へ移行する例が増えています。

 毎年、ゴールデンウイークにさいたまスーパーアリーナで開催される「VIVA LA ROCK」は7月31日〜8月2日、オンラインで有料開催。先述したフジロックは8月21〜23日、過去の映像を中心に編成した特別番組をYouTubeで配信。毎年、山梨県で開催されてきた「SWEET LOVE SHOWER」はオンラインイベントを、8月29日は無料、30日は一般3000円で配信する予定です。

 毎年、北海道石狩市で開かれ、「日本の四大ロックフェス」の一つとされる「RISING SUN ROCK FESTIVAL(RSR)」も8月15、16日に無料で7時間以上の番組をYouTubeで配信。怒髪天の増子直純さんらがMCを務め、過去21年間のLIVE映像ではB’z、矢沢永吉さん、井上陽水さんらの50曲以上を配信し、本来のフェスと同じように16日朝5時13分、石狩の日の出を中継して終了しました。同時視聴者は13万人を超えました。

 ロックフェスを無料オンライン配信に移行した意図や今後の展望について、RSRの主催者「ウエス」常務の若林良三さんに聞きました。

2021年開催につながる道を模索

 まず、新型コロナによるライブエンターテインメント業界の現状についてです。

 若林さんは「公演の延期・中止が始まった2月ごろは『春は必ず来る』というスローガンを発信して、4月ごろには再開できることを期待していました。しかし、世界的な流行となり、人が集まるライブは8月現在も本格始動できていません。ライブは『3密』を積極的に行うことで楽しさが増すものでしたから」と振り返り、こう続けました。

「ライブエンタメ業界の経済活動はなくなり、売り上げの90%以上を失った会社ばかりです。中でも、特殊技能を持ったエンジニアが離れていっています。音響や照明だけでなく、ステージを組むとび職の皆さんが建築現場に移り、運営でも経験豊富な人材が他の仕事に就いています。再開時に優秀な人材が戻って来てくれるか心配です」

 そんな厳しい状況の中、RSRをオンラインで行った理由を尋ねると、「音楽を止めるわけにはいきませんから」という力強い言葉が返ってきました。

「オンライン開催は半分、試験的なものでした。過去21年間のライブ映像を見ていただくことで、来年以降のRSRにつなげる狙いもありました。

『RSRはコロナに負けない』という姿勢を感じていただくとともに、RSRの『圧倒的な疲労感』、音楽に合わせて騒いで、クタクタになって石狩の朝日を見て、空っぽになったあの感じをオンラインでも再現したかったのです。ですから、開始時間も午後10時でしたし、残念ながら曇りでしたが、石狩の日の出にこだわりました。『RSRらしさ』は、オンラインでも失わなかったと思います。

無料配信には賛否両論があり、『音楽は無料ではない』というご意見も頂きました。ただ、21年間のRSRに出ていただいたアーティストをできるだけ多く紹介したかったんです。ビッグアーティストから、まだ粗削りな若手まで、『みんな音楽なんだ』と。有料化するとアーティストへの収益分配が難しくなるため、来年へ向けてのプロモーションと、今までのお客さんへの恩返しという趣旨をアーティストに説明したら、次々に快諾いただけまして、『無料で行こう!』となったわけです」

 オンラインでの開催でしたが、ファンからも関係者からもアーティストからも「よかった」と好評だったそうです。「もちろん、批判的な意見もありましたが、オンラインのRSRを見て評価くださったのですから、ありがたいです。何よりも、今年も多くの人に、RSRというフィルターを通じて音楽を届けられたことは成功だったと思います」と若林さんは手応えを感じたようです。

 とはいえ、今回はコロナ禍という異常事態の中でのオンライン開催でした。最後に、今後の音楽ライブの在り方について、若林さんの展望を聞きました。

「リアルの場でのライブが暗中模索ながら、少しずつ始まっています。開催した主催者に聞くと、お客さまから『楽しみにしていた』『運営さんも頑張ってください』といった言葉があり、ライブを待ちわびていたことが伝わってきたそうです。私も医学的なことも勉強し、世界の対応策も参考にしながら、ライブを始めていきます。コロナ前と同じ形には戻らないかもしれませんが、同質の楽しみが戻るように業界全体で努力します。

コロナにより、余暇時間の過ごし方も少人数で家族中心になり、人が集まる場所を避ける傾向になりました。こういった生活様式の変化に合わせ、新しいスタイルのライブを模索する必要があります。ステージ前に密集して、アーティストが演奏する音楽に合わせて、歌ったり声を出したり、飛び跳ねたりする形式を『正解』として来ましたが、他の『正解』を探さねばなりません。

例えば、北海道のワイナリーでの収穫祭のように、完成した新しいワインを片手に上質な生演奏を楽しむような。大会場にはない、近距離で音楽の粒立ちまで感じられる楽しみ方です。コロナ自粛でライフスタイルが変わりましたが、音楽が生活に彩りを添える存在であり、集中して聴いて主役になる存在でもあることは変わりません。音楽に触れる時間を、あと少し多くしていただけたらと思います」(若林さん)

「新しいフェスの形」探す

 ロックフェスはステージ前で密集してノリノリのお客さんもいますが、少し離れて、芝生やアウトドアチェアに座り、音楽を楽しんでいる人も大勢います。ファンというほどではないけど、生演奏を聴きたい。眠くなってまどろみながら、酔っぱらってフワフワしながら、生演奏を楽しむ。ロックフェスの特徴であるぜいたくな楽しみ方です。

 今後のフェスは密集しないで、フェスにしかできない、自由でぜいたくな楽しみ方に移行できれば、リスタートは早いかも知れません。オンラインライブは意欲的な試みではありますが、コロナ禍で苦しむ地域経済の再生のためにも、リアルの場でのフェス再開が期待されます。