「仕事のミスが多い」「評価されない」「定時で終わらない」。あなたが本来のパフォーマンスを発揮できないのは「生活習慣」が原因かもしれません。実は日本は世界一、睡眠時間が短い国。日本人の4割が睡眠不足です。睡眠時間6時間以下の生活をしている人は、徹夜明けと同程度まで脳のパフォーマンスが下がってしまいます。

 今回は精神科医で作家の樺沢紫苑さんに、生活習慣を整えることや睡眠の重要性について伺います。近著に「ブレインメンタル強化大全」(サンクチュアリ出版)があります。

日本人の4割は睡眠不足

 経済協力開発機構(OECD)による平均睡眠時間の調査(2019年)によると、日本の睡眠時間は30カ国中ワースト1位。日本は世界的に最も睡眠時間が短い国です。世界平均より61分も短いことが明らかになっています。

「厚生労働省によると、睡眠6時間未満の人の割合は男性36.1%、女性39.6%。性・年齢階級別では、男性の30〜50代、女性の40〜60代では4割を超えています(「平成30年国民健康・栄養調査」)。7時間以上の睡眠は男性29.5%、女性25.7%。つまり、日本人の約4割が睡眠不足であり、健康的な睡眠が取れている人は3〜4人に1人しかいないと言えます」(樺沢さん)

「『国民健康・栄養調査』での『ここ1カ月間、睡眠で休養が十分に取れていない人』の割合は21.7%。日本人の5人に1人が睡眠に問題を抱えているのです。不眠は加齢とともに増加します。60歳以上では、約3人に1人が睡眠の問題で悩んでいます。また、国立保健医療科学院の調査によると、日本人の14人に1人が睡眠薬を服用しています。多くの日本人は睡眠を見直す、改善する必要があるのです」

「睡眠不足」と「睡眠障害」は何が違うのでしょうか。また、最近では、睡眠不足が借金のように積み重なってあらゆる不調を引き起こす「睡眠負債」も問題になっています。

「必要な睡眠時間が確保できていない人が『睡眠不足』です。何時間以下が睡眠不足なのかは議論がありますが、ほとんどの睡眠研究で『6時間以下』とそれ以上の群で比較研究をしていて、『6時間以下』の群で大きな健康の害が現れます。また、8時間眠っていても、『睡眠の質』が悪く、十分に疲労が回復していないのなら、それも睡眠不足となります。『量(時間)』または『質』において、睡眠が足りていない状態が睡眠不足です」

「『睡眠負債』は疲労や認知機能低下が常態化し、集中力が低下して生産性が低下します。睡眠負債がたまると、週末2日間の十分な睡眠でも睡眠負債を返済できません。睡眠負債が長期でたまると、生活習慣病のリスクが飛躍的に高まります。『睡眠障害』は『寝たいけど寝られない』という人です。入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害、睡眠リズム障害などがあります。日中の眠気も強く、仕事や学業、生活に支障をきたす状態です」

週末のたっぷり睡眠でも回復できない

「今週は残業が多く疲れた。週末のたっぷり睡眠で回復しなければ」。しかし、樺沢さんは、週末睡眠は間違っていると解説します。

「普段は睡眠不足でも『週末にたっぷり眠れば取り返せる』と思っている人はいませんか。米ペンシルベニア州立大学のアレクザンドロス・ブゴンツァス(Alexandros N.Vgontzas MD)氏らの研究によって、これが間違いであることが示されています。『寝だめ』を再現すると、ストレスホルモンは低下し、脳波も正常化しましたが、認知機能だけは回復しなかったのです」

「平日に睡眠を削って仕事をして、週末に10時間の睡眠を取っても脳の疲れは回復しないのです。睡眠不足で低下した集中力は休日2日だけでは回復しません。つまり、休日明けもパフォーマンスの低い状態が続くことになります」

 週末のたっぷり睡眠は疲れを回復するのには効果的ですが、脳の疲れを回復するのには不十分のようです。仕事に疲れたら休養を取るしかありません。

睡眠不足は「命」を削る

 睡眠不足により、どのような影響があるのでしょうか。睡眠不足のデメリットには次のようなものがあると樺沢さんは指摘します。

「大きくは次の4つです。病気になる、寿命が縮む▽仕事のパフォーマンスが著しく低下する▽太る▽認知症になる。研究によって幅がありますが、睡眠時間6時間以下の人は、そうでない人と比べて、がん6倍、脳卒中4倍、心筋梗塞3倍、糖尿病3倍、高血圧2倍、風邪が5.2倍、認知症5倍、うつ病5.8倍、自殺が4.3倍です。ある研究では、死亡率が5.6倍ともいわれています」

「睡眠時間を削ると『命の回数券』と呼ばれる『テロメア』が短くなります。テロメアは染色体の末端にあり、細胞分裂をするごとに短くなっていきます。テロメアがなくなると、それ以上の細胞分裂ができない、つまり、テロメアは寿命と深い関係があります。ノーベル生理学・医学賞を受賞したエリザベス・ブラックバーン博士らの研究によると、睡眠時間5〜6時間の高齢者のテロメアは短く、睡眠7時間の高齢者は一般的な中年のテロメアと同程度か長いと報告しています」

 睡眠負債を侮ってはいけません。徹夜続きで睡眠時間が短いことを自慢している人がいますが、それは危険なことかもしれません。睡眠に問題を抱えているなら、睡眠不足、睡眠負債、睡眠障害のどれに当てはまるか理解し、「睡眠改善」の方法を実践しなければいけません。