店舗や会社を経営する人の中には、知人や友人に仕事を手伝ってもらう人もいるのではないでしょうか。その人の人柄や生活環境を知っていることから、新たに人を採用するよりも働かせやすいのかもしれません。ところで、知人や友人を自分の店や会社で働かせる場合、契約を結ばなければならないのでしょうか。また、雇用した際に発生する税金や社会保険などの手続きはどのように処理するのでしょうか。

 雇用時の注意点などについて、社会保険労務士の木村政美さんに聞きました。

雇用契約は口頭でも成立する

Q.「雇用契約」「労働契約」という言葉がありますが、概念上違いはあるのでしょうか。

木村さん「『雇用契約』とは、民法上の概念で、労働者が使用者(企業)に労働力を提供することを約束し、もう一方がそれに対して報酬を与えるという契約です(民法623条)。『労働契約』とは、労働契約法の概念で、労働者が使用者(企業)に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことを内容とする契約のことを指します(労働契約法6条)。

2つの意味を比べた場合、雇用契約は労働者と使用者が対等の立場に立つことを前提としているのに対し、労働契約は労働者が使用者に対して従属的な地位に立つことを前提にしており、労働者と使用者の立場の捉え方に違いがあります。しかし、使用者と労働者の関係において基本的な意味の違いがあるわけではないので、一般的には『使用従属関係が成り立っている雇用契約』と、ひとくくりで認識されていることが多いといえるでしょう」

Q.自分の店や会社で知人や友人を働かせる場合、雇用契約や労働契約を結ばなければならないのでしょうか。また、雇用時に「雇用契約書」を交付しない企業もありますが、法的責任を問われないのですか。

木村さん「知人、友人、親戚などに自分の店や会社で従業員として働いてもらう場合でも、労働者であることに変わりはないので、雇用時に雇用契約を結ぶことになります。雇用契約の内容は、契約期間、就業場所、労働時間、業務内容、給料など、労働者が企業で働くにあたって必要な取り決め事項であり、一般的には書面で『雇用契約書』を2通作成し、使用者と労働者の双方が署名済みのものを1通ずつ所持します。

なお、雇用契約は口頭でも成立するため、極端な話、『明日から時給1000円でうちの店に来てくれないか?』『いいよ』でも構いません(民法623条)。従って、雇用契約書を作成しなくても、そのことによる罰則はありません。

一方、雇用契約書に似た書面で『労働条件通知書』というものがあります。これは労働基準法で『労働者を雇い入れた場合は労働条件について労働者に明示をする義務があり、必ず書面(メールでも可能な場合あり)で作成しなければならない』と定められています。労働条件通知書を交付しない場合は法律違反となり、30万円以下の罰金が科される可能性があるので、『労働者を雇用する場合、口頭だけで済ませることはできない』ことになります(労働基準法120条1項)。

また、明示された内容と採用後の労働条件が違う場合、労働者は即時に労働契約を解除することができます(同15条2項)」

Q.雇用契約書と労働条件通知書は何が違うのでしょうか。

木村さん「記載内容はほぼ同じですが、労働条件通知書は使用者から労働者への一方的な交付書であるのに対し、雇用契約書は使用者と労働者の相互の取り交わしであることに違いがあります。そのため、『労働条件通知書兼雇用契約書』として作成することも可能で、実際、多くの企業で導入されています。

雇用契約書の作成は義務ではありませんが、労働条件が原因のトラブルを回避するためにも文面に残しておくことが重要です。また、労働条件通知書を交付しない企業が見受けられますので、その場合は労働者から請求し、労働条件の内容を確認するようにしましょう」

Q.1日〜1週間程度の短期間働いてもらう場合でも、労働条件通知書を交付しなければならないのでしょうか。

木村さん「先述したように、労働基準法では、使用者が労働者を雇い入れた場合に労働条件通知書の交付義務があり、交付するにあたっての契約期間に関する決まりはありません。従って1日のみのアルバイト勤務の場合でも、その期間は企業に雇用されている身分になるため、労働条件通知書の交付が必要になります」

Q.雇用主は人を雇った際、社会保険や雇用保険に必ず加入しなければならないのでしょうか。また、税金はどのように処理するのですか。

木村さん「社会保険や雇用保険は、雇用契約書や労働条件通知書の交付有無に関わらず、従業員として勤務している実態があり、労働時間など一定の条件に該当した場合は加入しなければなりません。税金(所得税、住民税)の処理に関しては原則として、企業が従業員の代わりに源泉徴収を行い、税務署や市区町村に収めることになります」

Q.知人や友人を働かせる場合の注意点はありますか。

木村さん「知人や友人を自分で雇用する場合、お互いの気安さもあり、口頭のみで雇用契約を取り交わしてしまうケースがよく見受けられます。しかし、たとえ親しい仲であっても、お互いの労働条件などに対する認識相違が原因で、後日、『聞いてなかった』『知らなかった』『そんなつもりじゃなかった』などのトラブルに発展しないとも限りません。

いったん関係がこじれてしまうと、その後、長年にわたり争いが続くことでつらい思いをすることもあります。お互いが気持ちよく仕事をしていくためにも、採用時に雇用契約書、および労働条件通知書の交付を行い、双方で納得の上、雇用契約を取り交わすことが大切です」