世界で今、人々の生活や経済に最も影響を及ぼしている病気といえば、新型コロナウイルス感染症ですが、世界で最も患者が多い病気は何でしょうか。歯科医師の宮本日出(ひずる)さんによると、「歯周病」だそうです。しかも、「18〜20歳の時期にキスした相手で、歯周病の重さは決まる」というのです。どういうことでしょうか。

 近著「えっ!? まだ始めていないんですか? お口からの感染予防」(ギャラクシーブックス)で歯周病の問題などを取り上げている宮本さんに聞きました。

歯周病菌は18〜20歳ですみ着く

Q.歯周病が「世界で最も患者が多い病気」というのは事実でしょうか。

宮本さん「事実です。歯周病は日本はもちろん、世界でも最も患者が多い病気です。ギネスブック(ギネス世界記録)は2001年、『全世界で最も患者が多い病気』として歯周病を認定しました。『地球上を見渡しても、この病気に冒されていない人は数えるほどしかいない』とギネスブックには記してあり、約20年たった現在も、世界一であることは変わりません」

Q.歯周病になる原因や症状を教えてください。

宮本さん「歯周病は、歯周病菌に感染することによって起きる感染症です。歯周病菌は歯と歯茎の境目の、歯茎の内側から入り込み、炎症を起こします。炎症が起きると、歯茎は歯から離れてしまい、腫れていきます。歯茎の内側の表面は荒れて、すぐ出血するようになります。

例えば、歯磨きの際に出血する原因はこれですね。出血は歯周病菌の栄養となり、さらに症状が悪化する要因となります。歯周病菌が入った歯茎からは、化膿(かのう)により膿(うみ)が出て、骨を溶かし、歯を支える組織が弱くなり、歯がグラグラ動くようになります。そして最後には、歯が抜け落ちてしまいます」

Q.歯周病菌は1種類だけなのでしょうか。

宮本さん「いいえ。20種類以上あります。歯周病菌で最も悪い影響を与えるものを『ポロフィロモナス・ジンジバリス(P.g菌)』といいます。ほかにもさまざまな歯周病菌があります。さらに、最も悪いP.g菌も6種類に分類され、P.g菌で悪性度の低いものを『1』とすると、最も悪性度の高いものは『44』倍以上の悪性度があるのです。口の内部では、歯周病菌の中で最も悪性度の高い菌が歯周病をコントロールします。言うなれば、最も悪性度が高い菌が『歯周病菌群の王様』になるのです」

Q.「18〜20歳の時期にキスした相手で、歯周病の重さが決まる」とは、どういう意味でしょうか。歯周病の感染の仕組みと合わせて教えてください。

宮本さん「歯周病菌は唾液で感染(経口感染)します。つまり、他者の唾液に含まれている歯周病菌によって、自分にうつります。ジュースの回し飲みをしたり、鍋料理や大皿料理をじか箸で食べたりしていると、歯周病菌に感染します。会話でも、唾(つば)が飛んで人に届くと、歯周病菌に感染します。特に、キスは直接、唾液同士が触れるので、感染のリスクがとても高いのです。言ってみれば、キスは『お互いの歯周病菌の移動・交換を行う作業』をしているようなものです。

この歯周病菌が、口の中に定着するのが18〜20歳です。口に定着する菌『口腔(こうくう)内常在菌』は細菌の種類により、すみ着く順番が決まっています。歯周病菌は最後にすみ着きます。それが18〜20歳の時期なのです。

そのため、18〜20歳の時期に多くの人とキスをすると、多くの種類の歯周病菌の移動・交換をすることになります。その中に重度の歯周病菌があれば、そのまま口の中に定着する可能性があります。つまり、この時期に多くの人とキスをするほど、重度の歯周病にかかりやすくなるのです。そして、一度定着した歯周病菌は変化せず、一生、口の中に居続けます」

Q.では、18〜20歳の時期にキスをしなかったら、歯周病にならないのでしょうか。

宮本さん「いいえ、なります。キスをしなかったらリスクは低くなりますが、先ほど述べたように、会話や飲食の際にも感染するので、いずれかの機会に感染はします。

繰り返しになりますが、歯周病は感染症です。感染症といえば、最近では新型コロナウイルス感染症が世界中に広がっていますが、それは世界中の人の接触関係が『密』であることを表しています。接触関係を表す話ではありませんが、自分と相手の間に『6人』の人を介すると、世界の至る所まで関係ができるともいわれています。この世界的に密な関係が、感染症が世界中に広がる原因の一つです。

感染力に違いはありますが、新型コロナウイルスの広がり方から推測すると、同じ感染症であり、歴史の長い歯周病はもっと幅広く、原因菌が世界中に広がっていると考えられ、その菌に感染していない人はほとんどいないといえるでしょう。そして、多くの人は45歳ごろから歯周病の症状が出てきます」

セルフケアとメンテナンス継続を

Q.18〜20歳の時期に歯周病菌がすみ着くのに、症状が出るのが45歳ごろなのは、なぜですか。

宮本さん「若い人は免疫力が強く、歯周病菌の病原性もまだそれほど高くないので、症状が出てこないのです。

歯周病は『バイオフィルム感染症』です。バイオフィルムとは『菌膜』のことで、菌が形成する膜の下で、さまざまな悪性度を持った菌が共存しています。例えば、台所のぬめりもバイオフィルムの一種です。口の中は温かく、栄養も豊富で、唾の湿気もあり、バイオフィルムができるのにとても適した環境です。この膜は皮膚や粘膜のような新陳代謝もしないので、歯周病菌はいつまでも生き続けます。

バイオフィルムの中にすみ着いた歯周病菌は本当に悪い菌ですが、そのままでは病原性は高くありません。つまり、歯周病菌が暴れて歯周病を進行させることはありません。それが、バイオフィルムの表面に新たに付いた歯周病菌などを栄養素にして、次第に病原性が高まっていき、一方で加齢によって免疫力が弱まることで、45歳ごろに発症するという仕組みです。

『45歳ごろに発症する人が多い』と言いましたが、40歳を超えると、歯周病リスクは40歳未満と比べ2.2倍になるといわれています」

Q.では、歯周病で歯を失わないためにはどうすればいいのでしょうか。

宮本さん「普段のセルフケアと、歯科医院に通っての口腔ケア(メンテナンス)を両方継続してください。

先述したバイオフィルムは通常の歯ブラシでは取れませんので、歯科医院でバイオフィルムを剥ぎ取り、歯から本当に悪い歯周病菌を取り除きます。しかし、歯周病菌は「口腔内常在菌」なのでいつも口の中にいますから、剥ぎ取っても、3日くらいすると新しいバイオフィルムを作ってしまうのです(新しいバイオフィルムの中で歯周病菌は成熟し病原性を高めるので、定期的にバイオフィルムを剥ぎ取る必要があります)。

一方、バイオフィルムの中の歯周病菌をおとなしくさせるために、セルフケアが大切です。歯の表面を歯ブラシで清掃し、歯ブラシが届かないところは歯間ブラシやフロスで汚れを除去してください。それによって、バイオフィルムの表面に付いている歯周病菌を取り除きます。バイオフィルムの表面についている歯周病菌が本当に悪い歯周病菌の病原性を高め、病原性が高まった歯周病菌が歯周病を進行させるからです。

セルフケアについては『虫歯は食後のケア』『歯周病は寝る前のケア』がポイントです。歯周病対策の歯ブラシは、毛先が軟らかめのものを選んでください。歯周病は歯と歯の間の歯茎からやってきます。ですから、歯ブラシの毛先をいかに上手に歯と歯の間に入れるかが重要なポイントです。歯ブラシは歯に対して直角ではなく、少し立てるようにすると、毛先が入りやすくなります。歯ブラシは、少なくとも1カ月をめどに交換してください。歯磨き剤は、歯周病専用のものがおすすめです。

歯と歯の間や歯茎は、歯間ブラシとフロスで細かくきれいにしてください。『リステリン』などの洗口液も使用した方がよいです。舌の表面も細菌がすみ着きやすいので、舌ブラシなどで表面を清掃すると、口臭対策にも有効です。口の中の環境をきれいに整えることは、全身の健康にも大きな影響を与えますし、細菌やウイルスの感染症対策としても有効です。ほぼすべての人がリスクを持っている『歯周病』から歯を守るためにも、口腔ケアを継続してください」