女性アスリートが性的な意図で写真を撮影され、ネット上に拡散される事態が問題化し、日本オリンピック委員会(JOC)が対策に乗り出すことが報道されました。新体操や水泳だけでなく陸上選手が狙われることも多いとのことですが、法的にはどのような問題があるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

肖像権侵害や名誉毀損の可能性

Q.スポーツの大会で写真や動画を撮影する行為が法的問題に発展する可能性はあるのでしょうか。大会の公式記録としての撮影や報道目的の撮影を除きます。

佐藤さん「スポーツの大会に限らず、一般に、本人の許可なく顔や体などを撮影すると『肖像権』の侵害になる可能性があります。肖像権とは『承諾なしに、みだりに自己の容貌などを撮影されない自由』、そして、『自己の容貌を撮影された写真や動画を公表されない自由』です。裁判上、違法な侵害に当たるか否かは、撮影された人の社会的地位、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性などを総合的に考慮して、『社会生活上受忍すべき限度を超えるか否か』で判断されます。

スポーツの大会は多くの人に見られることを前提にしているので、撮影について『黙示の承諾』があると捉えられ、侵害に当たらないとされる可能性もあるでしょう。しかし、わいせつな目的を持って人物の特定ができる形で撮影すれば、『受忍限度を超えるもの』として違法性が認められる可能性もあります」

Q.スポーツの大会で撮影した写真や動画を無断でネット上にアップした場合の法的問題を教えてください。

佐藤さん「本人の許可なく写真や動画を公開すれば、先述した肖像権の侵害に当たる可能性があります。誰もが閲覧できる拡散性の高いSNSにアップするとより、肖像権侵害が認められやすくなります。そのほか、例えば、選手の写真や動画を性的な言葉と共に拡散すれば、刑法230条の名誉毀損(きそん)罪や同231条の侮辱罪などに問われる可能性もあるでしょう」

Q.では、同様のケースで撮影された側が18歳未満である場合、児童買春・ポルノ禁止法に触れる可能性はありますか。

佐藤さん「児童買春・ポルノ禁止法に触れる可能性は恐らくないでしょう。同法における『児童ポルノ』とは『衣服の全部または一部を着けない児童(18歳未満の者)の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出されまたは強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させまたは刺激するもの』(2条3項3号)です。

スポーツの大会において、アスリートはユニホームなどの衣服を身に着けているため、児童ポルノには当たらないものと考えられます。また、水泳競技の水着姿の写真も写真によっては児童ポルノに当たる可能性は否定できませんが、18歳未満のアイドルの写真が一般に児童ポルノとして取り締まられていない現状を踏まえると、アスリートの水着姿の写真が児童ポルノに当たると判断される事例は極めてまれでしょう」

Q.水着やレオタード、薄着の胸の部分などを強調した写真を撮影されたアスリートが、撮影行為自体に慰謝料などを求めることはできるのでしょうか。

佐藤さん「先述した通り、無断での撮影行為自体が肖像権の侵害に当たる可能性があるので、慰謝料を請求することはできます。ただし、無断撮影した写真を誰にも公開していないとすると、仮に肖像権侵害と認められたとしても慰謝料額はかなり少額にとどまるでしょう」

Q.では、水着やレオタード、薄着の胸の部分などを強調して撮影された写真をネット上に投稿された場合、被害者のアスリートは慰謝料などを求めることはできるのでしょうか。

佐藤さん「慰謝料請求は可能です。撮影のみのケースに比べ、拡散性の高いネット上に投稿された場合、アスリートが被る精神的ショックはより大きくなるでしょうから、慰謝料が認められる可能性も高くなると考えられます」

Q.許可を得た者以外の撮影を禁じている大会で無許可撮影者に対し、「録画物を没収する」とルールを定めている場合があります。この没収は法律上、どのような根拠で可能になるのでしょうか。

佐藤さん「ここで言う『没収』は特定の法律に基づく刑罰などの意味ではなく、『ルールを破った場合には、強制的に提出してもらいます』という要請の意味ではないでしょうか。私たちは公の秩序などに反しない限り、自由にルールを作ったり、約束したりすることができます。そうした自由な約束、ないし要請の一つとして定められたものと思います」

Q.スポーツの性的意図の撮影によって法的問題になった実例はあるのでしょうか。

佐藤さん「アスリートが性的意図で撮影されたことが裁判で争われたケースは現状ではほぼないと思われます。今まで、性的意図による撮影などに対して、アスリート側も声を上げにくい状況があったのでしょう。個人のSNSだけでなく、一部のメディアまでもがアスリートを性的に取り上げ、社会全体がこうした取り上げ方を受容していた面があります。

アスリートの人権を守るため、相談窓口を設け、窓口の存在を周知させることが大切です。そして、社会が問題意識を共有することで被害を減らしていくことができるのではないでしょうか」