公職選挙法違反(買収など)の罪で起訴され、東京地裁で公判中の河井克行被告(元法相、衆院議員)=自民党を離党=と妻の案里被告(参院議員)=同=は買収を認める証言が公判で相次ぐ中でも、否認を続けています。また、「池袋暴走死傷事故」の飯塚幸三被告も自身に不利な証拠があるにもかかわらず、「無罪」との主張を続けているようです。

 裁判でうそをつく行為については「偽証罪」という罪があるはずですが、もし、彼らの起訴事実を裁判所が認めた場合、河井夫妻や飯塚被告が偽証罪に問われる可能性はあるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

偽証罪の対象は第三者の「証人」

Q.そもそも、偽証罪とはどういう罪でしょうか。

佐藤さん「偽証罪とは『法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたとき』に成立する罪で、法定刑は『3月以上10年以下の懲役』です(刑法169条)。『証人』とは裁判所などから、自分の知っている事実を供述するよう命じられた第三者のことで、裁判の当事者である被告などは含まれません。

『証人』には、民事裁判の場合は民事訴訟法201条1項で、刑事裁判の場合は刑事訴訟法154条で、原則として宣誓させることが定められています。宣誓は尋問の前に起立して、宣誓書を朗読させ、かつ、署名押印させるという方法によってなされます。宣誓書には『良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、また、何事も付け加えないことを誓う』旨、記載することとなっています(民事訴訟規則112条、刑事訴訟規則118条)。

先述した刑法169条にある『虚偽の陳述』とは、意図的にうそをつくことです。本人が真実だと思い込んで供述したことが結果的に客観的事実と食い違う証言だったとしても、偽証罪には問われません」

Q.「被告などは含まれない」ということは、刑事裁判の被告が裁判でうその供述をしても偽証罪は適用されないということでしょうか。

佐藤さん「先述したように、偽証罪に問えるのは『証人』であり、刑事裁判の当事者である被告には適用されません。偽証罪は裁判などの『国家の審判作用』の適正さを確保するために定められた罪です。第三者である証人は自らの記憶に従って、公平な証言をすることが期待されていますので、証人が裁判の場でうそをつけば、裁判の適正さが根本から揺らぎます。

一方、刑事裁判の被告は刑罰を科されるかもしれない立場にあり、裁判で自分に有利なことを言う可能性が高く、裁判官は『うそをつくこともあるだろう』と考えながら話を聞きます。そのため、被告がうそをついたとしても、それによって、裁判の適正さは大きく害されないと考えられています。こうした事情もあり、被告には偽証罪を適用しないルールになっています。

なお、被告であっても、証人となる人に『うその証言をしてほしい』と頼めば、偽証をそそのかしたとして、『偽証教唆罪』に問われることはあります」

Q.被告が明らかなうそをつき通すと、裁判が長引くことも想定されます。被告のうそについて罪に問われないとしても、判決で不利になることはないのでしょうか。

佐藤さん「客観的な証拠と明らかに矛盾するようなうそをつき通すと『被告は全く反省していない』と裁判所が判断する可能性があり、それによって刑が重くなることがあります」

Q.民事裁判の場合はどうでしょうか。原告、被告がうそをついた場合、偽証罪に問われることはあるのでしょうか。

佐藤さん「先述した通り、民事裁判であっても、原告、被告は裁判の当事者であり、『証人』ではないため、うそをついたとしても偽証罪に問われることはありません。

ただし、民事裁判の場合、『宣誓した当事者が虚偽の陳述をしたときは、裁判所は決定で10万円以下の過料に処する』ことができる旨、定められています(民事訴訟法209条)。民事裁判の場合、当事者であっても宣誓をさせることができ(民事訴訟法207条)、真実を述べることを約束した当事者に対してはペナルティーを与えられる仕組みになっているのです。

なお、虚偽の陳述をした当事者が裁判の最中に『陳述が虚偽であること』を認めた場合は、裁判所は事情により、過料の決定を取り消すことができます(民事訴訟法209条3項)。なお、『過料』とは『秩序罰』と言われるもので『刑罰』とは異なります」

Q.民事裁判ではペナルティーがあるのに、なぜ、刑事裁判ではペナルティーがないのでしょうか。

佐藤さん「民事裁判と刑事裁判はそれぞれ別の制度なので、民事裁判で過料の規定があるからといって、刑事裁判でも同じような制度が必要ということにはなりません。

刑事裁判の被告は刑罰を科されるかもしれない立場にあり、黙秘権を持っています(憲法38条1項、刑事訴訟法311条1項)。黙秘権を超えて、裁判で積極的にうそをつく権利が認められているわけではありませんが、先述した通り、刑罰を科されるかもしれない立場にある被告は裁判でうそをつきやすいものであると考えられています。そのため、自分の刑事事件で不利に扱われ得ることとは別に、刑罰とは異なる軽いペナルティーを科す必要性が見いだせないことが背景にあるのではないでしょうか」