アニメ映画「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」が話題となる中、「キメハラ」という言葉が生まれています。「『鬼滅の刃』ハラスメント」を略した言葉で、映画を見ていない人に(1)「まだ見てないの? 見ようよ」と自分の考えを押し付ける(2)「鬼滅がダメな人っているんだ」と相手の好みを否定する(3)「鬼滅がつまらない、興味ない」と言えない雰囲気をつくる――ことなどを指します。

 職場などで、キメハラを受けた人もいるようで、ネット上では「知らない人や興味がない人はつらい」「ブームが終わってほしい」などの意見が上がっています。なぜ、キメハラは起きるのでしょうか。また、もし、子どもがキメハラに遭った場合、どう対処すればいいのでしょうか。インターネット問題に詳しい、ジャーナリストの石川結貴さんに聞きました。

押し付けの背景に「善意」

Q.そもそも、キメハラのように自分の価値観を強要したり、相手を否定したりする人がいるのはなぜでしょうか。

石川さん「意外かもしれませんが、自分の価値観を他人に押しつける背景に『善意』があることが少なくありません。『自分が感動したり、喜べたりしたことを他の誰かにも体験してほしい。そうすれば、その人も自分と同じように幸せになれるはずだ』と考えます。つまり、他人から見れば『押し付け』でも、当人にとっては『よかれと思って、やっている行為』なのです。

仮に、相手が自分の意見や考えに同調してくれたとしましょう。すると、自分の善意が他者によって肯定されることになり、確かな自己満足を得ます。相手から、『あなたの言ったとおりにしてよかった』などと感謝されれば、なおのこと満足度が高まります。こうして、自分に同調してくれる人が増えれば増えるほど『善意の正しさ』が証明され、自己満足や自己肯定を得られるため、かえって自分の『押し付け』を疑えなくなるのです。

反対に、相手が同調してくれないと、せっかくの善意が無駄になるだけでなく、満足感も得られません。『あなたのためを思ってしたこと(言ったこと)』が通じなければ、落胆や失望を感じ、自分との共通点を失うような気持ちになります。『こんなに感動することをやらないなんておかしい』『自分がすすめたことに従わないなんて許せない』という怒りが生じてくることもあるでしょう。善意で行動した自分はあくまでも『正しい』ので『それを受け入れない相手が悪い』と考えるようになります。

相手を否定したり、責めたりすることで自分の正当性を強化したり、『○○をやらない人はダメな人』と見下して、自分のプライドを保ったりしがちです」

Q.キメハラのようなケースが表面化したのはやはり、ネットやスマホが普及した影響もあるのでしょうか。

石川さん「キメハラのような行為は新しい現象ではありません。もともと、日本社会は『ムラ意識』が強く、『よそ者を排除する』『ムラのおきてに従う』という空気感が強いからです。近年でも『一億総活躍』という政治スローガンがありました。個々の事情を考慮することなく、『みんなで頑張ることが当然』などと一方的に決め付けるのは、会社や地域の集団でも見られます。そのため、一致団結するという社会風土は根強く、それに従わない人や異を唱える人は『おかしい』と批判されがちでした。

こうした社会的な価値観がネットやスマホの普及とともに拡大している可能性はあるでしょう。SNSなど自分の意見を言いやすい環境が充実し、さらに、同じような考えを持つ人同士がつながりやすくなったことで、より過激な『ムラ意識』がつくられているともいえます。

特に、SNSでは『エコーチェンバー現象』という問題が指摘されています。本来、エコーチェンバーとは、閉ざされた室内で発した声が『こだま』のように重なって聞こえる音響効果のことですが、SNSでは、自分に同調する人と閉鎖的な交流を繰り返すうちに、その考えだけが『正しい』と思い込むことを意味します。

例えば、災害が起きたとき、SNSではデマ情報が拡散しがちです。客観的には怪しくても、デマを肯定する意見ばかりに接するといかにも真実だと思えてきます。否定や反論を『隠ぺい工作』と捉え、『本当のことが隠されているのだから、やはり、自分たちの方が正しい』と思考が強化されるのです。

信頼性を疑わず、『うわさ話』の閲覧や検索を続けることも多いでしょう。すると、『あなたにオススメ』のように個人の指向に合わせた情報が集まりやすくなります。その結果、ますます主観に偏ったり、同調意識をあおったりするような行為につながりやすいのです」

キメハラから見えてくるものは?

Q.もし、子どもが学校などでキメハラのようなケースに遭遇した場合、どのように対処すればいいのでしょうか。

石川さん「子ども社会は大人以上に同調意識が強く、ささいなことがきっかけで、仲間外れやいじめが起きる傾向があります。そのため、キメハラのように特定の子どもが排除されたり、周囲から否定的に見られたりすることはあり得るでしょう。

一方で、『ささいなこと』という点を意識することが大切です。例えば、お子さんがキメハラで仲間外れになったとします。仮にその理由が『みんなが見ているアニメを知らない』『仲間の話題についてこない』というものなら、『たかがその程度』です。たかがその程度の理由で誰かをいじめたり、仲間外れにしたりするような同級生なら、そもそも、友達でいる必要があるでしょうか。いじめられる自分が悪いなどと決して考えず、相手の小ささを冷静に見て、相手にしないことが大切です。

また、『十人十色』という言葉があるように一見、みんなが同じように思えても、実は性格や考え方、生活状況はそれぞれ違うのです。『仲間外れにするような心ない子がいる一方で、どこかに自分を理解してくれる友達も必ずいる』といったアドバイスを子どもにしてもいいのではないでしょうか」

Q.では、子どもにキメハラのような行為をさせないために親ができることはありますか。

石川さん「『一つはすべてではない』という思考を育てるようにしましょう。要は柔軟で多面的な視点を持つように子どもに教えるのです。

例えば、お子さんに『あなたの性格は?』と聞いてみます。仮に『明るい』と返ってきたら、『本当にそれだけ?』と問いかけてみます。すると、『ときどき落ち込む』『実は結構暗いかも?』といった別の答えが出てきます。自分自身が『一つ』で言い表せるものではないのですから、他人や社会も同様に『一つ』で言い表すことはできません。『あなたの性格が一つの言葉で言い表せないように、他の人にもさまざまな面や考え方がある』と教えてほしいと思います」

Q.今回のキメハラ騒動から見えてくる社会的な問題点はありますか。

石川さん「キメハラは数年前からSNSで見られる『不謹慎狩り』に通じるものがあるように思います。不謹慎狩りとは、大きな社会問題などが起きたときに『謹慎』『自粛』をしない人を糾弾することです。例えば、地方で地震があり、被災者が大変な苦労をしているとします。そんな状況下で、別の地域に住む人が『外食して楽しかった』『旅行に行って、はじけてきました』などと個人の充実ぶりを投稿すると、『不謹慎だ』と攻撃され、投稿者のSNSが炎上するなどします。

コロナ禍の今、長期の自粛や制限が課せられ、多くの人に生活や将来不安が高まっています。出口の見えないトンネルのような毎日で、キメハラの元となったアニメ映画『鬼滅の刃』の大ヒットは明るいニュースともいえるでしょう。その明るい現象に乗ってこない、ブームを受け入れようとしない人が逆パターンの不謹慎狩りで攻撃されているのかもしれません。

特に、職場や夫婦間、友人間など身近な関係性ではより同調意識が求められるため、『自分に従わない人』『共通性を持てない人』を責める可能性があります。コロナ禍だからこそ、『せっかく見つけた感動や喜びをなぜ理解しないのか』とより怒りが増してしまうことも考えられます。いずれにせよ、キメハラのような行為をなくすためには、高まる社会不安に何らかの改善のめどが立つことや、私たち一人一人が心の余裕、柔軟性を持つことが必要だと思います」