ここ数年、中国の「90后」(ジウリンホー=1990年代生まれ)、「00后」(リンリンホー=2000年代生まれ)と呼ばれる若者の間で「漢服(ハンフー)」ブームが巻き起こっています。漢服とは漢民族の伝統的な衣装のことで「漢装(ハンジュワン)」ともいいます。しかし、日本人の中には「中国の伝統的な衣装? チャイナドレスとは違うの?」と思う人もいるでしょう。漢服とチャイナドレスの違いは何なのでしょうか。なぜ、今、漢服がブームとなっているのでしょうか。

経済大国化、自国文化への誇りが高まる

 日本の中華料理店や中国関係のイベントなどで、よく見かけるチャイナドレス。赤やピンクの派手な色使いで、詰め襟、裾に深い切れ込みが入ったボディーコンシャスなワンピーススタイルの服装のことをいいます。日本では、このチャイナドレスを「中国の伝統的な衣装」だと勘違いしている人が多いかもしれませんが実は異なります。

 チャイナドレスは中国語では「旗袍(チーパオ)」といい、現在、私たちがよく見かけるものは、中国最後の王朝である清朝を支配した満州族の民族服に西洋的な要素を融合した衣装のことなのです。清朝滅亡後も中国国内や海外の華僑の女性が着ていましたが、中国人の民族衣装という位置づけではありませんでした。

 中国の人口の90%以上を占めるのは漢民族です。その漢民族の衣装である漢服は満州族に支配される以前、唐や宋、明などの時代に彼らが着ていたものです。それが清朝になって以降、長い間廃れていたのですが、2000年代になって「漢服復興運動」が起こりました。これは漢民族の伝統的な衣装を公共の場で着用し、再び世の中に広めていこうという文化運動でした。しかし、そのときにはあまり普及しませんでした。

 ところが、ここ数年、若者の間で急速に漢服がブームとなってきたのです。明確なきっかけは分かりませんが、理由の一つは「国潮(グオチャオ)」があると思います。国潮とは、中国的なテイストを取り入れた商品のトレンドのこと。中国的模様やドラゴンのモチーフなど、チャイナテイストのファッションや文化が若者の間で「カッコいい」と評判となり、そうした流れの中で「昔、私たちの先祖が着ていた漢服を着てみたい」という若者が増えていったのです。

 背景には、経済的に台頭した自国の文化に対する関心や自分たちの文化をもっと誇りたいという気持ち、そして、SNSの存在、時代劇ドラマの影響などがあると思います。同じ東アジアの日本には和服がありますし、韓国にもチマ・チョゴリなど韓服がありますが、先述したような背景により、漢服はそういう存在ではありませんでした。

 しかし、だんだんと「自分たちの伝統的な衣装を着て歩きたい」という需要が高まっていくにつれて、専門店や土産物店などで漢服を扱うようになり、若者たちが漢服を着て街を歩いたり、写真館で写真を撮ってSNSに投稿したりするようになったのです。これが「SNS映えする」と話題になり、コスプレ感覚で身に着ける人が増えていきました。

 現在、若者たちが着用している漢服は唐や宋、明時代のそれぞれの漢服を現代的にアレンジした衣装で、伝統的な漢服とは少し違うようです。しかし、中国中央電視台(CCTV)の経済チャンネルの調査によると、市場規模はすでに約10億元(約約160億円)を超えているといわれます。

 観光地の土産店などでは、1着500元(約8000円)くらいの安い漢服が売られていますが、専門店の高級品になると1着1万元(約16万円)くらいします。色はどちらかというと淡いパステル調が多く、デザインは袖口や裾が広がっていて、チャイナドレスとは対照的にゆったりとしているのが特徴です。

 週末に北京や上海の街中を歩いていると、漢服を着て、そぞろ歩いている若者のグループを時々見かけます。撮影会やイベントに行くために着ているようで、「コスプレ」の域を出ていないですが、若者たちが自国の文化に自信や関心を持つようになってきたことはここ数年の中国の大きな変化だと思います。