ウグイスが「ホーホケキョ」と鳴くのを聞いて、春の訪れを感じ、セミの鳴き声で「夏が来た」と思い、赤トンボ(アキアカネ)が舞う姿に秋を思う――。生き物の鳴き声や姿は四季の移り変わりを感じさせてくれるものですが、気象庁は長年、「ウグイスの初鳴き」「アキアカネの初見」「トカゲの初見」といったものを「動物季節観測」として、桜や梅などの植物の観測とともに気象観測にも役立ててきたそうです。

 現在、23種の動物(鳥、昆虫など)と34種の植物を「生物季節観測」(動物と植物の総称)として、全国の気象台と測候所計58地点で観測していますが、それを、2020年末をもって大幅に縮小し、特に動物については全廃、2021年1月からは桜や梅など植物6種のみ観測を続けると11月10日に発表しました。

 そもそも、なぜ、動植物の観測をしてきたのでしょうか。そして、なぜ今、大幅に縮小するのでしょうか。気象庁観測整備計画課統計技術管理官の村井博一さんに聞きました。

生息数減少で季節の変化が見えにくく

Q.生物季節観測の目的と、どのように活用されているのかを教えてください。

村井さん「目的の一つは1年の中の季節の変化、平年より遅れている、あるいは進んでいるといったことを把握するためです。また、各気象台・測候所の場所によって、気候はもちろん違いますので、その違いを見極めようということもあります。さらに、長期的な気候の変化を見ていくこと、例えば、地球温暖化による気候の変化などを捉えようという目的もあります。

活用方法ですが、例えば、過去30年間の観測値を平均して、気温や降水量と同様に平年値を求めて、桜の開花のように同じ日の線を引くと開花前線のような形ができます。4月1日はこの辺りまでなどと分布図を作ることができ、それを皆さんにお知らせすることができます。

ほかには、例えば、桜の開花日を過去にさかのぼって調べると、年を追うごとにだんだん早くなっていることが分かります。温暖化の影響があるのだろうなどと気候の解析ができます。さらに、報道機関では天気予報のコーナーで『桜が咲きました』『ウグイスの初鳴きが観測されました』といった季節の便りに使われることもあります。また、研究者の間では、気候が生物に与える影響を調べたり、桜がいつ咲いたかの情報をもとに江戸時代の気温を調べたりといった研究に使われることもあります」

Q.植物は、例えば、東京の桜だったら靖国神社のソメイヨシノといったように標本木が決まっていますが、動物の場合も観測の範囲が決まっているのでしょうか。

村井さん「動物は気象台・測候所からおおむね半径5キロ以内、標高がプラスマイナス50メートル以内という範囲内で観測することになっています。気温や湿度を観測している気象台からあまりにも離れると、同じ気候といえなくなるからです」

Q.観測対象の動物は23種類、植物は34種類ありますが、どうやって決めたのでしょうか。

村井さん「1952年以前は各地の気象台・測候所で、それぞれの方法でばらばらに観測していましたが、1953年に観測方法を統一しました。そのとき、生物季節観測の目的に沿う種目を、それまで各地で観測してきた中から選びました。全国的に広く分布しているものを対象に観測するものと、その土地土地で独自の動植物を選んで観測するものとがありますが、観測方法は統一しています」

Q.動物はどのような場所で観測しているのでしょうか。ホタルは川辺など生息域が限られていると思いますし、トカゲは探すこと自体が難しそうです。

村井さん「例年、その動物を見つけている場所がありますので、基本的にはその場所を見に行きます。気象台の敷地の中にある場所もありますが、近くの公園へ観測にいくこともあります。例年通りの場所で見つからないようであれば、ほかの場所を探すこともありますし、何かの用事で通り掛かったときや通勤途中に探すこともあります。半径5キロ以内の場所であれば、市民の皆さんから情報があれば、その情報があった場所へ見に行って確認することもあります。

トカゲは確かに、土がないコンクリートやアスファルトが多い場所で見つけるのは困難です。東京では観測実績がなく、現在は観測対象になっていません。トカゲを観測対象にしているのは現在、全国で7地点だけです。その中で2019年に観測できたのは4地点です。ちなみに、58の全地点で観測対象にしているのは桜だけです」

Q.トカゲのように、ヤモリやイモリなどと見分けがつきにくい動物もいると思います。観測する人は熟練した職員さんなのでしょうか。

村井さん「生物季節観測は各気象台・測候所の職員が観測の一つとして行っており、似たような種目との見分け方はマニュアル化しています。例えば、トカゲはカナヘビと似ていますが、マニュアルでは写真を並べて、模様が違うとか色が違うといった見分け方を書いています」

Q.ホタルやトカゲが見つからない年というのもあるのでしょうか。また、それは増えているのでしょうか。

村井さん「あります。トカゲやトノサマガエルなどは確実に観測数が減って来ています。減っていない動物、例えば、ウグイスなどは観測数自体は減っていないのですが、生息数は恐らく減ってきていると思います。そう考えるのは観測できる日がだんだん遅くなっているからです。半径5キロの範囲にウグイスがたくさんいれば、見つけやすいのですが、減ってきたら、いろいろ探して、どこかのタイミングでは見つけられるものの、以前のように『暖かくなってきたからウグイスが鳴く』というものではなくなっています」

Q.動物観測をすべて取りやめる理由を教えてください。

村井さん「先ほどの話と関連しますが、例えば、ウグイスはトカゲなどと比べると、まだきちんと観測できている方ですが、それでもここ20年くらいは気温との関係性が見えなくなってきています。本来は暖かい年は早く鳴いて、寒い年は遅く鳴くという傾向があるはずなのですが見えなくなってきたのです。

都市化などで、すむ場所が減ってきて、個体数が減っているのが原因だろうと考えていますが、季節の進み具合や遅れ具合などを捉えることについて、動物観測が適切ではなくなってきています。植物も同様の問題があり、動物は取りやめ、植物は大幅に縮小することになりました」

Q.気象庁の人手不足が関係しているのでは?という報道もありました。

村井さん「今回、生物季節観測を見直すにあたって、人員や予算とリンクさせて考えてはいません」

Q.大幅縮小の発表以来、「環境の変化を知るには必要」と惜しむ声や、動物観測の廃止に反対する声もあります。見直す考えはないのでしょうか。

村井さん「観測の目的は本来、生物の現象から、季節の変化を見ようというものです。その目的があるのに季節の変化を見られなくなっているのが大幅縮小の主な理由です。
例えば、動物の生息域、どの範囲にすんでいるのかなどを調べるのが目的の場合は『その動物が見つからない』ということも大事な観測結果になるでしょうが、気象庁の観測はそういう目的ではありません」

Q.観測をやめる動植物の観測方法の指針を公表するということですが、いつごろ公開する予定なのでしょうか。

村井さん「年明けから年度内くらいを考えています。『気象庁ではこうして観測していました』ということを公開しますので、興味のある人は参考にしていただければと思います」