新年が近づいていますが、今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、年末年始を自宅で過ごす人が増える見込みで、百貨店のおせちの予約も好調だそうです。おせち料理を食べる際、使われることが多いのが「祝い箸」。祝い箸は両端が細いのが特徴ですが、片方を取り箸として使ってもよいのでしょうか。おせちを食べる際の作法や、おせちの由来などについて、和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。

片方は神様のためのもの

Q.そもそも、なぜ、正月におせち料理を食べるのでしょうか。

齊木さん「おせちは漢字で『御節』と書くように、元々は『五節句』の料理の一つであり、平安時代に宮中で暦の上で節目となる『節日』に、神様にお供えする料理のことを指しました。

その後、江戸時代後期、庶民がこの宮中行事を生活に取り入れたことにより、全国的にお正月に食べる料理として広まり、日本のお正月料理の代名詞的存在になりました。元旦(1月1日朝)に年神様がお越しになるため、お正月の三が日は神様を水で流さないように、また、節句当日は物音を立てないという意味から、おせち料理は日持ちする料理を作り、煮炊きを慎むという風習の名残が背景にあります。

おせち料理は12月30日には作り始め、大みそかに重箱に詰めた後、正月の飾りつけをした床の間に供えます。年神様を迎えて元旦を祝い、神様に供えたごちそうを家族全員で食べながら、一年の幸福を祈ります。このように、神様と人が一緒に食事をすることを『神人共食(しんじんきょうしょく)』といい、神様に供えた料理を食べることを『直会(なおらい)』といいます。供えた料理には神様の魂が宿るといわれ、これを食べることで神様の恩恵にあずかることができると考えられていました」

Q.おせち料理を盛り付ける際の作法はあるのでしょうか。

齊木さん「おせちは五段、または与段(四段)重ねの重箱に盛り付けるのが本流です。重箱には『福を重ねる』『めでたさが重なる』などの意味があり、おせちを詰めるときは各段の料理の数を、吉数とされる奇数にすると縁起がいいとされています。また、地域や家庭により多少異なりますが、豊作や子孫繁栄、家族の健康や安全など、さまざまな願いを込めた縁起物が詰められています。どのような食材を詰めるかは次の通りです。

一の重:田づくり、黒豆、数の子などの『祝いざかな』を詰めます。
二の重:『口取り』といわれる料理(紅白かまぼこや紅白なますのほか、だて巻き、栗きんとんなどの甘いもの)を詰めます。
三の重:タイ、エビ、ブリ、昆布巻きなど『海の幸の焼き物』を詰めます。
与の重(四は忌み数字なので用いません):サトイモ、お煮しめ、昆布巻きなど『山の幸や海の幸の煮物』を詰めます。
五の重:基本的には、年神様から授かった福を詰める場所として空の状態にします。これを『控えの重』といいます。

しかし、現代では家族のみでおせちを食べることが多いため、二段重ねや三段重ねが多用されています。それでも量が多いと感じる場合は、縁起物の食材を使い3種ほど作って漆の器に盛るだけでも、お正月らしさを演出することができます」

Q.おせち料理を食べる際、「祝い箸」の片方を取り箸として使ってもよいのでしょうか。

齊木さん「おせち料理やお雑煮を食べる際に使う祝い箸は両方の先端が細くなっていて、『両口箸』とも呼ばれます。それは、一方は神様用、もう一方を人が使うためで、『神人共食』を意味しています。両方とも使えるからといって、一方を取り箸として使うのは不作法となります。気を付けましょう。

祝い箸の使い方について、もう少し説明します。先述のように、おせち料理は年神様へお供えしてから食べます。新年を祝い、一年の恩恵を授かる意味から、年神様と食事を共にするわけです。そのため、大みそかに箸袋に名前を書いて神棚に供えるのが習わしで、地域によって期間が違いますが、三が日、または松の内(関東では1月7日まで)の間は使うたびに洗って同じ箸で食べるとされています」

Q.そのほか、おせち料理を食べる際の作法について教えてください。

齊木さん「おせち料理を食べる際には、いくつかの作法があります。まずは目上の人から順番に、一の重から箸をつけていきます。自分の順番が回ってきたら、基本的に『一の重、二の重、三の重、与の重』の順番で食べます。地域や家庭によっては、お重の中央から箸をつけていくのがいいとされています。

一般的に、重箱に入った料理(おせち料理など)や大皿料理を複数の人で分け合って食べるときは、菜箸などの取り箸を使うのが礼儀であり、重箱や大皿から取った料理を直接、自分の口に運ぶ行為(じか箸)は同席者に失礼とされています。おせち料理を食べる際は、取り箸で小皿に取ってから食べましょう」

Q.おせち料理は何日以内に食べるべきなのでしょうか。

齊木さん「おせち料理は元旦から三が日にかけて食べるお祝い膳のため、基本的には、三が日の間に食べ切るようにしましょう。しかし、松の内まで食べ続けるなど、地域や家庭によりしきたりが異なりますので、その地域の風習に従いましょう。先述のように、神様に供えた食べ物には魂が宿るといわれていますので、日持ちがする間に食べてしまうことが望ましいです。

日本の伝統であるおせち料理は具材の種類や意味・食べ方など、さまざまなしきたりが受け継がれていますが、一番大切なのは家族全員が楽しく食卓を囲み、新しく年を迎えられたことに感謝し、喜びを分かち合うことです。こうした時間が新たな年の福を招くのではないでしょうか」