日本では、正月に子どもたちに「お年玉」を渡す風習があります。毎年、楽しみにしている子どもも多いと思いますが、正月に現金を渡す風習ができたきっかけや、なぜ「お年玉」と呼ぶのかなど、その起源はあまり知られていないのではないでしょうか。お年玉の起源について、和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。

正月の「鏡餅」が始まり

Q.「お年玉」はどのようなことがきっかけで始まった風習でしょうか。

齊木さん「日本には、新年に年神様を迎え、祭ることで、その年の豊作や家族の幸せを祈る信仰があります。正月に家にやってきた年神様はお供えをしてくれたお返しとして、その家の人たちに『新しい魂』を与えるとされており、この新しい魂のおかげで、人々はまた1年間、健康に生きていくことができると考えていたのです。その年神様の象徴となるものが『鏡餅』で、正月にお供えした鏡餅を年寄りが年少者にお下がりとして分け与えたのが『お年玉』の始まりとされます」

Q.お年玉を渡すようになったのは、いつからでしょうか。

齊木さん「お年玉がいつから始まったかは諸説ありますが、江戸時代には庶民にも浸透していたといわれています。年神様から『新しい魂』をもらえるのは家長だけ、つまり、ほとんどは家長である父親だけだったので、父親は神様からもらった目に見えない『魂』を目に見える形にして、家族や奉公人に分け与えるようになりました。

現代のように、餅ではなくお金を渡すようになったのは昭和30年代後半とされています。団塊の世代が成長して家族数が増えたことや都市部の世帯数も増えたことによって、それぞれの家庭で餅をついて、年神様へ供えること自体が減少し、手軽に準備できるお金に変わっていったというのが主な背景です。高度経済成長の影響もあって、都市部を中心にお金が主流になっていき、お年玉を贈る相手も子どもが対象になっていきました」

Q.なぜ、「お年玉」と呼ぶのですか。

齊木さん「先述したように、お年玉はお迎えした年神様から、その1年分の魂を分けてもらうものです。ここでいう魂とは『気力』『生きる力』の意味があり、この鏡餅に宿った魂を『御年魂(おとしだま)』として家族に分け与えました。この『年神様の魂』を“としだま”としたことから、『お年玉』となったという説が有力です。また、1年の最初に賜るものとして『年賜(としたま)』と呼んだから、『お年玉』になったという説もあります」

Q.現代では、お年玉を渡す対象は基本的に子どもです。なぜでしょうか。大人が大人にお年玉を渡す風習はないのでしょうか。

齊木さん「お年玉には、子どもの無事な成長を願う意味もあるからです。また、元々は年寄りが年少者に渡すものであったことも理由と思われます。一方、現在でも、大人同士の間で、目上の者から目下の者に分け与える風習が残っています。主人から使用人へ、師匠から弟子へというように上下関係がしっかりした立場の人の間で行われています」

Q.お年玉は紙幣を入れるのが一般的です。お札を入れないといけないという「暗黙の了解」のようなものがあるのでしょうか。

齊木さん「バブル期の名残や核家族化の影響のほか、少子化でお年玉をあげる機会が少なくなったことなどから、お年玉の金額の相場が少し高めになっているようですが、硬貨では駄目という決まりはありません。お年玉を渡す相手の年齢に合わせて、適正な額を渡すのが好ましいでしょう。

ただし、ここで気を付けたいことは、紙幣や硬貨の表を正面にしてポチ袋に入れるようにすることです。紙幣は人物の肖像画がある方が表です。硬貨は製造年が刻印されている面が裏です。お金の入れ方をきちんとしておくと、細やかな気遣いを感じる心を持った子どもに育てられるのではないでしょうか」

Q.目上の人の子どもには、お年玉を渡しては失礼になるそうですが、なぜですか。例えば、兄や姉の子ども(おいやめい)に渡す場合も失礼になるのでしょうか。

齊木さん「先述した『目上の者から目下の者へ』という慣習に通じることですが、目上の人に現金を渡すのは失礼とされています。理由としては、そもそもの慣習に加えて、『これで好きなものを買いなさい』という上から目線の印象を与えてしまうことや『お金に困っている』と思っているメッセージにもつながるからです。目上の人の子どもに現金をあげるのも同様です。親御さんが十分なことができないからという意味合いにも取られかねません。お金を贈って、『これを足しにしてほしい』というのはやはり上から目線になり、不作法になります。

ただし、親戚や親しい間柄であれば、兄や姉の子どもであっても渡すのは問題ないとされています。恩師や上司など目上の人の子どもに渡す場合は『玩具料』『文具料』という名目で渡すのがよいでしょう。その場合も、上司と部下という関係性を気にする人もいると思いますので、現金ではなく図書カードや商品券にして渡すというのも一つの方法です」

Q.新型コロナの感染拡大で、年末年始に実家に帰省せず、子どもにお年玉を渡せない人も多いと思います。今回の正月はお年玉を渡すことを諦めた方がよいのでしょうか。

齊木さん「毎年、お年玉を渡す習慣がある人は、年に1度の楽しみが減るのもかわいそうと考える人も多いようですが諦める必要はありません。現在は、銀行振り込みや現金書留といった方法で送ることもできます。しかし、こうした状況下だからこそ、相手の立場にたって贈ってみてはどうでしょうか。

例えば、新たな年も外出が減って、本を読む機会が多いのであれば、大変な年をねぎらう気持ちを添えて図書カードを贈る、または、キャッシュレス決済のできるギフトカードや電子決済アプリを使うのも非接触のため、相互に安心感があるかもしれません。その場合は必ず、丁寧なメッセージを添えることをおすすめします。もらった人はどのように使ったか、できれば写真を付けて報告するとよいコミュニケーションになります。

また、あげるかあげないか迷う場合は親戚間で話し合い、無理をしないのも一つの選択肢です。金銭面でも大変な場合は『新型コロナの影響で経済的にも厳しい』ことを子どもにしっかりと伝えることで、金銭教育にもつながるのではないでしょうか」