政府が携帯電話料金の引き下げを大手3社に求める中、NTTドコモが月額2980円の新料金プラン「ahamo(アハモ)」を12月3日に発表し、大きな話題となりました。ところが、22日にはソフトバンクが同じく月額2980円の新料金プランを発表し、ドコモへの対抗意識を見せるなど、携帯電話業界では値下げ競争が本格化しつつあります。

 競争の激化は利用者にとって、本当に得なのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

企業イメージ維持、顧客囲い込み

Q.ドコモとソフトバンクが月額2980円の料金プランを相次いで打ち出しましたが、2社はなぜ、値下げに踏み切ったのでしょうか。

大庭さん「今回の値下げは政府の圧力も大きな要因ですが、大手携帯電話会社が値下げ競争を繰り広げる背景には『企業イメージの維持』『顧客の囲い込み』があります。

携帯電話料金の引き下げの議論は『国民の共有財産である公共の電波を使わせてもらっている民間会社のもうけが大きいのはいかがなものか』というところから始まりました。国民の関心も高いため、これを無視することは企業イメージの低下につながります。ブランドがあり、国民からの認知度も高い大企業にとって、企業イメージの低下は大きな事業損失につながりかねないため、値下げに踏み込んでいると思います。

また、企業イメージ以上に重要なのが顧客の囲い込みです。携帯電話会社は通信や通話以外にも、例えば、動画や電子書籍といったコンテンツ、スマホ決済サービスなど、さまざまなサービスを提供しており、それらを顧客に利用してもらうことで多大な収益を得ています。そのため、格安プランの提供も含めた値下げをすることで、顧客の流出を防ごうとするのは当然のことです。

以上の理由から、大手携帯会社が値下げに踏み切ることは必然であり、健全な対応だと思います」

Q.値下げ競争は利用者にとって、本当に得なのでしょうか。デメリットや弊害はないのでしょうか。

大庭さん「先述の通り、値下げ自体は問題ありません。そして、値下げ競争激化によって、利用者側には料金負担の軽減というメリットが生じます。

ただし、今回、2社が相次いで打ち出した安い料金プランはインターネット上での手続きが基本となっているため、SIMカード(スマホの通信機能を利用する際に必要なカード)のスマホへの装着やネットワークの設定、回線の切り替えなどを全て自身で行う必要があり、その作業がスムーズに進まなかった場合、通信や通話の利用に支障をきたすというデメリットが生じます。

一方、携帯電話会社側にとっては、値下げによって顧客数が増えるのであればメリットになりますが、実際は特定の会社のみ顧客が増えるということは想定しにくい状況のため、企業側にとって、目に見えるメリットは存在しないのではないでしょうか。

さらに、値下げ競争が激化した場合、各携帯電話会社の利益は減り続けます。企業は事業活動で得た利益の一部をサービス向上のための投資に回し、それにより、消費者の利便性が向上することで消費者から信頼が得られ、成長し続けます。いわば、消費者との間でウインウインの関係性が成り立つわけですが、それが崩れる可能性があります。

その典型として懸念されるのが、5G(第5世代移動通信システム)の整備の遅れです。通信速度の高速化や大容量化は利用者が待ち望むものですが、普及時期が遅れるという弊害が生じかねません」

Q.ドコモもソフトバンクも安い料金プランをつくることで、若い人を取り込む狙いがあるようですが、少子高齢化が進む中、その方針でよいのでしょうか。

大庭さん「先述したように、安い料金プランはインターネット上での手続きが基本となっており、若い人をメインターゲットにしています。若い人はスマホ一つで、生活に必要な対応の大半を済ませるのが当たり前になっており、各種のコンテンツサービスを提供する携帯電話会社にとって、若い人を取り込むことが事業の成長につながります。

しかし、少子高齢化が進めば、いずれは若い人をターゲットにしたビジネスモデルも成熟期を迎えるので、シニア層を取り込めるコンテンツサービスも開発していく必要があります」

Q.KDDI(au)は今のところ、2社の動きを静観しているようですが、なぜでしょうか。また、同社は来年1月に新料金プランを発表する可能性があるとメディアで報じられていますが、それが他社よりも高いプランだった場合、どのようなことが起きるのでしょうか。

大庭さん「KDDIが静観している理由は、ドコモを完全子会社化したNTTグループの動向を見定めるためです。携帯電話事業の共通の課題は5Gの整備ですが、それに関して、移動通信システムの基地局をつなぐ光回線設備を所有するNTTグループが、光回線の利用料金を高くすることでドコモの競合事業者を排除し、グループとしての利益を最大化するのではないかと懸念しています。

しかし、これまでに、大手3社のうちドコモとソフトバンクが値下げに踏み出しており、今後、KDDIが値下げに踏み切らなかった場合や、値下げしたものの他社よりも高い料金プランだった場合、顧客離れを引き起こす可能性が高いです。携帯電話の利用者には、キャリア(携帯電話会社)に対するこだわりのない人が多く存在するからです」

乗り換える際の注意点は?

Q.利用者が大手の安い料金プランに乗り換える際、気を付けるべきことは。

大庭さん「安い料金プランは従来の料金プランに比べて、1カ月に使用できるデータ通信量(ギガ数)が少ないため、これまで通りの使い方をすると通信量がすぐに上限に達してしまい、通信が不安定になります。

また、従来の料金プランで使えていた機能の一部が使えなくなる可能性もあるため、安い料金プランへ乗り換える場合、まず、今まで利用していたプランとの違いを正確に理解してください。その上で、乗り換えによって生じる変化をあらかじめ想定し、その対処方法をあらかじめ調べておくことが望ましいです」

Q.携帯電話に限らず、ビジネスの世界で値下げ競争が起きた場合、企業は競争に飛び込んでいかなければならないのでしょうか。それとも、値下げに頼らない経営は可能なのでしょうか。

大庭さん「企業が同業他社との競争に勝つために打ち出す戦略に関しては、値下げ競争(価格競争)と値下げ以外の面での競争(非価格競争)があります。

市場で高いシェアを持ち、市場に対する物やサービスの大量供給が可能な企業は薄利多売によるトータルでの利益額向上を目的とした値下げ競争を行うことが可能ですが、そうでない企業が値下げ競争に加わると自らの首を絞めることにつながりかねません。その場合、値下げ以外の面で勝負する必要があります。つまり、同業他社にはない付加価値を生み出し、それを市場(消費者)にアピールするのです。

例えば、自社で物やサービスの開発や製造、販売を手掛けているのであれば、斬新なデザインや同業他社にはない使い勝手のよい機能、アフターサービスなどの特典を付加価値としてアピールします。また、他社から仕入れた物を販売しているのであれば、同業他社にはない接客対応や提案力、返品を可能にするなどの特典を付加価値としてアピールするのです。そうすれば、値下げ競争に加わらなくても生き残ることができます」