先日、モデルの益若つばささんが自身のYouTubeチャンネルで「避妊リング(子宮内避妊器具)」を入れたことを公表し、話題になりました。以前から、生理不順や生理痛の改善のためにピルを飲んでいたという益若さんは、避妊リングを入れた友人の体験談を聞いてから、「いつか自分も」と思っていたといい、「年代や男女問わず、気軽に話し合えるきっかけになれたら」との思いから公表したそうです。

 避妊リングは高い避妊効果の他、生理痛の緩和や経血量の減少にも役立つとされており、ネット上では「興味あります」「生理痛が重いから気になる」といった声が上がる一方で、「生理痛改善のために入れているけど、避妊のための器具としてしか認識されていないと感じる」「ピルと同じで、いらぬ誤解を招きそうな名称」「男性だけでなく、女性にも正しく理解されていないと思う」など、名称から生まれかねない誤解を懸念する人もいます。

 避妊リングの効果や用途、名称を巡るさまざまな意見について、産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。

月経困難症の治療にも

Q.「避妊リング(子宮内避妊器具)」とは、どのようなものですか。

尾西さん「『避妊リング』とは、子宮内に入れて妊娠を防ぐ装置で、月経困難症などの治療に使われることも多いです。以前は輪っかの形状をしていたので『リング』と呼ばれていましたが、現在は挿入や抜去のしやすさなどから、T字形になっており、正式には『IUD(intrauterine device)』と呼ばれます。避妊効果を高めるために銅が付加されているタイプや、中から(女性ホルモンの一つ)黄体ホルモンが放出される『IUS』と呼ばれるタイプなど、いくつかの種類があります。

避妊できる仕組みですが、銅などを付加していないタイプは挿入することにより、子宮膜が軽い炎症状態となり、着床障害を起こすためといわれています。銅付加タイプは子宮内膜に作用して着床を防いだり、精子の運動を妨げたりすることで避妊効果をもたらします。黄体ホルモンの出るIUSは子宮内膜を薄くすることで着床を防いだり、子宮の入り口の粘液を変化させて、精子が子宮内に入りにくくしたりすることで、妊娠を防ぐ効果があります。

値段は種類によって異なり、2万〜5万円程度ですが、これは避妊を目的とした自費の場合です。生理痛がひどい『月経困難症』や生理時の経血量が多い『過多月経』の人は、黄体ホルモンを出すIUSを治療として使用することがあります。その場合は保険適用となるため、費用は8000〜1万円程度です。挿入は外来診療で可能です。挿入時に軽い下腹部痛があり、人によっては当日中、軽い生理痛のような痛みが数時間続くことがあるので、その場合は痛み止めを内服します」

Q.IUD(避妊リング)と低用量ピルとでは、効果に何らかの違いはあるのでしょうか。

尾西さん「避妊効果を示す際によく用いられる『パール指数』というものがあります。これは100人の女性が1年間、その避妊法を使った場合に妊娠する数をパーセンテージで示したものです。ピルは正確に内服した場合は0.27%ですが、飲み忘れなどを考慮した一般的な飲み方の場合は約8%とされています。一方、IUDは黄体ホルモンが放出されるIUSで0.2%、銅付加タイプで0.6%とされており、いずれもピルの一般的な避妊効果より高くなっています」

Q.それぞれのメリット/デメリットを教えてください。

尾西さん「先述のように避妊効果の高いIUDですが、『挿入前に検査が必要』『挿入時に少し痛みがある』『挿入のタイミングが月経の終わりかけの時期(5〜7日目ごろ)と限られている』『定期健診が必要(最初は1カ月、次に3カ月、6カ月、1年、その後は1年ごと)』といったデメリットがあります。

また、IUDは『5年間、入れっぱなしでいい』というメリットはあるものの、いざ抜きたいときは病院に行く必要があります。その点、ピルは中止のタイミングを自分で調整しやすいのがメリットといえます。費用の面では、ピルは毎月2000〜3000円(年間2万4000〜3万6000円)ですが、IUDは一時的に5万円程度かかります。ただ、5年間入れっ放しでよいと考えると、ピルよりも安くはなります。

なお、どちらの避妊法にもいえることですが、避妊はできても性感染症は予防できないので、性感染症の予防のためにもコンドームは併用してください」

Q.IUDは月経困難症などの治療において、どのような効果があるのでしょうか。

尾西さん「IUDの中でも、月経困難症などの治療に使われるのはIUS(商品名は『ミレーナ』)のみです。月経困難症や過多月経の治療の際、IUSから放出される黄体ホルモンの働きで、子宮の中の内膜(月経時に血液とともに出てくる部分)が薄くなり、経血量や生理痛の減少、子宮内膜症などの病気への効果がみられます」

Q.挿入することによる副作用もあるのでしょうか。

尾西さん「大きな副作用はありませんが、挿入後、長い人だと半年程度、だらだらと少量の不正出血が続くことがあります。それ自体は異常ではありませんが、どうしても不正出血が耐えられないという場合はやめた方がよいでしょう。また、めったにないことですが、出産や中絶の直後などの子宮が柔らかくなっている状態で挿入した場合、子宮を突き抜けて、おなかの中にIUDが入ってしまう『穿孔(せんこう)』が起こる危険性もあります」

Q.IUDの使用を推奨する人、推奨できない人(使用できない人)はそれぞれ、どのような人ですか。

尾西さん「おすすめするのは、生活リズムが不規則で、ピルだと飲み忘れることが多い人、生理痛がひどい人、経血量が多くて困っている人です。一方、おすすめできないのは、現在、クラミジアなどの性感染症を患っている人(治療後は挿入可)です。出産経験のない人も入れることは可能ですが、子宮の入り口が狭く、挿入しにくいため、病院によっては断られるケースもあります」

Q.「避妊リング」「子宮内避妊器具」といった名称から、「避妊リング=避妊目的だけに使うもの」というイメージや認識が先行し、「いらぬ誤解を招きそう」「治療にも使われるものなのに」と懸念する声も上がっているようです。

尾西さん「避妊リングもそうですし、ピルも同じ経緯で、まだまだ誤解されていることが少なくありません。しかし、産婦人科医として、これらは月経困難症や過多月経に悩む女性が生理を苦痛に思うことなく、普通に暮らせるようになるのに欠かせないアイテムだと思います。そうした流れから、最近では『IUD』『IUS』『ミレーナ』といった名称で呼ばれることも増えてきています。皆さんも会話などではこれらの名称を使い、普及させていってくださいね」